78 / 103
元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です
ひとりの時間って、前はもっと楽だった
しおりを挟む
夜のバイトを終えて部屋に戻ると、なんとなく空気が重たく感じられた。
それは天気のせいかもしれなかったし、自分の疲れのせいかもしれなかった。
あるいは、部屋の空気が、もう何時間も誰の気配も感じていなかったからかもしれない。
鍵を閉めて、鞄をソファに置く。
冷蔵庫を開けて、ペットボトルの麦茶を取り出す。
一口飲んでも喉が潤う気はせず、そのままカーテンを閉めた。
部屋は静かだった。
テレビを点ける気にもなれず、スマホを手に取る。
新しい通知はなかった。
連絡しようかどうか、数秒だけ迷った。
でも、何を送ればいいのか分からなくて、結局スマホを伏せてテーブルに戻す。
「今日は連絡しなくていいか」
そう思うのは、これが初めてだった。
忙しいのは分かっている。
ここ数週間、颯斗は研究室に入り浸りのような状態で、教授とのやり取りやレポート作成、データの整理とやらに追われている。
一緒に過ごす時間は確実に減っていて、それでも悠真は頑張って受け入れてきたつもりだった。
会えない理由がちゃんとあるなら、責めるつもりはなかった。
でも、それと同じくらい、寂しさは勝手に膨らんでいた。
手持ち無沙汰に本棚から読みかけの本を取り出し、ページをめくる。
頭には入らなかった。
内容が難しいわけでも、文章が退屈なわけでもない。
ただ、心が上の空だった。
以前の自分なら、こんなひとりの時間を気ままに楽しめていたはずだった。
誰とも会わず、誰とも話さず、本を読んで、音楽を聴いて、好きな料理を作って、それだけで一日が穏やかに終わっていた。
でも今は、何をしても“間”を埋めているだけのように感じる。
スマホが一度だけ震えた。
画面を確認すると、颯斗からだった。
「ごめん、明日も遅くなるかも」
短い文章。
絵文字も、句読点もなかった。
それが、颯斗らしいと言えばらしかったけれど、
今夜の悠真には、その“素っ気なさ”がほんの少しだけ冷たく映った。
「了解」とだけ打ち込みかけて、消した。
いったん手を止めて、画面を閉じた。
別に怒っているわけじゃない。
ただ、反応することすら億劫に思えた。
返信を送らずにスマホを伏せると、部屋の中にまた静けさが戻ってくる。
その静けさが、今日はどこまでも広がって、自分の存在を薄くしていくような気がした。
これが“ひとりの時間”だというのなら、前はもっと楽だった。
もっと自由で、気楽で、誰のことも考えずに済んだ。
でも今は、ひとりでいることがこんなに不安になる。
いつからだろう。
隣に誰かがいることが、“特別”じゃなくなったのは。
一緒にいるのが当然で、話すのが日常で、
それが少しでも途切れると、足りないと感じてしまう。
それだけ、あの人に気持ちを預けすぎていたのかもしれない。
それだけ、もう自分はひとりでは完結できなくなっていたのかもしれない。
頬杖をついて、うつむいたまま目を閉じる。
深く息を吐いて、心の奥から出てきた言葉が、思わず口の中にこぼれた。
「ずっと一緒にいたいと思ってたけど……それだけじゃ、ダメなのか」
好きだから、そばにいたい。
だけど、“そばにいる”ということは、
ただ隣に座ることでも、同じ屋根の下にいることでもなくて、
心がちゃんと触れ合っていなければ意味がない。
それに気づいたとき、胸の奥がかすかに軋んだ。
会えないことが寂しいんじゃない。
気持ちが通じ合っている自信が、少しずつ削られていくのが怖いのだ。
そんなこと、言えるわけもなく。
今夜もまた、ベッドに入り、ただ静かに明かりを消すだけだった。
寝返りを打っても、布団の中はひとり分の体温しかなかった。
それが、思っていた以上に寒いと感じた夜だった。
それは天気のせいかもしれなかったし、自分の疲れのせいかもしれなかった。
あるいは、部屋の空気が、もう何時間も誰の気配も感じていなかったからかもしれない。
鍵を閉めて、鞄をソファに置く。
冷蔵庫を開けて、ペットボトルの麦茶を取り出す。
一口飲んでも喉が潤う気はせず、そのままカーテンを閉めた。
部屋は静かだった。
