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第5幕
「工藤」の話
しおりを挟む怜は少し緊張した面持ちでカフェに到着した。カジュアルながらも控えめな清楚さを感じさせるワンピースを選び、初夏の午後にぴったりの柔らかい装いだった。カフェの角の席で待っていた大谷が彼女の姿に気づくと、微笑みを浮かべて立ち上がり、彼女に手を差し出した。
「怜さん、やっとまた会えたね。忙しかったんだね?」
怜は照れ笑いを浮かべながら席に着いた。
「すみません、本当にバタバタしていて…お待たせしてしまいました。」
「そんなことないよ。会えるのを楽しみにしていたから、余計に嬉しいよ。」
大谷は目を細めて優しい表情を作り、嬉しそうに怜を見つめた。その視線に軽く緊張を感じながらも、怜は柔らかな笑顔で応じた。しばらくは仕事の話や最近の生活について、何気ない会話が続いた。大谷は時折、彼女に飲み物をすすめたり、笑顔を引き出そうと冗談を交えたりしてリラックスした空気を作り上げていた。
会話がひと段落したころ、怜はふと話題を切り替えるために、つい先日会った「工藤」の話を思い出したかのように切り出した。
「そういえば…ちょっとしたことなんですけど、この前、兄の友人の工藤さんに会ったんです。」
大谷はその名前を聞いた瞬間に反応を見せ、少し身を乗り出すようにした。彼は前回の会話で怜がぼんやりと触れていた「兄の友人」のことが気になっていたのだろう。目の前のコーヒーカップを軽く持ち直しながら、自然に問いかけるように言葉を続けた。
「その工藤さん、どんな方なんだろう?怜さんの兄弟の友人ってことは、信頼できる人なのかな。」
怜は少し視線を下に落とし、遠慮がちに言葉を選びながら答えた。
「ええ、兄とは古くからの友人らしくて…兄がすごく信頼している人なんです。私も初めてお会いしたんですけど、誠実そうで物腰の柔らかい方で…投資で成功しているって、兄が羨ましそうに話していました。」
彼女は「投資で成功」という部分を軽く強調しながら話し、また一口コーヒーを飲んで一息ついた。すると、大谷はすぐに興味を示した。
「投資で成功か…いいね。その工藤さん、具体的にどんな投資をしているのか、少しでも聞いた?」
怜は大谷の質問にわずかに肩をすくめ、曖昧に微笑んでみせた。
「実は…私には少し難しくて、正直よくわからなかったんです。ただ、兄が『本当にすごい』って褒めてて…。工藤さんも『人によっては大きなリターンが期待できる』と話していたみたいなんですけど、それ以上の話は分からなくて…」
彼女はあくまで控えめで謙虚な態度を崩さず、詳細についてはあまり深入りせずに話すことで、大谷の関心をさらに煽ろうとした。
「なるほど、確かにそういう話って、最初は理解しづらい部分も多いよね。でも、お兄さんの友人がそこまで成功しているのなら、信頼できそうだね。」
大谷の言葉に、怜はうなずきながらも、わざと少し迷いを込めて返事をした。
「そうですね…私には難しいけど、兄が『あの人は本当に稼げる人だ』って言ってましたから、信頼できるんだろうなと思います。でも、やっぱり投資の話って難しいですね。少し心配になっちゃって…」
彼女の「心配」という言葉に、大谷はすぐさま反応した。優しい声で、まるで怜を励ますかのように話し始める。
「投資って言っても、信頼できる人からの話なら安心だよ。怜さんも工藤さんから詳しく聞ける機会があれば、いろいろ勉強になるかもしれないね。」
怜は大谷の言葉に感謝を示すように微笑んでから、もう一度「工藤」の話に戻した。
「兄が言うには、工藤さんはちょっと特別な人らしくて…。投資の話も限られた人にしか話さないみたいなんです。」
彼女は「限られた人」という言葉を選んで大谷に伝え、大谷がその「特別な話」に入りたいという思いをさらに強める意図があった。怜は大谷の反応を注意深く観察しながらも、心の中で密かに忍の指示を思い出していた。
しばらく沈黙が続いた後、大谷がふと思い出したように、興味津々で尋ねてきた。
「その工藤さん、どんな投資をしてるんだろう?何か大きなプロジェクトに関わっているのかな。」
怜は、工藤の話を膨らませながらも具体的には触れず、曖昧に微笑んだその時。
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