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この声は、あの人じゃない
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布団の中で、悠翔はゆっくりと目を閉じた。
カーテン越しの世界は、まるで舞台の幕が下りたあとのように静かだった。先ほどまでそこにいた京橋の声は、もう聞こえない。それでも、その声の余韻は耳の奥に、胸の奥に、深く刻まれていた。
目を閉じると、暗闇の中にあの言葉が浮かんでくる。
「好きかもしれない」
その言葉は、どこまでも静かで、どこまでも真っ直ぐだった。装飾も、比喩もなかった。ただ、素直に、まっすぐに自分の心を伝えようとする声だった。
悠翔は、自分の心が今、どうなっているのかを確かめるように、胸元に手を置いた。
鼓動は、まだ少し速い。けれど、さっきまでのように不安定ではなかった。ただ、誰かの言葉に反応している、それだけだった。
モノローグがゆっくりと浮かんでくる。
この声は、“あの人”のじゃない。
レオ様の、あの低くて荘厳な声じゃない。
漫画のページをめくるたびに現れて、自分を救ってくれた“理想”の響きではない。
夢の中で何度も聞いた、空想の中の恋人の声でもない。
でも――
でも、俺の心が震えるのは……この“君”の声なんだ。
言葉にすればするほど、涙が滲んでくる。
誰に向けたものでもない、ただの心の中の声が、こんなにも重たくて、こんなにもあたたかい。
これまでずっと、レオ様の面影を追いかけていた。
転生して、出会った“そっくりな彼”に、目も声も、しぐさも、すべてを重ねてきた。
だけど、あの人と“似ている”から惹かれているんじゃなかった。
似ているから心が動いたわけじゃなかった。
この“彼”のことを、知ってしまったから。
名前を呼ばれて、笑いかけられて、そっと優しくされたから。
それだけで、心が動いてしまった。
布団の中で、呼吸を整えながら、悠翔はゆっくりとそのことを認めていく。
もう、あの人の面影に重ねなくてもいい。
京橋蒼真という、目の前の人の言葉に、表情に、笑い方に――俺は惹かれている。
そして、それを“恋”と呼んでも、もう間違いじゃない気がした。
顔を枕に少しだけうずめると、瞼から涙がひとつ、音もなく落ちていった。
けれどそれは、悲しみの涙じゃなかった。
戸惑いもあった。でも、それ以上に、あたたかいものが心に広がっていた。
「…ありがとう」
声にはならなかったけれど、口の中でそっと呟いた。
ありがとう。
あの言葉をくれて。
その声で伝えてくれて。
俺のことを、見てくれて。
世界がほんの少しだけ、違って見えた。
重ねていた過去の幻想から、ようやく一歩だけ前に進めたような、そんな気がした。
布団の中、悠翔はもう一度、深く息を吸った。
そして、小さく笑った。
「…ほんとに、好きになっちゃったのかな」
独り言のような言葉が、空気にほどけていく。
その問いには、まだはっきりと答えられないかもしれない。
でも、“もう戻れない”という実感だけが、胸に静かに根を張っていた。
どこかで、鶴見先生の足音が遠ざかる気配がする。
窓の外では、もう夕方の光が消えかけていた。
けれど、悠翔の中には、確かに、ひとつの灯がともっていた。
それは、過去の物語ではなく。
今という現実に生まれた、“この人との物語”だった。
カーテン越しの世界は、まるで舞台の幕が下りたあとのように静かだった。先ほどまでそこにいた京橋の声は、もう聞こえない。それでも、その声の余韻は耳の奥に、胸の奥に、深く刻まれていた。
目を閉じると、暗闇の中にあの言葉が浮かんでくる。
「好きかもしれない」
その言葉は、どこまでも静かで、どこまでも真っ直ぐだった。装飾も、比喩もなかった。ただ、素直に、まっすぐに自分の心を伝えようとする声だった。
悠翔は、自分の心が今、どうなっているのかを確かめるように、胸元に手を置いた。
鼓動は、まだ少し速い。けれど、さっきまでのように不安定ではなかった。ただ、誰かの言葉に反応している、それだけだった。
モノローグがゆっくりと浮かんでくる。
この声は、“あの人”のじゃない。
レオ様の、あの低くて荘厳な声じゃない。
漫画のページをめくるたびに現れて、自分を救ってくれた“理想”の響きではない。
夢の中で何度も聞いた、空想の中の恋人の声でもない。
でも――
でも、俺の心が震えるのは……この“君”の声なんだ。
言葉にすればするほど、涙が滲んでくる。
誰に向けたものでもない、ただの心の中の声が、こんなにも重たくて、こんなにもあたたかい。
これまでずっと、レオ様の面影を追いかけていた。
転生して、出会った“そっくりな彼”に、目も声も、しぐさも、すべてを重ねてきた。
だけど、あの人と“似ている”から惹かれているんじゃなかった。
似ているから心が動いたわけじゃなかった。
この“彼”のことを、知ってしまったから。
名前を呼ばれて、笑いかけられて、そっと優しくされたから。
それだけで、心が動いてしまった。
布団の中で、呼吸を整えながら、悠翔はゆっくりとそのことを認めていく。
もう、あの人の面影に重ねなくてもいい。
京橋蒼真という、目の前の人の言葉に、表情に、笑い方に――俺は惹かれている。
そして、それを“恋”と呼んでも、もう間違いじゃない気がした。
顔を枕に少しだけうずめると、瞼から涙がひとつ、音もなく落ちていった。
けれどそれは、悲しみの涙じゃなかった。
戸惑いもあった。でも、それ以上に、あたたかいものが心に広がっていた。
「…ありがとう」
声にはならなかったけれど、口の中でそっと呟いた。
ありがとう。
あの言葉をくれて。
その声で伝えてくれて。
俺のことを、見てくれて。
世界がほんの少しだけ、違って見えた。
重ねていた過去の幻想から、ようやく一歩だけ前に進めたような、そんな気がした。
布団の中、悠翔はもう一度、深く息を吸った。
そして、小さく笑った。
「…ほんとに、好きになっちゃったのかな」
独り言のような言葉が、空気にほどけていく。
その問いには、まだはっきりと答えられないかもしれない。
でも、“もう戻れない”という実感だけが、胸に静かに根を張っていた。
どこかで、鶴見先生の足音が遠ざかる気配がする。
窓の外では、もう夕方の光が消えかけていた。
けれど、悠翔の中には、確かに、ひとつの灯がともっていた。
それは、過去の物語ではなく。
今という現実に生まれた、“この人との物語”だった。
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