俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件～転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

転入初日、女子たちが騒ぎすぎてつらい

朝の澄んだ空気が広がる中、藤堂悠真は校門の前で足を止めた。

目の前には、近代的なデザインの校舎が広がっている。白を基調とした建物に、大きな窓。グラウンドでは体操服姿の生徒たちが軽く走っている。どこにでもある普通の学校の風景だった。

けれど、悠真にとっては違った。

つい昨日まで、彼はブラック企業の社畜だったのだ。朝の通勤ラッシュに揉まれ、満員電車の中で押しつぶされながら出勤し、無限に積み上がる業務をこなし、深夜まで働いていた。

それが今、制服姿の高校生として、この場所に立っている。

「…どうしてこうなったんだ」

思わず呟く。

それでも、考えても仕方がない。前世の記憶が残っている以上、今さら騒いでも意味はないし、どうにもならない。

机の上に置かれていた学生証を頼りに、悠真はこの学校まで来た。

学生証には「藤堂悠真　二年C組」と書かれていた。

とりあえず、自分はこの学園に転入することになっているらしい。

深く考えすぎると、社畜時代の思考回路が発動しそうだった。業務の指示書もなしに、いきなり現場に放り込まれるようなものだが、社畜経験者にとっては慣れたものだ。

「適応能力には自信がある…はずだ」

軽く息をつき、玄関へ向かった。

靴箱を探し、自分の名前が書かれた場所に上履きを入れ替える。周囲の生徒たちがチラチラとこちらを見ているのに気づいたが、気にしないことにした。

何もかもが新しい環境だ。まずはクラスに行くことが優先だった。

廊下を歩きながら、学生証に記載されていた「2年C組」の教室を探す。

ほどなくして、目的の扉の前に立った。

新学期の始業式の日、生徒たちはすでに集まっているようで、教室の中からは談笑する声が聞こえてくる。

少しだけ緊張する。

とはいえ、社畜として数々の修羅場をくぐってきた悠真にとって、高校生たちの輪に入ること自体はそこまで大きな問題ではない。

問題は、自分の立場だった。

転入生。

つまり、このクラスにとっては「突然現れた謎の存在」になるわけだ。

場の空気を乱さないように、無難に自己紹介を済ませ、適当に目立たずやり過ごす。それが当面の目標だった。

深呼吸をして、教室の扉を開ける。

その瞬間、空気が変わった。

「え、誰！？」

「ちょっと待って、めっちゃイケメンなんだけど…！」

「モデル…？いや、芸能人レベルじゃない？」

「なにこれ、漫画か？」

ざわめきが一気に広がる。

悠真は、教室全体の視線が自分に集中していることをはっきりと感じた。

「…は？」

思わず素の声が出た。

予想外の反応だった。

いや、転入生が珍しいのは分かる。けれど、ここまで騒がれるほどのことだろうか。

まるで、芸能人がサプライズで登場したかのような騒ぎだ。

女子たちの視線が、あからさまに熱を帯びている。

そして、その中心にいるのは自分だった。

「藤堂くん、どこから来たの？」

「彼女いるの？」

「放課後、空いてる？」

次々に飛んでくる質問に、悠真は一瞬言葉を失った。

なぜこんなに積極的なのか。

前世では、こんな経験は皆無だった。

どちらかといえば、影が薄い方だったはずだ。営業職ではあったが、どれだけ頑張っても、得意先の担当者に雑に扱われることの方が多かった。

それが今、転入初日でこんな状況になっている。

混乱しながらも、社畜時代の思考がフル回転する。

（これは…新規営業の囲い込みか？マーケティング施策か？）

短時間でこれだけの関心を引くとは、相当な宣伝効果がある。

（こんな短期間で顧客獲得するなんて、営業力すごすぎないか？）

いや、自分は何もしていない。ただ教室に入っただけだ。

それなのに、この熱狂ぶりはどういうことなのか。

「お前、チート級にモテすぎだろ…」

近くにいた男子生徒が呆れたように言った。

悠真は、ようやく違和感の正体に気づいた。

つまり、自分の外見があまりにも整いすぎているから、こんなことになっているのだ。

転生後の自分の容姿を、まだ完全には理解していなかったが、明らかに一般的な高校生の範囲を超えている。

だからこそ、初対面の女子たちが過剰に反応しているのだろう。

「いやいや、こんなに好かれるはずがない。何か裏があるはず…」

悠真は、根拠のない好意を素直に受け取れない自分に気づいた。

社畜の悲しい性だった。