会議で死んだら異世界で神扱いされました〜魔法ゼロでも資料で世界は回ります〜

中岡 始

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第10章 田所式進行術、爆誕

講義、それは段取りの集積

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講堂の中央に立ち、田所は自らのノートパソコンを開いた。  
事前に設置された魔導式投影機が、青白い光で背後の壁を照らす。  
目の前には、百名を超える若者たちのまっすぐな視線。  
彼らの正装は整いすぎていて、逆にこちらが不安になるほどだった。

田所は一度、深く息を吐いてから、無言で最初のスライドを表示した。

スライド1:  
《段取りとは “次が明確であること”》

一拍の沈黙。

会場が、まるで新たな神託を受け取ったかのようにざわめく。  
「……なるほど」  
「これは、深い」  
「言語化された秩序だ……」  
そんなつぶやきが、前列からも後列からも漏れ聞こえた。

田所は口を開く。

「段取りって、結局は、“今何をしていて、次に何をするのかが分かる状態”のことです。  
それだけです。複雑な理論はありません。  
ただ“次”が見えていれば、人は安心して今の作業に集中できます」

指でスライドを送る。

スライド2:  
《会議とは、誰が・何を・いつまでに、を決める場です》

その瞬間、前列の一人が思わず机を叩いた。  
「……明快すぎる……」

別の者がうなずく。「これまでの会議、全部“話して終わり”だった…」

「この構造が……美しい」と、うっとりしたように呟く声もある。

田所は苦笑しそうになるのをこらえた。  
感動するポイントが予想とまるで違う。  
だが、今は進める。

「会議って、“話し合い”だと誤解されがちですが、  
本来は、“決める場”なんですよ。  
誰が、何を、いつまでに、どうやるか――これが決まらないなら、それは雑談です。  
言いっぱなしにしない。“次の行動”が定まらない会議は、ただの時間の消費です」

会場のあちこちで、メモを取るペンの音が響く。  
いくつかは魔導記録石の起動音だ。誰かがその場で記録しているのだろう。

田所は画面をもう一枚進める。

スライド3:  
《“言い出しっぺがやる”と混乱する理由》

その瞬間、またもや小さなどよめきが起こる。

スライドには、簡単な図解が添えられている。  
中心に「会議」、その周囲に「発案者」「調整者」「実行者」「報告者」の役割が円環状に並び、  
そこから赤線で“責任のなすり合い”が交差する構造。

田所は軽く喉を鳴らして話し始めた。

「“言い出した人がやるべきだ”というのは、感覚的にはわかるんですが、  
実務的には危ないんですよ。発案者がそのまま実行に回ると、  
アイデアのブラッシュアップや調整、客観視が全部欠けてしまいます」

聴衆の一人、若い男性官吏が手を挙げる。

「その…先生。この図は……ある種の社会構造批評と見てよろしいでしょうか?  
つまり、“責任の転移構造”を視覚的に表した、批判的構造理論的な解釈で……」

田所は固まった。

「え……いや……違います。ただの、反省です。  
“会議でああ言ってたけど、結局誰がやるの?”ってなったこと、何回もあったから……」

彼は一瞬、会社員時代の記憶が脳裏をよぎった。  
あの沈黙の空気、微妙に視線をそらす同僚たち、  
「まあ、言い出したのは君だから……」という空気圧。  
あの瞬間が、嫌というほど刷り込まれている。

「誰が言い出したか、ではなく、  
“誰が実行するのか”を明確にすること。  
それが、段取りの基本です。  
そうでないと、会議が“気まずい沈黙”に落ちていく」

再び、深いうなずきが会場を満たした。

田所は思った。

言ってることは、地味だ。派手さは一切ない。  
けれど――ここに集まった人たちは、今、確かにその“地味な真実”を受け止めようとしている。

彼はスライドを閉じ、深く一礼した。

「講義は以上です。ありがとうございました」

講堂は、静寂を保ったまま。  
だが、数秒後、割れるような拍手が広がった。

田所はまたしても、玉座もどきの椅子に戻りながら、内心で呟いた。

「……ただ、反省を話しただけなんだけどな……」
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