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元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です
申し訳なさと気遣いのダブルパンチ
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講義が終わると同時に、ざわめく教室の中で椅子を引く音がいくつも重なった。
大学の昼休みは、高校と違って自由度が高い。
学食に向かう者、外のカフェに流れる者、キャンパスのベンチに直行する者。
それぞれの時間が、勝手に流れていく。
悠真はいつも通りノートを閉じ、無言で立ち上がった。
特に誰かと昼を共にする約束はしていない。颯斗もこの時間は別の学部の講義だ。
今日は一人で食べようと思っていた、そのときだった。
「藤堂くん!」
教室の出口近くから声が飛ぶ。
振り向くと、加賀が手を振りながら駆け寄ってきた。
同じ学年、同じ一般教養の講義を何度か一緒に受けている男子。
人懐っこい笑顔が印象的で、喋り方もどこか舌っ足らずで、犬系とでもいうべき雰囲気があった。
「よかったら、今日の昼、一緒に食べない? 学食、メニュー良さげだし」
突然の誘いに、悠真は一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「いや、今日はちょっと――」
断ろうとした、そのとき。
加賀の目が、キラキラとこちらを見上げてくる。
あまりにもまっすぐで、屈託がなくて、それでいてほんの少しの期待が滲んでいるように見えて。
悠真は口を閉じた。
(あれ…なんか、断りにくい)
次の瞬間には、自分でも驚くほど自然に言葉が出ていた。
「……うん、いいよ」
「ほんと? よかったー!」
満面の笑みを浮かべる加賀に、悠真は曖昧に微笑み返した。
そのまま歩き出した加賀の後ろ姿を見つめながら、心の中で小さくため息をつく。
(俺、また断れなかった…)
そして、すぐに思考は社畜モードに切り替わる。
(いや、これはあれだ。社内で部署の後輩に「ランチご一緒してもいいですか?」って言われて、
断ると空気が悪くなるやつ)
(頼まれて断れなくて、そのまま週三で同席する流れに持ち込まれて、地味にストレスが溜まるやつ)
(あのときも、笑顔の裏で胃が重かった。なんで俺、あのときから学んでないんだ…)
学食へ向かう途中、加賀は何か楽しそうに話していたが、悠真の返事は曖昧だった。
加賀はそれでも気にする様子もなく、どんどん話題を広げていく。
食堂に着く頃には、悠真はすでに“社交対応モード”に切り替わっていた。
笑顔、相づち、相手の話を遮らないタイミングの調整。
これまでの職場で培ったコミュニケーション技術が、まったく別の場面で発動していることに、どこか空しさすら覚える。
トレイに食事を乗せて、窓際の二人席に座る。
加賀は向かいで嬉しそうに席についた。
「藤堂くんって、落ち着いてるけど、話すと意外と優しいよね」
「高校どこだったの? モテたでしょ、絶対」
「趣味って何? あんまり外で遊ぶ感じじゃないよね」
矢継ぎ早に投げかけられる言葉に、悠真は笑顔を保ちながら受け流す。
だが、その会話の途中でふと、視線を感じた。
何気なく顔を上げると、食堂の出入り口近く、ガラス越しに立っているひとりの男が目に入った。
颯斗だった。
彼は少し離れた位置からこちらを見ていた。
目が合った――と思った瞬間、視線はすぐに逸らされ、何も言わずに踵を返して立ち去っていった。
その背中を見送ることしかできなかった。
声をかけるタイミングもなかった。
そして、なぜかそれが、妙に胸に引っかかった。
(……あいつ、見てたよな)
別に、やましいことはしていない。
ただ昼を一緒に食べていただけだ。
けれど、その“ただ”の感覚が、どこかで引っかかる。
(…もしかして、誤解された?)
あるいは、そうでなくても。
(なんか、言ったほうがいいのか?)
加賀の笑い声が遠くに聞こえた。
相槌を返すふりをしながら、悠真の思考はまったく別のところに飛んでいた。
目の前の相手には、悪気なんてひとつもない。
ただ、ほんの少し距離が近くて、ほんの少し好意をにじませていて。
それを断れなかった自分は、何を守りたかったのか。
何を恐れていたのか。
(……俺、今、ちゃんと“彼氏”やれてるのか?)
