オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始

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実家に帰らせていただきます(なお、恋人付き)

初公開・榊圭吾高校時代の全貌

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食後の片付けを終えたあと、こたつに戻った家族のあいだには、食事の余韻がまだ残っていた。  
テーブルの上には甘い煮豆と、緑茶の湯気がのぼる湯呑。  
テレビは点けっぱなしだったが、誰も画面を真剣には見ておらず、会話の隙間にだけ音が入り込んでくる。

雅彦がふと、立ち上がってリビングの隅の本棚へ向かう。

「そういや、まだ見せてへんかったな……陽翔くん、これ、もう見た?」

振り返りながら持っていたのは、厚みのある青い布張りの冊子。  
角は少し擦れていて、年月の重みを感じさせる。  
雅彦はにやにやしながら、こたつの上にそれを置いた。

「圭吾の卒アルや。高校のな」

「……やめとけ。ほんまやめとけ」

榊は静かに、しかし確かな声で制止する。  
けれどその言葉に、まったく効き目はなかった。

「こういうのはな、“タイミング”が大事なんや」

そう言って雅彦は、ページを開いた。

まず目に入ったのは、制服姿でやや伏し目がちに立つ榊の個人写真。  
真っ直ぐでもなく、笑顔でもなく、けれど整いすぎた顔立ちがかえって印象に残る。  
髪は少し長めで、前髪が目元にかかっている。

陽翔は思わず、呼吸を止めた。  
言葉が出てこない。代わりに、感情が先に押し寄せた。

「……罪、深いですね」

ぽつりと漏れたその一言に、こたつの空気が微かにざわつく。

榊はすでに顔を両手で覆い、完全に背中を丸めていた。

「やめろって言うたやろ……」

雅彦はまったく気にせず、さらにページを繰る。

「見てみ? 体育祭の写真、応援団やってたときや。ほら、学ラン姿。無駄にサマになってるやろ」

そこには、紅の鉢巻きを締めて腕を組み、グラウンドに立つ榊の姿が写っていた。  
直射日光に照らされたその横顔は、妙に陰影が強く、少年というよりすでに“青年”だった。

「……なんでこんなに完成されてるんですか」

陽翔の問いに、誰も答えられなかった。  
強いて言えば、榊本人が「知らん」とうめくのが精一杯だった。

続くページには、美術部で制作中のスナップ。  
シャツの袖をまくって、真剣な顔でキャンバスに向かう姿がある。  
そしてその横には――寄せ書きのページ。

「圭吾くんへ♡」「また絶対会いたい!」「大学行ってもずっと応援してます」「誰にも渡さないよ!」  
インクの色も、手書きの絵文字も、どれもが本気だった。

陽翔は一瞬、口を引き結んだあと、真顔で言った。

「……これはもう、被害者増加案件ですね」

「やかましいわ」

榊はそう吐き捨てながらも、顔を覆ったまま指の隙間からこちらをにらむ。

百合子はそれを見て、茶をすすりながらほほえんだ。

「変わってへんな~。でも、照れ方はちょっと丸なったなあ。昔は“ほっといてくれ”ってすぐ部屋こもったけど」

雅彦も肩をすくめながら、「こうして見返すと、“理想像だけ先に一人歩きした”タイプやったなあ」と頷く。

陽翔は、卒アルの一枚をそっとめくり、その角を指先でなぞった。

静かに、確かめるように。

そして、穏やかな声で言った。

「このページ、好きです」

その視線の先にあったのは、木漏れ日のなか、校舎の窓辺に立つ榊のスナップ。  
窓の外を見ているその横顔は、当時からすでに“何かを抱えているような顔”をしていた。

「……見んでええ言うたやろ」

榊は目をそらし、低くうなるように呟いた。  
けれどその耳は、火が灯ったように赤かった。

陽翔はその背中を見つめながら、こたつのなかで手をそっと握った。  
笑いながら、照れながら、それでも過去を分けてもらえたことが、ただうれしかった。  

ふたりで向き合う現在と、ふたりで共有する過去。  
それは確かに、ふたりだけの絆になっていく気がした。
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