俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始

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元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です

ひとりの時間って、前はもっと楽だった

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夜のバイトを終えて部屋に戻ると、なんとなく空気が重たく感じられた。  
それは天気のせいかもしれなかったし、自分の疲れのせいかもしれなかった。  
あるいは、部屋の空気が、もう何時間も誰の気配も感じていなかったからかもしれない。  

鍵を閉めて、鞄をソファに置く。  
冷蔵庫を開けて、ペットボトルの麦茶を取り出す。  
一口飲んでも喉が潤う気はせず、そのままカーテンを閉めた。  

部屋は静かだった。  
テレビを点ける気にもなれず、スマホを手に取る。  
新しい通知はなかった。  

連絡しようかどうか、数秒だけ迷った。  
でも、何を送ればいいのか分からなくて、結局スマホを伏せてテーブルに戻す。  

「今日は連絡しなくていいか」  

そう思うのは、これが初めてだった。  
忙しいのは分かっている。  
ここ数週間、颯斗は研究室に入り浸りのような状態で、教授とのやり取りやレポート作成、データの整理とやらに追われている。  
一緒に過ごす時間は確実に減っていて、それでも悠真は頑張って受け入れてきたつもりだった。  

会えない理由がちゃんとあるなら、責めるつもりはなかった。  
でも、それと同じくらい、寂しさは勝手に膨らんでいた。  

手持ち無沙汰に本棚から読みかけの本を取り出し、ページをめくる。  
頭には入らなかった。  
内容が難しいわけでも、文章が退屈なわけでもない。  
ただ、心が上の空だった。  

以前の自分なら、こんなひとりの時間を気ままに楽しめていたはずだった。  
誰とも会わず、誰とも話さず、本を読んで、音楽を聴いて、好きな料理を作って、それだけで一日が穏やかに終わっていた。  

でも今は、何をしても“間”を埋めているだけのように感じる。  

スマホが一度だけ震えた。  
画面を確認すると、颯斗からだった。  

「ごめん、明日も遅くなるかも」  

短い文章。  
絵文字も、句読点もなかった。  
それが、颯斗らしいと言えばらしかったけれど、  
今夜の悠真には、その“素っ気なさ”がほんの少しだけ冷たく映った。  

「了解」とだけ打ち込みかけて、消した。  
いったん手を止めて、画面を閉じた。  

別に怒っているわけじゃない。  
ただ、反応することすら億劫に思えた。  

返信を送らずにスマホを伏せると、部屋の中にまた静けさが戻ってくる。  
その静けさが、今日はどこまでも広がって、自分の存在を薄くしていくような気がした。  

これが“ひとりの時間”だというのなら、前はもっと楽だった。  
もっと自由で、気楽で、誰のことも考えずに済んだ。  
でも今は、ひとりでいることがこんなに不安になる。  

いつからだろう。  
隣に誰かがいることが、“特別”じゃなくなったのは。  
一緒にいるのが当然で、話すのが日常で、  
それが少しでも途切れると、足りないと感じてしまう。  

それだけ、あの人に気持ちを預けすぎていたのかもしれない。  
それだけ、もう自分はひとりでは完結できなくなっていたのかもしれない。  

頬杖をついて、うつむいたまま目を閉じる。  
深く息を吐いて、心の奥から出てきた言葉が、思わず口の中にこぼれた。  

「ずっと一緒にいたいと思ってたけど……それだけじゃ、ダメなのか」  

好きだから、そばにいたい。  
だけど、“そばにいる”ということは、  
ただ隣に座ることでも、同じ屋根の下にいることでもなくて、  
心がちゃんと触れ合っていなければ意味がない。  

それに気づいたとき、胸の奥がかすかに軋んだ。  

会えないことが寂しいんじゃない。  
気持ちが通じ合っている自信が、少しずつ削られていくのが怖いのだ。  

そんなこと、言えるわけもなく。  
今夜もまた、ベッドに入り、ただ静かに明かりを消すだけだった。  

寝返りを打っても、布団の中はひとり分の体温しかなかった。  
それが、思っていた以上に寒いと感じた夜だった。
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