そんな問いが、ひっそりと胸に浮かんで消えた。
隣の加賀がトレイの端を指さして笑っていた。
「藤堂くん、味噌汁のフタ、半分ずれてるよ。気づいてなかったでしょ」
「あ……ああ、ほんとだ。ありがとう」
当たり前のように返した言葉が、自分のものじゃないように感じられた。
その違和感だけが、ずっと喉の奥に残っていた。
大学の昼休みは、高校と違って自由度が高い。
学食に向かう者、外のカフェに流れる者、キャンパスのベンチに直行する者。
それぞれの時間が、勝手に流れていく。
悠真はいつも通りノートを閉じ、無言で立ち上がった。
特に誰かと昼を共にする約束はしていない。颯斗もこの時間は別の学部の講義だ。
今日は一人で食べようと思っていた、そのときだった。
「藤堂くん!」
教室の出口近くから声が飛ぶ。
振り向くと、加賀が手を振りながら駆け寄ってきた。
同じ学年、同じ一般教養の講義を何度か一緒に受けている男子。
人懐っこい笑顔が印象的で、喋り方もどこか舌っ足らずで、犬系とでもいうべき雰囲気があった。
「よかったら、今日の昼、一緒に食べない? 学食、メニュー良さげだし」
突然の誘いに、悠真は一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「いや、今日はちょっと――」
断ろうとした、そのとき。
加賀の目が、キラキラとこちらを見上げてくる。
あまりにもまっすぐで、屈託がなくて、それでいてほんの少しの期待が滲んでいるように見えて。
悠真は口を閉じた。
(あれ…なんか、断りにくい)
次の瞬間には、自分でも驚くほど自然に言葉が出ていた。
「……うん、いいよ」
「ほんと? よかったー!」
満面の笑みを浮かべる加賀に、悠真は曖昧に微笑み返した。
そのまま歩き出した加賀の後ろ姿を見つめながら、心の中で小さくため息をつく。
(俺、また断れなかった…)
そして、すぐに思考は社畜モードに切り替わる。
(いや、これはあれだ。社内で部署の後輩に「ランチご一緒してもいいですか?」って言われて、
断ると空気が悪くなるやつ)
(頼まれて断れなくて、そのまま週三で同席する流れに持ち込まれて、地味にストレスが溜まるやつ)
(あのときも、笑顔の裏で胃が重かった。なんで俺、あのときから学んでないんだ…)
学食へ向かう途中、加賀は何か楽しそうに話していたが、悠真の返事は曖昧だった。
加賀はそれでも気にする様子もなく、どんどん話題を広げていく。
食堂に着く頃には、悠真はすでに“社交対応モード”に切り替わっていた。
笑顔、相づち、相手の話を遮らないタイミングの調整。
これまでの職場で培ったコミュニケーション技術が、まったく別の場面で発動していることに、どこか空しさすら覚える。
トレイに食事を乗せて、窓際の二人席に座る。
加賀は向かいで嬉しそうに席についた。
「藤堂くんって、落ち着いてるけど、話すと意外と優しいよね」
「高校どこだったの? モテたでしょ、絶対」
「趣味って何? あんまり外で遊ぶ感じじゃないよね」
矢継ぎ早に投げかけられる言葉に、悠真は笑顔を保ちながら受け流す。
だが、その会話の途中でふと、視線を感じた。
何気なく顔を上げると、食堂の出入り口近く、ガラス越しに立っているひとりの男が目に入った。
颯斗だった。
彼は少し離れた位置からこちらを見ていた。
目が合った――と思った瞬間、視線はすぐに逸らされ、何も言わずに踵を返して立ち去っていった。
その背中を見送ることしかできなかった。
声をかけるタイミングもなかった。
そして、なぜかそれが、妙に胸に引っかかった。
(……あいつ、見てたよな)
別に、やましいことはしていない。
ただ昼を一緒に食べていただけだ。
けれど、その“ただ”の感覚が、どこかで引っかかる。
(…もしかして、誤解された?)
あるいは、そうでなくても。
(なんか、言ったほうがいいのか?)
加賀の笑い声が遠くに聞こえた。
相槌を返すふりをしながら、悠真の思考はまったく別のところに飛んでいた。
目の前の相手には、悪気なんてひとつもない。
ただ、ほんの少し距離が近くて、ほんの少し好意をにじませていて。
それを断れなかった自分は、何を守りたかったのか。
何を恐れていたのか。
(……俺、今、ちゃんと“彼氏”やれてるのか?)
そんな問いが、ひっそりと胸に浮かんで消えた。
隣の加賀がトレイの端を指さして笑っていた。
「藤堂くん、味噌汁のフタ、半分ずれてるよ。気づいてなかったでしょ」
「あ……ああ、ほんとだ。ありがとう」
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その違和感だけが、ずっと喉の奥に残っていた。
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