リスタート・オーバー ~人生詰んだおっさん、愛を知る~

中岡 始

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気づけば蓮の部屋にいる

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 鍵を閉める音が静かに響く。

 修一は無言のまま蓮の部屋に入り、馴染んだようにソファへと腰を下ろした。

 仕事終わり、気づけばここにいる。

 最初は断るつもりだった。

 毎回「泊まっていきませんか?」と誘われるたびに、「いや、さすがに悪いだろ」と言い訳していたはずだった。

 だが今では、断ることすら面倒になり、まるで自分の家に帰るかのように、自然と足が向くようになっていた。

 シャツの袖をまくりながら、ぼんやりと天井を見上げる。

「……俺、いつからお前んとこに入り浸るようになったんだ?」

 思わず呟くと、キッチンでグラスを準備していた蓮が、ふっと笑った。

「最初からそうなると思ってました」

「……は?」

 修一は眉をひそめるが、蓮はどこ吹く風といった様子で、グラスに氷を落とす。

「最初から、倉持さんがここに来るのは当然のことになると思ってましたよ」

「……何が当然だよ」

 納得がいかない。

 だが、言い返そうにも、蓮の言葉は妙にしっくりきてしまう。

 それが余計に悔しい。

 蓮は水を注いだグラスをテーブルに置き、自分も修一の隣に腰を下ろした。

「それに、倉持さん、もう普通に冷蔵庫開けてますよね?」

「……」

 ぐうの音も出なかった。

 確かに、ついさっきも無意識に冷蔵庫を開けて、麦茶を取り出していた。

 気づけば、蓮の部屋のものを自分の家のように使っている。

「……ここ、俺ん家じゃねぇよな?」

「ええ、俺の家です」

「だよな……」

 それなのに、不思議と落ち着く。

 自分のアパートよりも、ここのほうが帰ってきた感じがするのは、なんでだろうな――

 そんなことを考えていると、蓮がふっと笑った。

「もう、好きに使っていいですよ」

「……お前ん家なのに?」

「倉持さんのものを置いてもいいですし、鍵を渡してもいいです」

「……っ、お前な」

 思わず顔を背けた。

 軽く言っているようで、その実、言葉の意味は重い。

 それを、さらっと言い切る蓮の余裕が、心のどこかをくすぐる。

 深くため息をついて、修一はぼそりと呟いた。

「……調子に乗るなよ」

 けれど、自分でも驚くほど、拒絶の色は薄かった。
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