オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始

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奏太さん、もっと近くにいてもいいですか~不器用で優しい君の、はじめての夜

エピローグ

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カーテン越しの光が、さらに強くなってきていた。  
部屋のなかには、明確な“朝”が満ちはじめている。  
それはどこか柔らかく、でも確かに“始まり”を告げるものだった。  

ベッドの中では、まだふたりの身体が寄り添っている。  
熱は落ち着いて、静けさだけが残っているけれど、その空気はどこか豊かだった。  

佐倉は枕に片頬を預けたまま、瀬戸の方をちらりと見た。  
瀬戸はと言えば、少しぼんやりした顔で天井を見つめている。  
夜を越えて、ようやくひと息ついたような、そんな表情だった。  
それがなんだか可笑しくて、佐倉はふっと口元を緩めた。

「お前、ほんま……正直者やな」

声に出したあと、少しだけ照れくさくなる。  
けれどその気持ちは、間違いなく本音だった。

瀬戸がゆっくりとこちらを向く。  
その目に映っていたのは、驚きでも戸惑いでもなく、ただまっすぐな光だった。  
何かを期待しているような、でもそれを言葉にはしない、慎ましい欲。  

そのまま、瀬戸が少しだけ首をかしげたような角度で、口を開く。

「……好きって、もっと言っていいですか?」

静かな声だった。  
けれどその一言は、やけに空気を震わせた。  
まるで、時間の底にそっと石を落とされたように、佐倉の胸に広がっていく。

そんなに何度も言わんでええやろ、と、言葉にしようとした。  
けれど唇の手前で止めた。

それが瀬戸のやり方で、それがこの関係をつくってきた、かけがえのない誠実さだったと、もう分かっていたからだ。

佐倉は枕に頭をあずけたまま、まぶたを少しだけ伏せる。  
そして、長く息を吐いた。

「……せやな。もう、言わんと気ぃ済まん感じやな」

その声には、苦笑も照れも、そして少しの愛情が混ざっていた。  
瀬戸はその返事に、やんわりと目元をゆるめた。  
安心したような、嬉しそうな、そんな笑顔だった。

ふたりの間には、また沈黙が戻る。  
けれど、それは何もない時間ではない。  
むしろ、言葉を交わしたあとの静けさは、余韻を育ててくれる。

カーテンが微かに揺れる。  
その隙間から差し込んだ光が、佐倉の髪を照らし、瀬戸の指先がそっとそこへ触れる。  
髪の束を軽くなぞりながら、そのぬくもりを感じているのか、瀬戸の手はずっとやさしく動いていた。

佐倉は目を閉じた。  
まぶたの裏にも、白い光が透けて見える。  
それが眩しいとは思わなかった。  
むしろ、その明るさすら、いまはありがたいと感じる。

恋人になった。  
言葉にするのは照れくさいけれど、身体と心の両方で、それをちゃんと感じている。

誰かと朝を迎えるということ。  
その当たり前が、こんなにも静かで、こんなにも心を満たしてくれるものだとは、ずっと知らなかった。

瀬戸の手が止まり、ふたりの視線がまた重なる。  
もう言葉はいらない。  
でも、もし次に何かを言うとしたら──  
それは、きっとまた「好きです」というあの声になるだろう。

佐倉はそっと指を伸ばして、瀬戸の手に触れた。  
何度目かの“始まり”が、また静かに、ふたりの間に訪れていた。

【続】
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