冴えない経理オッサン、異世界で帳簿を握れば最強だった~俺はただの経理なんだけどな~

中岡 始

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セシリアの家の経営立て直し

セシリアの屋敷に足を踏み入れると、まず目についたのは広大な玄関ホールだった。  

天井が高く、シャンデリアが吊るされている。壁には貴族らしい絵画が飾られ、床には細やかな装飾の入った絨毯が敷かれていた。  

一見すれば格式のある屋敷に見えるが、よく見るとあちこちに綻びがある。掃除が行き届いていないせいか、廊下の隅には埃が溜まり、絨毯の端は擦り切れていた。  

「なるほど、貴族の財政難というのはこういうところに表れるのか」  

葛城はそう呟きながら、屋敷の奥へと進んだ。通された部屋には大きな机が置かれ、その上に数冊の帳簿が並べられていた。  

セシリアが葛城の向かいに座り、不安そうにこちらを見ている。  

「こちらが、家の財務記録です」  

葛城は無言で帳簿を開き、ぱらぱらとページをめくった。  

「ひどいな」  

彼は率直な感想を漏らした。  

売上の記録があちこちに分散している上、支出の項目が異様に多い。家計の運営に必要な費用と、明らかに無駄な出費が混在し、金の流れがまるで整理されていない。  

「こんな状態では、どこから金が入って、どこへ消えているのか把握できていないだろう」  

「正直、そうです…私も家計を見直そうとしたのですが、どこから手をつければいいのか分からなくて」  

セシリアは肩を落とした。  

葛城は帳簿の端にペンを走らせながら言った。  

「まずは収入と支出を明確にする。そうしないことには、何を改善すべきかも見えてこない」  

帳簿の内容を整理しながら、彼は冷静に分析を進めた。  

「領地の収益は悪くないな。年ごとに多少の変動はあるが、安定している」  

「ええ、それは父が昔から大事にしてきたものです」  

「なら、支出のほうを見直すべきだな」  

葛城は次々と数字を書き出し、無駄な項目を洗い出していく。  

「まず、この贅沢品の購入費。これは貴族としての威厳を保つためだろうが、今の家計には負担が大きすぎる」  

「でも、ある程度の格式は必要では…?」  

「最低限ならな。しかし、この額は明らかに過剰だ」  

セシリアは不安げに帳簿を覗き込んだ。  

「そんなに…?」  

「必要なものとそうでないものを区別しなければ、どこまでも無駄遣いは増える。特に、この『交際費』という項目、かなりの金額が計上されているが、本当に必要なものか?」  

「それは…」  

セシリアは言葉を詰まらせた。  

「実際にどう使われているのか、詳しく調べたほうがいいな」  

「わかりました」  

彼女は真剣な表情で頷いた。  

「あと、この税金。貴族の義務として払っているものだろうが、内容が不明確だ。貴族の義務とはいえ、適正な額であるか確認するべきだな」  

「確かに、父は何も疑問を持たずに払っていました…」  

「税というのは、国にとっても貴族にとっても重要な資金だ。しかし、ただ払うだけでは意味がない。適正な額を知り、無駄な負担を減らすことも必要だ」  

セシリアは深く息をついた。  

「こんなこと…私は考えたこともありませんでした」  

「貴族でも経理を学ぶべきだということだな」  

机の上で丸くなっていたモルディが、ふっと笑った。  

「オッサン、もう貴族の教師みたいになってるな」  

葛城は肩をすくめた。  

「俺はただの経理屋だよ」  

  

◇◇◇  

  

それから数日、葛城はセシリアとともに財務管理を進めた。  

最初は戸惑っていた彼女も、次第に帳簿の数字を理解し始め、支出の見直しに積極的に関わるようになった。  

「帳簿を見るのが楽しくなってきました!」  

彼女のその言葉を聞いたとき、葛城は思わず笑ってしまった。  

「まさか貴族の娘が、帳簿の管理に興味を持つとはな」  

モルディが尻尾を揺らしながら言った。  

「貴族がこんなに真面目に勉強するなんて珍しいぜ」  

「言うな。俺も驚いてる」  

セシリアは真剣な目で帳簿を見つめていた。  

「これまでは、ただ父の決定に従うだけでした。でも、今は少しずつ、自分で判断できるようになった気がします」  

「それが財務管理の第一歩だ。金の流れを知り、適切に運用する。それができれば、どんな状況でも立て直せる」  

セシリアは力強く頷いた。  

屋敷の財務が安定し始めると、周囲の貴族たちも変化に気づき始めた。  

「セシリアの家が、急に財政を立て直したらしい」  
「何か特別な方法を使ったのか?」  
「どうやら、『葛城商会』というところが関わっているらしい」  

貴族の間で、葛城の名が少しずつ広まっていった。  

彼の元へ、財務管理を依頼する貴族が増え始めるのは、そう遠くない未来のことだった。  
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