テレビを点ける気にもなれず、スマホを手に取る。
新しい通知はなかった。
連絡しようかどうか、数秒だけ迷った。
でも、何を送ればいいのか分からなくて、結局スマホを伏せてテーブルに戻す。
「今日は連絡しなくていいか」
そう思うのは、これが初めてだった。
忙しいのは分かっている。
ここ数週間、颯斗は研究室に入り浸りのような状態で、教授とのやり取りやレポート作成、データの整理とやらに追われている。
一緒に過ごす時間は確実に減っていて、それでも悠真は頑張って受け入れてきたつもりだった。
会えない理由がちゃんとあるなら、責めるつもりはなかった。
でも、それと同じくらい、寂しさは勝手に膨らんでいた。
手持ち無沙汰に本棚から読みかけの本を取り出し、ページをめくる。
頭には入らなかった。
内容が難しいわけでも、文章が退屈なわけでもない。
ただ、心が上の空だった。
以前の自分なら、こんなひとりの時間を気ままに楽しめていたはずだった。
誰とも会わず、誰とも話さず、本を読んで、音楽を聴いて、好きな料理を作って、それだけで一日が穏やかに終わっていた。
でも今は、何をしても“間”を埋めているだけのように感じる。
スマホが一度だけ震えた。
画面を確認すると、颯斗からだった。
「ごめん、明日も遅くなるかも」
短い文章。
絵文字も、句読点もなかった。
それが、颯斗らしいと言えばらしかったけれど、
今夜の悠真には、その“素っ気なさ”がほんの少しだけ冷たく映った。
「了解」とだけ打ち込みかけて、消した。
いったん手を止めて、画面を閉じた。
別に怒っているわけじゃない。
ただ、反応することすら億劫に思えた。
返信を送らずにスマホを伏せると、部屋の中にまた静けさが戻ってくる。
その静けさが、今日はどこまでも広がって、自分の存在を薄くしていくような気がした。
これが“ひとりの時間”だというのなら、前はもっと楽だった。
もっと自由で、気楽で、誰のことも考えずに済んだ。
でも今は、ひとりでいることがこんなに不安になる。
いつからだろう。
隣に誰かがいることが、“特別”じゃなくなったのは。
一緒にいるのが当然で、話すのが日常で、
それが少しでも途切れると、足りないと感じてしまう。
それだけ、あの人に気持ちを預けすぎていたのかもしれない。
それだけ、もう自分はひとりでは完結できなくなっていたのかもしれない。
頬杖をついて、うつむいたまま目を閉じる。
深く息を吐いて、心の奥から出てきた言葉が、思わず口の中にこぼれた。
「ずっと一緒にいたいと思ってたけど……それだけじゃ、ダメなのか」
好きだから、そばにいたい。
だけど、“そばにいる”ということは、
ただ隣に座ることでも、同じ屋根の下にいることでもなくて、
心がちゃんと触れ合っていなければ意味がない。
それに気づいたとき、胸の奥がかすかに軋んだ。
会えないことが寂しいんじゃない。
気持ちが通じ合っている自信が、少しずつ削られていくのが怖いのだ。
そんなこと、言えるわけもなく。
今夜もまた、ベッドに入り、ただ静かに明かりを消すだけだった。
寝返りを打っても、布団の中はひとり分の体温しかなかった。
それが、思っていた以上に寒いと感じた夜だった。
52
あなたにおすすめの小説
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜
ホノム
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。
――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん!
ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在――いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。
これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…?
ちょっと困るって!これは法的事案だよ……!
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる