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軍服にしか見えない制服
朝食を終えたあと、再び自室に戻った悠翔は、部屋の隅に置かれた見慣れない箱の存在に気がついた。
昨日のうちに届いていたらしい。銀色のラインが入った白いパッケージには、校章のようなロゴが印刷されていて、箱自体が妙に格式ばっていた。まるで、式典用の品か何かのようだった。
「これが……制服?」
つぶやきながら、箱のフタをそっと開ける。まず目に飛び込んできたのは、漆黒のブレザーだった。
布地はやや厚めで、質感は滑らか。だが何より目を引いたのは、その縁を走る金のパイピングだった。きっちりと丁寧に縫い込まれたそのラインが、光の角度で鈍く輝く。
「えっ……ちょ、待って」
無意識のまま、それを手に取る。
袖を軽く引いて全体を広げてみると、肩のラインにあしらわれた銀の刺繍が目に入った。襟元には校章と思われるバッジがついている。金と銀の交差する模様、ブレザーの裾に沿った細かなライン、カフスボタンの意匠…。
「いや、どう見ても黒星騎士団の準礼装なんですけど…」
呟きながら、その声が震えているのが自分でもわかった。
まさか。そんなはずない。ここは現実だ。自分は確かに目覚めたばかりで、転生だろうがなんだろうが、この世界は“現実”のはずだった。
けれど、どうしてこの制服が。どうして、こんなにも“あの物語”を彷彿とさせる。
袖の折り返し、ボタンの素材、背中の裁断ライン…細部にいたるまで、まるで黒星帝国軍が採用していた制服にそっくりだった。自分の推し、レオナール皇子が身につけていた軍服に、あまりにも似すぎている。
「ねぇ、これ…世界設定おかしくない?どっかの創作世界に来た?」
笑い混じりに言葉を吐き出したが、内心では笑っていられなかった。
あまりの一致に、むしろ背筋が寒くなる。偶然では済まされないほどの“再現度”がそこにある。
しかも、これが正式な“制服”なのだという。つまり、毎日これを着るのだ。
この姿で日常を送るということが、どれほどの心的圧力になるか、前世のオタクとしては痛いほど理解している。
それでも、悠翔は無意識のうちにシャツとズボンに手を伸ばしていた。
制服を着るという行為そのものに、ある種の儀式的な重みを感じていたのかもしれない。
白いシャツを羽織り、ボタンを上まで留める。
濃紺のネクタイは、若干緩めに結んでから整える。
そして最後に、あのブレザーを袖に通す。
ぴたりと肩が合った。
袖の長さもちょうどよく、動きも窮屈ではない。あらかじめ採寸されたかのように、すべてが完璧に仕立てられていた。
鏡の前に立ち、全身を映してみる。
そこには、まさしく“騎士団候補生”のような姿があった。
黒地に金縁のブレザーが、白いシャツとコントラストを成している。ネクタイの落ち着いた色合いが、全体の印象を引き締め、制服の整然とした美しさを際立たせていた。
「…かっこいい、な」
思わずこぼれた本音に、鏡の中の自分が微笑んだような気がした。
本当に自分かと疑うほど、その姿は清潔感と凛々しさに満ちていた。
胸元に手を当てて、校章のバッジに触れる。
金属のひんやりとした感触が、じわじわと実感を連れてくる。
これはもう、夢ではない。
そう思ってしまった瞬間、自分の中の何かが、ふっとほどけたような気がした。
前世では、手に入らなかった。
どれだけ想っても、どれだけページをめくっても、絶対に触れられなかった世界。
今、自分はその世界に“立っている”。
しかも、その中でちゃんと“役割”を持って、生きていくことができる。
「…ありがとう」
どこに向けた言葉なのか、自分でもわからなかった。
レオ様にか、それともあの最後に聞こえた声にか。
もしかすると、この世界そのものに対する感謝だったのかもしれない。
鏡の中の自分が、少しだけ胸を張った。
こんなにも自分にぴったりの制服があるなんて、人生で想像すらしなかった。
前世の命と引き換えに、手に入れたこの姿。
だったら、この世界では、ちゃんと生きよう。
ちゃんと笑って、ちゃんと話して、ちゃんと…推しに、会えたらいい。
そんなことを思いながら、悠翔は制服の襟を軽く整えた。
