オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる～ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか？

弱った榊の無防備さに動揺

榊の部屋に入るなり、陽翔は軽く周囲を見渡した。  

予想はしていたが、整頓されているとは言い難い。  

脱ぎっぱなしのジャケット、テーブルの上に放置された書類、コンビニの袋が雑に置かれている。  

普段のズボラな性格がそのまま反映されたような部屋だった。  

（……とりあえず、最低限は片付けないと）  

陽翔は手際よくジャケットをハンガーにかけ、余計なものを片付けると、キッチンで水を用意した。  

「課長、座ってないで早く横になってください」  

ソファに腰掛けていた榊は、力なく息をつきながら顔を上げた。  

「悪いな、お前にまで迷惑かけて」  

「今さらじゃないですか」  

そう言いながら、陽翔は榊の額に手を当てた。  

その瞬間、思った以上の熱が指先に伝わる。  

「……課長、ちゃんと休まないとダメですよ」  

「わかっとる……」  

榊はしぶしぶといった様子で立ち上がり、ベッドへ向かった。  

陽翔は軽く布団を整え、榊が横になったのを見届けると、そっと布団をかけた。  

「しばらく寝ててください。何かあったら起こしてくださいね」  

榊は薄く笑いながら、目を閉じる。  

「お前、ほんまに優しいな……」  

「……別に」  

思わず視線を逸らす。  

なんとなく、まともに顔を見られなかった。  

こんなに素直な言葉を榊から聞くことは滅多にない。  

ふと、布団の中でわずかに動いた榊が、うっすらと目を開けたままぽつりと呟いた。  

「お前が、俺の彼女やったらええのにな」  

「……は？」  

思わず固まる。  

熱のせいで意識が朦朧としているのか、榊はそのまま目を閉じる。  

何気ない一言のようだった。  

だが、陽翔の中ではそれが強く響いていた。  

（今、何て言った？）  

胸が妙にざわつく。  

ただの寝言だと思おうとしたが、頭の中で何度もリピートされる。  

「お前が俺の彼女やったらええのにな」  

冗談のような、そうではないような、その言葉がやけに耳に残る。  

息を吐きながら、陽翔はそっと拳を握る。  

（……なんでこんなに動揺してるんだ、俺）  

目の前の榊は、ただ無防備に眠っているだけだ。  

それなのに、まともに顔を見られない。  

鼓動が早くなっているのが自分でもわかる。  

「……」  

陽翔は一歩後ろに下がると、小さく息をついた。  

このままだと、何かがおかしくなりそうな気がする。