隼人と翔の休日

中岡 始

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露天風呂へと続く小道を歩く隼人と翔。道の両側には色とりどりの紅葉が広がり、木々の間からはひんやりとした秋の風が吹き抜ける。その道の先にある露天風呂は、まるで森の中にそのまま作られたかのように、自然の息吹を感じさせる開放的な空間だった。湯気が立ち上り、周囲の静寂が湯船を優しく包み込んでいる。

隼人は湯船の縁に腰を下ろし、ゆっくりとお湯の中へと身を沈めた。温かい湯が全身を包み込むと、緊張していた体がほぐれていくのが分かる。隼人は目を閉じ、静かな山々に耳を傾けながら、深く呼吸を繰り返した。日々の仕事の中で蓄積していた疲労が、湯の中へと溶け出していくように感じられた。

「本当にいい湯だな…」

隼人はぽつりと呟いた。

ふと隣を見ると、翔が静かに湯に浸かっていた。無言のまま、目を閉じて湯船の心地よさを堪能している姿に、隼人は思わず目を細めた。翔のそばにいることで、隼人は今、自分がどれだけ安らぎを得ているのかを改めて実感していた。普段の生活ではあまり意識することがなかったが、こうして静かな場所で二人だけの時間を過ごすと、その存在がどれほど大きな意味を持つかがはっきりと感じられた。

隼人はふと、心に積もっていた重苦しさが少しずつ和らいでいることに気づいた。翔が自分を支えてくれていること、ただ隣にいるだけで自分にとって大きな支えとなっていることを、湯に浸かりながら改めて思い知った。

「こうしてゆっくりできるの、久しぶりだな」

と隼人が口を開くと、翔は目を開けて軽くうなずいた。

「そうだな。たまにはこういう時間も必要だと思うよ」

その言葉に隼人は静かに笑みを浮かべ、再び目を閉じた。湯船の温かさと翔の存在が、今の隼人にとって何よりも心地よい安らぎをもたらしていた。どれだけ疲れていたかを今さらのように実感しつつも、彼はこの休暇が自分にとって必要なものであったことを強く感じていた。

――

そして夕食。
女将が丁寧に用意してくれた料理が部屋の座卓に並んでいた。秋の味覚が存分に味わえる季節の山菜や、川魚を使った料理が美しく盛り付けられており、二人の顔からは自然と笑顔がこぼれた。夕食が始まり、隼人は静かに地酒を味わいながら、ほっと一息ついた。温かみのある灯りが室内を包み込み、食事の彩りがさらに際立って見える。

「この川魚、柔らかくて味がすごく良いな」

翔が箸を持ちながらそう言うと、隼人も頷いた。

「確かに、ここまで美味しいとは思わなかったな。新鮮な素材だからこそだろうね」

互いに料理の感想を言い合う中で、二人の視線が自然と交差した。食事をしながら、翔の笑顔や言葉が隼人の心を穏やかにし、何とも言えない温かさが胸に広がっていく。

会話が途切れても、二人の間に気まずさはなかった。むしろ、沈黙が心地よい静寂として感じられる。食事の音と遠くで聞こえる川のせせらぎが、その沈黙に豊かさを添えていた。隼人は、普段の仕事では感じることのなかった、この特別な時間を味わいながら、「翔がそばにいるからこそ、自分も心からリラックスできているのかもしれない」と思うようになっていた。

隼人は芳醇な地酒を一口飲み干し、湯気の立つ料理に目を移した。そして、隣の翔の様子をちらりと見た。翔もまた、静かに料理を楽しんでいる。いつもと変わらないはずの翔の笑顔が、今夜は格別に心を温かくさせた。

「こういう料理って、やっぱり地元の人が作るからこそ味わえるんだよな」

翔が言うと、隼人は小さく笑って答えた。

「そうだな。普段はこんな風に落ち着いて食事を楽しむことなんて、なかなかないからね」

その会話に、さらに温かさが増すような気がした。隼人は、食事を通じて感じる幸福感が、翔との時間の中で育まれていることを強く意識するようになっていた。
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