転生しても推しが尊い!〜京橋くんとの学園ライフが尊死案件〜オタクでよかった、君に出会えたから

中岡 始

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「好きかもしれない」って、こんな声で言われるんだ

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保健室の空気は、すでに日が傾いた時間の静けさを纏っていた。

カーテンの向こう、薄い布一枚を挟んだその場所に、京橋蒼真は立っていた。  
彼の声は、すぐそばにあった。けれど、その距離は絶妙に隔たっていて、ふれることも、のぞき込むこともできなかった。

悠翔は、ベッドの上で布団を握りしめていた。  
体の中に渦巻く何かを、まだ整理しきれずに。  
耳は、あの声にだけ集中していた。たった一言でも聞き漏らしたら、何かが崩れてしまいそうな気がした。

沈黙が落ちる。  
それはわずかな間だったはずなのに、悠翔には、呼吸の回数を忘れるほど長く感じられた。

そのあとで、京橋が、声を出す。

「……俺、君のこと、好きかもしれない」

一瞬、音が止んだように思えた。  
外の鳥の声も、遠くの教室からの笑い声も、なにもかも、世界から消えた。  
ただ、その言葉だけが、悠翔の世界の中心で鳴り響いた。

布団の中で、悠翔の唇が小さく震える。  
手が、シーツの上をぎゅっと握る。  
声が、胸の奥で詰まってしまった。

「なんでかは、よく分からない。  
でも…あの展示の絵を見たとき、涙が出そうになった」

京橋の声は、ゆっくりと、言葉を探すように続いていく。

「君が、あの絵に込めた気持ちが、まっすぐすぎて…苦しくなった。  
誰かのことを、大事に思ってる人の絵だって、すぐに分かった。  
それが、自分に向けられてたなんて、最初は思いもしなかったけど…」

悠翔の目に、じわりと涙がにじむ。  
言葉が胸の奥にしみ込んで、痛いくらいに熱くなる。

「でも、もし、あれが…君の気持ちの一部なんだとしたら。  
俺、それを、守りたいって思った。  
理由とか、まだよく分かってないけど…  
それって、もう“理由”なんじゃないかなって、思ってる」

カーテン越しに、京橋の気配が止まった。  
それ以上踏み込まない。  
けれど、それ以上引かない。  
絶妙な距離で、ただ静かに、そこにいる。

悠翔は、唇を噛んだ。  
目を見開いたまま、何も言えなかった。  
何も言えないまま、涙だけが、一筋、頬を伝った。

それは、あまりにも静かな涙だった。  
堰を切るような感情ではなかった。  
ただ、ゆっくりと、心の奥に積もっていたものが、今ようやく溶けはじめた、そんな涙だった。

カーテンは揺れない。  
風もない。  
でも、空気は確かに動いていた。

その声のひとつひとつが、現実だった。  
物語でも、妄想でもない。  
目の前の、この世界で、いま、自分に向けられている想いだった。

その現実が、あまりにも優しくて、悠翔は泣いた。

こんなふうに誰かに気持ちを伝えられることが、  
こんなふうに真剣に自分の“好き”が語られることが、  
自分に起きるなんて、想像すらしていなかった。

布団の中で、悠翔はゆっくりと手を伸ばす。  
カーテンには届かない。  
でも、その先に誰がいるかは、もう分かっている。

――京橋蒼真。

その名前を、心の中で呼んだ。

レオ様じゃない。  
もう、“誰かの代わり”なんかじゃない。

この人が、今ここにいて、  
この声が、自分に“好き”を伝えてくれている。

それだけで、もう十分すぎるほど、現実だった。  
そして、尊かった。  
あの頃の“推し活”では、決して触れられなかったものが、  
今、ここにはある。

その事実が、悠翔の胸を、そっとあたためた。
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