俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件～転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

唯一冷静な男、藤崎颯斗と初遭遇

担任教師が、黒板の前で悠真を手招きした。

「それでは、転入生を紹介する。藤堂悠真だ。藤堂、前に出て自己紹介を」

悠真は、視線を集めるのに慣れていないわけではなかった。

社畜時代には、クライアントの前でプレゼンをしたこともあるし、社内会議で無理な提案を通すために何度も説明をした経験がある。だが、今回はまったくの別物だった。

目の前の生徒たちは、まるで芸能人でも見るかのような目でこちらを見ている。特に女子の視線は熱を帯びていて、正直、気が抜けない。

（これ、マジで仕事じゃなくて良かった…取引先の接待並みに気疲れする…）

心の中でそう呟きながら、一歩前へ出る。

「藤堂悠真です。よろしくお願いします」

それだけ簡潔に述べると、教室中から歓声のような声が上がった。

「声までいいとか、どういうこと…！」

「ミステリアスな感じがまたかっこいい」

「絶対モテるやつじゃん」

なぜか女子たちが勝手に盛り上がっている。

悠真は、社畜としての習性で本能的に周囲の空気を読むが、ここで下手に愛想を振りまくと、後々面倒なことになると判断した。

転入初日で、すでに目立ちすぎている。これ以上、余計なトラブルを増やしたくなかった。

教師が「はいはい、静かに」と言って場を収めるが、完全には収まらない。

悠真は、空いている席を確認し、足を向けようとした。そのとき、ふと、じっとこちらを見ている視線を感じた。

騒ぎ立てることなく、悠真を静かに見ている男子生徒がいた。

短めの黒髪に、端正な顔立ち。派手さはないが、どことなく洗練された雰囲気を持っている。

騒ぐことも、興味津々に見つめることもなく、ただ淡々とこちらを観察しているようだった。

（なんか、やたら落ち着いてるやつがいるな…）

教室のほぼ全員が興奮気味に騒いでいる中で、唯一、平静を保っている存在。

興味を引かれるのは当然だった。

悠真が席につくと、その男子が、隣の席から声をかけてきた。

「お前、転入生のくせにすげぇ騒がれてるな」

少し低めの、落ち着いた声だった。

悠真は、まだざわついている教室の様子を見ながら、肩をすくめた。

「……俺も驚いてる」

謙遜ではなく、本心だった。

前世の自分が、ここまで注目を浴びるようなことは一度もなかった。営業としてそれなりに結果は出していたが、結局は組織の一部として埋もれていただけだ。

それが今、何もしなくても視線を集めている。

「てか、お前、その顔で自覚ないのか？」

不思議そうな声に、悠真は思わず首を傾げた。

「？？？」

言われている意味がわからない。

確かに、今朝鏡を見て自分の顔が変わっていることは理解した。けれど、それがここまでの騒ぎを生むほどのものなのか、実感が湧いていない。

「まあ、いいけどな」

男子生徒は、それ以上何かを言うこともなく、さらりと話を流した。

「藤崎颯斗はやと」

「え？」

「俺の名前」

「ああ…藤崎、か」

そういえば、まだ隣の席の人間が誰なのか、考えていなかった。

改めて見てみると、やはり冷静な雰囲気を纏っている。周囲がどれだけ騒がしくても動じず、まるで長年の経験を積んできた社会人のような余裕がある。

（こいつ、なんか社会人経験ありそうな落ち着きだな…）

同世代のはずなのに、どこか安心感がある。その感覚が妙に心地よかった。

「よろしく」

軽く挨拶を交わすと、颯斗は特に興味がなさそうに視線を外した。

まるで、「お前がどれだけ騒がれようが、俺には関係ない」と言わんばかりだった。

それが、悠真にはありがたかった。

こうして、悠真の学園生活が始まった。

社畜気質の転入生と、妙に落ち着いたクラスメイト。

このときはまだ、颯斗との関係が、ただのクラスメイト以上のものになるとは思いもしなかった。