俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始

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元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です

言わないけど、分かるやつ

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その日の講義がすべて終わったあと、悠真は構内の自販機前で颯斗を待っていた。  
事前に「夕方、空いてる」と連絡をもらっていたため、自然な流れで会う予定になっていた。

大学構内の喧騒は夕方に向けて徐々に静まり始め、学生の姿もまばらになっていた。  
陽の傾きが校舎の影を長く伸ばし、春の終わりを告げるような風が通り抜ける。

数分後、颯斗が現れた。

相変わらず感情を表に出さない表情。  
だが、どこか様子が違う気がした。  
悠真はそれに気づきながらも、何も言わずに飲み物を選んだ。

「お疲れ」

「……おう」

短いやり取り。いつもなら、颯斗の方から何か冗談めいた一言でもあるはずなのに、今日はそれもなかった。

悠真は缶コーヒーを選び、取り出し口から引き抜いた。

「講義、どうだった?」

「普通」

「へえ、教授、話長いって評判だったけど」

「……まあ、確かに」

返ってくる言葉は、どれも短い。

(あれ……?)

何気ない会話のはずなのに、どこか空気が重い。  
悠真はそれを言葉にせず、缶コーヒーを開けてひと口飲んだ。

気のせいだと思いたかった。  
だけど、それが気のせいではないことに気づくのに、そう時間はかからなかった。

「なんかあった?」

つい、口が先に動いていた。

颯斗は一瞬だけ、視線を外してから「別に」とだけ答えた。

「……そう」

そう返すしかなかった。  
普段の颯斗なら、冗談でごまかすか、「お前のせいだ」と笑って言ってくれる。  
けれど今日は違う。言葉の端に、微かに棘があるように感じた。

沈黙が落ちる。  
それを破るように、悠真が自分のペースで話を続けた。

「昼さ、たまたま同じ講義受けてた加賀ってやつに誘われて、一緒に学食行ったんだ」

颯斗は何も言わなかった。

「別に深い意味はないし、向こうもそんなつもりじゃなかったと思うけど……断れなかったんだよな、俺」

笑いながら言ったつもりだった。  
けれど、颯斗の反応はない。  
その静けさが、逆に悠真の中のざわつきを大きくしていく。

「……ごめん、なんか、妙な空気になってる?」

颯斗はふと立ち止まり、ポケットに手を突っ込んだまま、淡々と言った。

「別に。気にしてない」

「なら、いいけど」

それでも、気にしているのは明らかだった。  
悠真は言葉にしない違和感を抱えながら、ふたりで並んで歩き続ける。

いつもの帰り道。  
でも、どこか温度が違って感じた。

(付き合ってるって言ってないことが、こんなふうに影響するんだな)

高校のときは、少なくとも「藤堂と藤崎は付き合ってるらしい」という空気が自然に広がっていた。  
わざわざ説明する必要もなかったし、周囲も空気を読んでくれていた。

でも大学では、それがない。  
誰も自分たちの関係を知らない。  
それが“自由”である一方で、今のようなすれ違いの原因にもなる。

悠真は、自分の中に芽生えた不安をどう処理していいかわからなかった。  
きちんと「言う」べきだったのか?  
それとも、ただ今の自分の“曖昧な態度”が悪かったのか?

「……」

颯斗が立ち止まった。

「悪い、今日はここで帰るわ」

「え?」

「ちょっとやることある」

それだけ言うと、颯斗は脇道に入っていった。  
呼び止めることもできず、悠真はただ立ち尽くしていた。

取り残されたような気がした。

別に喧嘩をしたわけでもない。  
言い争いがあったわけでもない。  
でも、たったこれだけで、胸の奥にぽっかりと穴が開いたような気がした。

(なんで俺、こんなに焦ってるんだろう)

不意に、社畜時代の記憶が頭をよぎる。

「報告のタイミングを逃すと、関係がギクシャクする」  
「空気が変わったときに、それを放置するのは最悪の手だ」

新人時代に、よく言われた。  
でも、いまのこれは仕事じゃない。関係性だ。感情だ。

(でも、伝えなきゃいけないことって、結局同じなんだよな)

悠真はひとり、夕暮れの道を歩き出した。  
少しだけ、肩に風が冷たく感じられた。

誰も悪くない。  
だけど、確かに距離が生まれている。  
それが今、いちばん苦しかった。
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