俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始

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元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です

お前、なんで“頼られる”のが当然だと思ってんだよ

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午後の講義が終わったばかりの教室。  
教科書や資料を鞄に押し込んで、悠真は立ち上がった。  
あまりにも自然な動作だった。  
疲れはあったけれど、それすらも身体の一部のように馴染んでしまっていて、気にする暇もなかった。  

少し前から続いている寝不足。  
寒さでこわばった身体を無理やり起こし、朝から授業、空き時間はゼミの準備、夜はバイト。  
そんな日々が続いていた。  
けれど、別に誰かに無理を強いられているわけじゃない。  
全部、自分で「やる」と決めたことだった。  

そう思っていた。  

教室を出て、サークル棟に向かおうとしたとき、不意に名前を呼ばれた。  

「悠真」  

声の主は颯斗だった。  
いつもと変わらない、落ち着いたトーン。  
だが、その一言だけで、悠真は思わず足を止めてしまった。  

「ちょっと待て。お前、最近寝てんのか?」  

その問いに、悠真は咄嗟に笑ってみせた。  
「何それ、急に。大丈夫だって。ちょっと疲れてるだけ」  

笑いながらも、口調は軽く、表情もできるだけ普段通りに保ったつもりだった。  
けれど、颯斗の眉はわずかに動いた。  

「……それ、いつも言ってるよな」  

悠真は返す言葉に詰まった。  

確かに、最近ずっと「大丈夫」と言い続けていた。  
疲れた日も、眠れていない日も、バイトでミスをしそうになった日も、  
全部「平気だよ」と口にして、誰にも見せなかった。  

「悠真」  

名前を呼ばれて、ようやく真正面から視線を合わせる。  
颯斗の目は、静かだった。  
怒っているようには見えない。  
けれど、その奥に、何かが沈んでいた。  

「……お前、なんで“頼られる”のが当然だと思ってんだよ」  

その言葉は、思いのほか鋭く、悠真の胸の奥を刺した。  

思わず口を開きかけたが、言葉が出なかった。  

「誰かに頼られることが嬉しいのは分かる。でもさ」  
「お前、それが当たり前になってる。断るっていう選択肢、ほんとになくなってるよ」  

語気は強くなかった。  
けれど、その一言一言が、悠真の心にずしりと響いた。  

頬に当たる風が、冷たい。  
視線を外して地面を見ると、足元のタイルにうっすらと白い雪が積もっていた。  
気づかぬうちに、季節は深く冬に差しかかっていた。  

「……俺、別に誰かに押しつけられてるわけじゃないし」  
小さく、そうこぼすように言った。  
「自分で“やる”って決めたことだし」  

「それが一番怖いんだよ」  

颯斗の言葉は静かだった。  

「お前、自分で選んでるつもりで、ただ“選ばされてる”だけになってないか?」  

胸の奥に、妙な痛みが走った。  

言われたことが図星だったわけじゃない。  
だけど、その言葉が、ずっとどこかで考えていたことと重なって、ぐらりと足元が揺れるような感覚があった。  

「誰も“無理してやってくれ”なんて言ってない」  
「なのにお前は、自分で自分をしばりつけてる」  

その声に、責める色はなかった。  
それでも、悠真の中で何かが崩れていくのを感じた。  

「……ごめん」  

ようやくそれだけを絞り出したとき、小さく咳き込んだ。  
喉の奥がひりつく。  
ここ数日の乾燥と疲れが、少しずつ身体を削っていた。  

颯斗が無言でポケットから何かを取り出す。  
手のひらに、飴の包み紙が乗った。  
のど飴だった。  

「……ありがとう」  

包みを受け取ると、颯斗はそのまま歩き出した。  
無言のまま、校舎の裏手にあるベンチへ。  
雪がうっすら積もった木のベンチに、彼が腰を下ろす。  

促されるように、悠真もその隣に座った。  
冷たい座面に身体を落ち着けると、ようやく深く息ができた気がした。  

「……なんで怒ったの」  

悠真が呟くように聞いた。  
すると、隣からすぐに返ってきた。  

「怒ってない」  

その言い方は、まるで当然のことのようだった。  

「ただ、言いたくなっただけ」  
「……言ってくれて、よかった」  

颯斗は何も言わなかった。  
けれど、それが返事なのだと分かった。  

冷たい空気の中、ふたりは言葉を交わさず並んで座っていた。  
それでも、心のどこかで確かに、何かが近づいた気がした。  

静かな怒りの裏にあったのは、ただの不満でも苛立ちでもなかった。  
大事だからこそ、黙っていられなかった。  
そのことが、何よりも悠真の胸に沁みた。  

誰かに“心配される”ということの重さを、初めて本当の意味で理解した気がした。  
冷たい風の中、のど飴を口に含んだ小さな温かさが、心の奥にじんわりと広がっていった。
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