その指の動きには、ほんの少しだけ緊張と、高揚と、期待がこもっていた。
昨日のうちに届いていたらしい。銀色のラインが入った白いパッケージには、校章のようなロゴが印刷されていて、箱自体が妙に格式ばっていた。まるで、式典用の品か何かのようだった。
「これが……制服?」
つぶやきながら、箱のフタをそっと開ける。まず目に飛び込んできたのは、漆黒のブレザーだった。
布地はやや厚めで、質感は滑らか。だが何より目を引いたのは、その縁を走る金のパイピングだった。きっちりと丁寧に縫い込まれたそのラインが、光の角度で鈍く輝く。
「えっ……ちょ、待って」
無意識のまま、それを手に取る。
袖を軽く引いて全体を広げてみると、肩のラインにあしらわれた銀の刺繍が目に入った。襟元には校章と思われるバッジがついている。金と銀の交差する模様、ブレザーの裾に沿った細かなライン、カフスボタンの意匠…。
「いや、どう見ても黒星騎士団の準礼装なんですけど…」
呟きながら、その声が震えているのが自分でもわかった。
まさか。そんなはずない。ここは現実だ。自分は確かに目覚めたばかりで、転生だろうがなんだろうが、この世界は“現実”のはずだった。
けれど、どうしてこの制服が。どうして、こんなにも“あの物語”を彷彿とさせる。
袖の折り返し、ボタンの素材、背中の裁断ライン…細部にいたるまで、まるで黒星帝国軍が採用していた制服にそっくりだった。自分の推し、レオナール皇子が身につけていた軍服に、あまりにも似すぎている。
「ねぇ、これ…世界設定おかしくない?どっかの創作世界に来た?」
笑い混じりに言葉を吐き出したが、内心では笑っていられなかった。
あまりの一致に、むしろ背筋が寒くなる。偶然では済まされないほどの“再現度”がそこにある。
しかも、これが正式な“制服”なのだという。つまり、毎日これを着るのだ。
この姿で日常を送るということが、どれほどの心的圧力になるか、前世のオタクとしては痛いほど理解している。
それでも、悠翔は無意識のうちにシャツとズボンに手を伸ばしていた。
制服を着るという行為そのものに、ある種の儀式的な重みを感じていたのかもしれない。
白いシャツを羽織り、ボタンを上まで留める。
濃紺のネクタイは、若干緩めに結んでから整える。
そして最後に、あのブレザーを袖に通す。
ぴたりと肩が合った。
袖の長さもちょうどよく、動きも窮屈ではない。あらかじめ採寸されたかのように、すべてが完璧に仕立てられていた。
鏡の前に立ち、全身を映してみる。
そこには、まさしく“騎士団候補生”のような姿があった。
黒地に金縁のブレザーが、白いシャツとコントラストを成している。ネクタイの落ち着いた色合いが、全体の印象を引き締め、制服の整然とした美しさを際立たせていた。
「…かっこいい、な」
思わずこぼれた本音に、鏡の中の自分が微笑んだような気がした。
本当に自分かと疑うほど、その姿は清潔感と凛々しさに満ちていた。
胸元に手を当てて、校章のバッジに触れる。
金属のひんやりとした感触が、じわじわと実感を連れてくる。
これはもう、夢ではない。
そう思ってしまった瞬間、自分の中の何かが、ふっとほどけたような気がした。
前世では、手に入らなかった。
どれだけ想っても、どれだけページをめくっても、絶対に触れられなかった世界。
今、自分はその世界に“立っている”。
しかも、その中でちゃんと“役割”を持って、生きていくことができる。
「…ありがとう」
どこに向けた言葉なのか、自分でもわからなかった。
レオ様にか、それともあの最後に聞こえた声にか。
もしかすると、この世界そのものに対する感謝だったのかもしれない。
鏡の中の自分が、少しだけ胸を張った。
こんなにも自分にぴったりの制服があるなんて、人生で想像すらしなかった。
前世の命と引き換えに、手に入れたこの姿。
だったら、この世界では、ちゃんと生きよう。
ちゃんと笑って、ちゃんと話して、ちゃんと…推しに、会えたらいい。
そんなことを思いながら、悠翔は制服の襟を軽く整えた。
その指の動きには、ほんの少しだけ緊張と、高揚と、期待がこもっていた。
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