オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始

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陽翔の不満「何も変わってなくないですか?」

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オフィスの時計が午後八時を回ったころ、ようやく今日の仕事が終わった。

ほとんどの社員はすでに帰宅し、残っているのは数人だけ。

陽翔はデスク周りを片付けながら、隣にいる榊をちらりと見た。

相変わらずの気だるそうな表情で、パソコンの画面を眺めながら残った書類を適当に整理している。

(……いや、これ、ほんとに付き合ってるんだよな?)

陽翔はここ数日、ずっとモヤモヤしていた。

付き合い始めたはずなのに、何も変わらない。

むしろ変わったことがあるのかと聞かれれば、全力で「ない」と答えられる。

朝、会社で顔を合わせる。

仕事の話をする。

昼休み、榊から「一緒に飯食うか」と誘われる。

それもいつも通り、社内の食堂で並んで定食を食べただけ。

(いや、それは付き合う前からやってたことだろ)

当然、周囲にも何も気づかれていない。

恋人になったからといって、社内でイチャつくつもりはない。

だが、ここまで変化がないと、さすがに「本当に付き合ってるのか?」という気分になってくる。

そもそも、榊本人がまるで意識していない。

昨日も普通に「お疲れ」と言われただけで、それ以上の特別なやり取りはなかった。

今日も、いつも通りの仕事モード。

陽翔は溜め息をつきながら、ついに口を開いた。

「課長」

「ん?」

「俺たち、本当に付き合ってます?」

榊は手を止め、こちらを見た。

特に驚く様子もなく、淡々とした顔で頷く。

「せやな」

即答だった。

陽翔は無意識に拳を握る。

「……いや、だから、何か変わりました?」

「うーん……」

榊は軽く考える素振りを見せた後、「仕事がやりやすくなった?」と平然と言った。

陽翔は一瞬、言葉を失う。

「……は?」

「お前、何かと気を回してくれるし、仕事の段取りもスムーズやし」

「いや、それ、付き合う前からそうでしたよね?」

「そうやったか?」

「そうですよ!」

陽翔は思わず声を荒げた。

榊は「へえ」とどこか他人事のように相槌を打ち、再びパソコンの画面に視線を戻す。

(なんなんだ、この温度差)

陽翔は呆れながらため息をついた。

「課長、もっと自覚してください」

「自覚?」

「俺たち、恋人ですよね?」

「せやな」

「付き合う前と変わらないのって、おかしくないですか?」

「そうなん?」

「そうです!」

榊は少し考えるように視線を上げ、しばらくの間を置いた後、ようやく言葉を発した。

「……まあ、言われてみれば、そうかもしれんな」

「やっと気づきました?」

「うーん……けど、何を変えたらええんや?」

その問いに、陽翔は言葉を詰まらせた。

確かに、何をどうすれば「恋人らしくなる」のか、具体的な答えは出せない。

だが、このまま「ただの上司と部下」と変わらない状態でいるのは、どう考えてもおかしい。

陽翔はふっと息を吐き、決意を固めた。
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