Aegis~裏切りに報いる影の正義

中岡 始

文字の大きさ
8 / 84
序章

孤独と不安

しおりを挟む
優子は大谷の失踪という現実に打ちのめされ、心が重く沈んだまま、何日も一人で過ごしていた。職場では以前と同じように振る舞おうと努力していたが、頭の中から彼のことが離れず、ふとした瞬間に表情が曇ってしまうことが増えた。仕事に集中しようとすればするほど、心に渦巻く不安と怒りが押し寄せてきた。

「なぜ……どうして彼が……」

自分に問いかけても、答えは見つからない。彼を信じた自分が愚かだったのか、それとも彼がただ巧妙だったのか。思い悩むほどに、優子の心は混乱し、自分を責める気持ちと大谷に対する怒りが交錯していた。

それでも、彼のことを誰かに相談しようとは思えなかった。身近な人に話しても、「そんな相手に大金を託すなんてどうかしている」と軽蔑されるだけだろうという恐怖があったからだ。500万円という金額も、彼と築ける未来への希望も、すべて自分の中に閉じ込めたまま、優子は誰にも打ち明けられずに苦しみ続けていた。

ある日、同僚の美香がランチの席で優子に気遣いの言葉をかけてきた。

「優子さん、最近ちょっと元気ないみたいだけど、大丈夫?」

優子はその優しさに一瞬だけ心が揺れたが、すぐに作り笑顔を浮かべた。

「ごめんね、ちょっと考え事が多くて……でも大丈夫だから、ありがとう」

美香に心配をかけたくないという気持ちもあったし、何より、自分の弱さを見せることが怖かった。彼女にすべてを話しても、理解されるとは限らない。そう思うと、結局は口を閉ざしてしまう自分がいた。

---

日が経つにつれ、優子の心はますます追い詰められていった。どこにも吐き出せない苦しみは、自分自身を縛り付ける鎖のように感じられた。夜になると、眠れずにベッドの中で目を閉じたまま、頭の中を駆け巡る不安や後悔に苛まれることが増えた。

「どうして、こんなにも簡単に彼を信じてしまったのだろう……」

振り返るたびに、優子は自分の決断を後悔した。自分はもっと冷静でいるべきだった。彼の言葉だけを信じずに、慎重に考えなければならなかった――そうした思いが、どんどん自分を責め立てた。

何もかもが失われたような喪失感が、優子の胸を締め付けた。大谷と共に築けるはずだった未来への夢は、儚い幻想に過ぎなかった。だが、今さらその事実を受け入れることもできず、彼に対する怒りと自分の愚かさへの自責が優子の中でせめぎ合っていた。

---

ある夜、優子は一人、暗い部屋の中でベッドの上に座っていた。静まり返った空間の中で、時計の音がやけに大きく響く。周囲の誰にも頼ることができず、ただ一人でこの苦しみを抱え込むしかない現実が、彼女の心をさらに追い詰めていた。

「こんなにも辛いなら、誰かに話せばいいのに……」

そう思いながらも、優子は一人で苦しむ道を選んでいた。誰にも話せない秘密は、重い鎖のように彼女の心を締め付け、逃れられない孤独を感じさせた。

自分の判断で彼に500万円もの大金を託したという事実が、優子の自尊心を打ち砕いていた。大谷を信じた自分が、どれほど愚かだったのか。自分が冷静に判断していれば、このような結末にはならなかったはずだ――そうした思いが、彼女を絶望へと導いていた。

---

翌日、職場に行くと、再び美香が心配そうに声をかけてきた。

「優子さん、本当に大丈夫?最近、ちょっと顔色が悪いよ」

その言葉に、優子は一瞬だけ目を伏せたが、またも作り笑顔で答えた。

「ありがとう、気を使わせちゃって……でも、本当に大丈夫だから」

言葉を返しながらも、心の中では「助けてほしい」と叫んでいる自分がいた。しかし、それを口にすることはできず、優子はただ自分を責め続ける道を選び続けた。誰にも話せない秘密が、優子の心をどんどん深い孤独の中へと追いやっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

処理中です...