Aegis~裏切りに報いる影の正義

中岡 始

文字の大きさ
76 / 84
終章

最終リターンの期待

しおりを挟む
大谷は、期待に満ちた目でスマートフォンの画面を眺め、何度もアプリを開いては入金通知が来ていないかを確認していた。金融機関の通知音が鳴るたびに胸が高鳴り、リターンの入金を知らせる一報が入るのではないかと、心の中でその瞬間を待ち焦がれていた。これまでに何度か手にしたリターンの実績があるだけに、今回の最終リターンにも一切の不安は抱いていない。いや、それどころか、この最終リターンこそが、自分の人生を新たな段階へと引き上げるものになると確信していた。

「これだけのリターンが入れば、将来は安泰だな」

ふと、大谷は自分にそう語りかけ、満足げに微笑んだ。先日の最後の会合で、涼が自信を持って投資案件を説明してくれたときの落ち着いた表情が思い浮かんだ。涼の説明はどこか威厳があり、その言葉一つひとつに説得力があった。大谷は、彼が語るたびに投資の信頼性が増し、まるで自分が特別な仲間として選ばれたような誇らしい気持ちが芽生えていた。

怜についても、ここまで深い信頼を築けたことが嬉しかった。少し疎遠になっているような気配はあるが、忙しいだけだと信じている。彼女もまた、大谷にとって信頼できるパートナーであり、支えとなる存在だった。涼と怜という二人に囲まれている今、自分は正しい道を進んでいるのだという思いが胸の奥に確かに根付いていた。

その日の朝も、スマートフォンを握りしめて、まだ見ぬ通知を待ちながら、夢を膨らませていた。「怜との新しい生活が始まる。もしかしたら、近い将来、彼女と結婚して家族を築くことだって…」と、次々と未来のイメージが広がっていく。

支払い予定日が過ぎた翌朝、大谷は期待を込めてスマートフォンの入金通知を確認した。しかし、画面には変わらず何も表示されておらず、口座に目立った変化も見当たらなかった。彼は、「まあ、たまにはこういうこともあるさ」と自分に言い聞かせ、慌てずに構えようとしたが、少し落ち着かない気持ちを感じていた。

時計を見ながら、もう一度口座のアプリを開く。日が変わってすぐに振り込みがあるはずだと勝手に期待していたが、まだ何も入っていない。大谷は、リターンがまだ振り込まれていないことに不安を覚え、思わず怜にメッセージを送信することにした。

---

「おはよう。少し気になっているんだけど、涼さんの案件のリターンがまだ確認できていなくて。何か遅れが出ているのかな?」

---

送信ボタンを押すと、すぐに既読がついた。彼は一瞬、胸が安堵感で満たされるのを感じたが、その後もメッセージの画面には変化がない。返信が来るのを待つが、時間が経っても、怜からの返信はなかった。

「まあ、忙しいんだろう」

そう自分に言い聞かせて、大谷は再びスマートフォンを机に置いた。しかし、心の奥に小さな疑念が芽生え、ふとした瞬間にその感情が顔を出してくる。「本当に大丈夫なのか?」「何か問題が起きているのでは?」と、考えが次第に膨らんでいく。

彼はもう一度メッセージを確認し、さらに、涼とも連絡を取ってみようかと考えた。しかし、「急ぎすぎるのも良くない」と思い直し、もう少し待ってみることに決めた。

「怜も、涼さんも忙しいからな。これまでもちゃんと対応してくれたし、今回もきっと同じだ」

それでも、心が完全に落ち着くわけではなかった。どこかに理由があってリターンが遅れているのだろうと自分に言い聞かせつつも、彼は何度もスマートフォンの画面を見つめ、期待と不安の入り混じった感情を抱きながら一日を過ごした。

夜になっても、怜からの返信はなかった。そのことが、大谷の中でじわじわと不安を広げ始める。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

処理中です...