俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始

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元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です

怖かった。お前に嫌われるのが

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夜の空気は、昼間の名残をわずかに含んでいて、生ぬるい風が街路樹を揺らしていた。  
講義のあとに少しだけファストフード店で時間を潰し、ふたりは自然と駅までの道を歩いていた。  

会話はなかった。  
どちらが話そうともしないまま、時間だけが過ぎていく。  

並んで歩く距離は、いつもと同じはずだった。  
けれど、心の中に感じる距離は、どこまでも遠く思えた。

信号が赤に変わるタイミングで立ち止まり、悠真はふと視線を落とした。  
地面に伸びる影が、ふたつ並んで揺れている。  
その影すら、触れ合ってはいなかった。

「なあ、颯斗」  
自分でも驚くくらいの、か細い声だった。  

隣の気配が少し動き、颯斗が目線を向けたのを感じた。  
でも、悠真は顔を上げなかった。  

「…高校のときは、言っても大丈夫って思えてたんだ」  
ゆっくりと、噛みしめるように言葉を続ける。  
「お前と付き合ってるって、周りに話しても、たぶん平気だって。どこかでそう思えてた」  

信号が青に変わる。  
ふたりはまた歩き出した。  

「でも、今は…違うんだ」  

その言葉に、颯斗は何も言わなかった。  
その無言に救われた気もしたし、責められている気もした。  

「なんかさ…大学に入って、世界が広くなって、自分がどこにいるか分かんなくなったというか」  
「誰が何を思ってるか分からなくて、怖くなったんだ」  

歩道を照らすオレンジの街灯が、ふたりの影を長く伸ばしていた。  
悠真はその影を見つめながら、声を絞り出した。  

「ほんとはさ、ちゃんとお前のこと言いたかったよ」  
「“彼氏がいる”って、言いたかった。言って、“だから無理です”って、ちゃんと断れたらよかった」  

口にするたびに、胸の奥がひりひりと痛んだ。  
今さら何を言っても遅いのかもしれない。  
それでも、言わなければ何も変わらないと、ようやく分かった。  

「でも…怖かったんだ」  

その言葉が夜の空気に溶けていく。  

「お前に、嫌われるのが」  

沈黙が落ちる。  
頬をかすめる風が、ほんの少しだけ冷たく感じた。  

「なんで?」  
静かな声が返ってくる。  

悠真は、しばらく黙っていた。  
理由なんて、うまく説明できるものじゃない。  
けれど、それでも答えようとした。  

「言ったあとに、何かが変わるのが怖かった」  
「お前が怒るとか、呆れるとか、そういうのじゃなくても…俺のせいでお前が困るんじゃないかって」  

「それって」  

颯斗の声が、わずかに低くなる。  
振り向かなくても、表情が変わったのが分かった。  

「それ、俺のこと信用してないってことか?」  

悠真は、言葉を失った。  
違う、とは言えなかった。  
否定するには、あまりにも核心を突かれていた。

「……分かんない」  
それが、やっと出てきた答えだった。  

「信じてないわけじゃない。けど…全部、信じられるほど、自分に自信がなかったんだと思う」  

そう呟くと、風がすっと頬を撫でた。  
遠くで車のクラクションが鳴り、それさえもどこか遠い音に聞こえた。

「お前は、俺のこと見てくれるだろ」  
「でも俺、自分のこと、ちゃんと見られてなかった」  
「だから、信じたくても、どうしてもどこかで躊躇してた」  

足元に落ちた自分の影が、揺れていた。  
心の揺れを映しているみたいだった。  

「……ごめん」  

その一言を、もう何度目か分からないほど繰り返していた。  
でも、それ以外に言えることがなかった。

颯斗は、それ以上何も言わなかった。  
責めることも、なぐさめることもなかった。  
けれど、逃げるような素振りも見せなかった。

そのまま、ふたりは歩き続けた。  

手は繋がない。  
触れ合うこともない。  
だけど、隣を歩く歩幅は、なぜかぴったりと合っていた。

信じるということは、きっと簡単な言葉ではなくて、  
時間をかけて築いていくものなのだと思った。  

そして今、自分はそのスタート地点にようやく立ったばかりなのだとも。  

沈黙のまま歩く道が、  
ほんの少しだけ、あたたかく感じられた。
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