オッサン転生 ~イケメン勇者だが腰は痛い~

中岡 始

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龍司の「社会人スキル」が光る!

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 王都の喧騒から少し離れた、石畳の静かな街路を進む。

 バルドレイ侯爵との面会を終えた龍司は、もう一人の当事者――クラーク男爵と接触するために、仲間たちを連れて彼の屋敷へ向かっていた。

 「本当に話を聞きに行くだけでいいの?」

 リリィが腕を組みながら歩く。

 「正面から討伐に行った方が早いんじゃない?」

 「それだと、俺たちがただの駒で終わるんだよ」

 龍司はため息をついた。

 「確かに、魔物退治自体は難しくないかもしれない。でも、討伐したところで、侯爵の手柄になるだけだ。それに、男爵側が本当に魔物を放ったのかどうかもわからない」

 「つまり、情報が足りないってことね」

 クロードが冷静に言う。

 「そういうこと。まずは男爵の話を聞いてみる」

 ***

 クラーク男爵の屋敷は、侯爵邸と比べるとこぢんまりとしていたが、それでも十分に豪奢だった。

 龍司たちは門番に名を告げ、しばらく待たされた後、応接室へと通された。

 そこにいたのは、四十代半ばの痩せぎすの男だった。

 クラーク男爵は椅子に深く腰掛け、こちらを観察するような鋭い目つきをしている。

 「珍しい客だな。バルドレイ侯爵が雇った冒険者と聞いたが」

 「ええ、討伐の依頼を受けました」

 龍司は適度に礼儀正しく答えた。

 「ただ、その前に確認したいことがありましてね」

 男爵は薄く笑った。

 「なるほど。疑問を持つのは悪くない。お前たちがただの剣しか振るえない能なしなら、わざわざ相手をするつもりはなかったが…話が通じるなら、聞くだけは聞いてやろう」

 「率直にお聞きします。今回の魔物の件、あなた方が意図的に仕組んだものではないんですか?」

 龍司が直球で切り込むと、男爵は少し驚いたように目を細めた。

 「それは面白い。だが、断言しておこう。我が領地から魔物を放った事実はない」

 「ですが、発生源は男爵領の方からだと聞きました」

 「それが事実ならば、なぜ私の領地では被害が出ていない?」

 「……?」

 「魔物はまっすぐ侯爵領へ向かったのだ。妙だとは思わんか?」

 龍司は考え込んだ。

 「確かに、それは不自然ですね」

 「私も調査を進めているが、魔物の出現には何者かの意図があると考えている」

 男爵は指先でテーブルを叩きながら続ける。

 「逆に、侯爵が自作自演で魔物を放った可能性すらあるぞ」

 「なんですって?」

 リリィが驚きの声を上げる。

 「考えてみろ。魔物を討伐すれば、民衆の支持が得られる。さらに、王都の貴族たちにも『有能な領主』として印象付けることができる」

 男爵の言葉に、龍司は確信を得た。

 これは、貴族同士の権力争いの一環なのだ。

 ***

 屋敷を後にし、街を歩きながら龍司は仲間たちに言った。

 「お互いに疑心暗鬼になってるな」

 「どうするの?」

 クロードが尋ねる。

 「このまま討伐しても、どちらかの手柄になるだけだ。それに、俺たちがどちらかの側につく形になるのも面倒だ」

 「だったら、戦わずに解決すれば?」

 マルコが冗談めかして言ったが、龍司は真剣に頷いた。

 「その通りだ。俺たちは冒険者であって、貴族の駒じゃない。なら、魔物討伐を『貴族連合の合同作戦』に仕立て上げる」

 「合同作戦?」

 リリィが首を傾げる。

 「お前たち、ここで争ってる場合じゃない。魔物を排除することが最優先だろ?」

 龍司は侯爵と男爵、両者に同じ言葉を投げかけるつもりだった。

 「両方の貴族の兵を動員させて、共同で魔物を討伐させる。それなら、一方だけの手柄にはならないし、王都の貴族社会に対しても『協調の姿勢を示した』というアピールになる」

 「そんなの、貴族が簡単に受け入れると思う?」

 「受け入れざるを得ない状況を作るんだよ」

 龍司は不敵に笑う。

 「もしどちらかが拒否すれば、『協力を拒んだのはそちら』という印象を王都の貴族たちに与えられる。貴族にとって、世間体は重要なものだからな」

 「なるほどね…」

 リリィが目を丸くする。

 「まさか、戦わずに交渉で片をつけるとはな」

 クロードが感心したように言う。

 「いや、交渉で片をつけるんじゃない。状況を動かして、相手に決断させるんだ」

 龍司は静かに言った。

 戦場で剣を振るうだけが戦いではない。

 交渉と根回しもまた、一つの戦いなのだ。

 「おっさんの社会人スキル、舐めるなよ」

 こうして、龍司は魔物討伐を単なる戦闘ではなく、貴族同士の対立を解消するための機会へと変える道を模索し始めた。
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