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第1章 目覚めれば袴男子〜転生!推し爆誕!萌えが呼吸!
設定資料、現地採集中
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朝食の時間が近づくにつれ、下宿の中には人の気配が満ちてきた。
柱のきしむ音、廊下を歩く足音、台所から聞こえる味噌汁を煮立てる匂い。
どれもが、ひかるにとって新鮮で、まるで物語の中に入り込んでしまったようだった。
部屋の襖を開けると、廊下から湯気の混じった温かな空気がふわりと流れ込んでくる。
柔らかい足音を立てて、ひかるは台所の方へ向かった。
慣れない和装での歩行は少しぎこちないが、不思議と体がそれに馴染んでいる気もする。
台所には、年配の女性が立っていた。
灰色の髪をきちんと結い上げた落ち着いた佇まい。
優しい目元ときびきびした動作が印象的な、気品のある人物だった。
彼女が、こちらを振り向いた。
「あら、おはよう。よく眠れたかしら?」
声は柔らかいが、しっかり芯がある。
まるで良家の奥様のような気配を漂わせている。
「はい……あの、はじめまして。私…その、桃野ひかりと申します」
自分の言葉に、ひかるは少しだけ遅れて戸惑いを覚えた。
名前は、とっさに咄嗟の偽名ではなく、本名に近いものを口にしてしまっていた。
「桃野さんね。聞いてるわよ。遠縁のおばさまからお話は伺ってるから、安心してね。…この風籠荘では、皆で助け合って暮らすのが決まり。気楽に過ごしてちょうだい」
その一言で、ひかるの肩の力が少し抜けた。
「ありがとうございます」
「それにしても、読書が好きな子だって聞いてたけど、本当にその通りなのね。机にずっと本を広げていたって。もしかして、なにかお書きになるの?」
「え、あ…はい、その……」
一瞬、思考が空転した。
しかし、躊躇いよりも早く、口が勝手に答えていた。
「文を書いています……物語を、少しだけ」
そう言いながら、自分でも驚くほど自然に言葉が出てきたことに気づく。
そうか。わたしはここでも書くのだ。
名前も知らぬ彼の後ろ姿を、この気配を、この空気を、きっと書かずにはいられない。
「まあ、それは素敵ね。文学が好きな子は、この時代には貴重よ。女であっても筆を持てるのは幸せなこと」
園田つばきと名乗ったその女性は、目元を細めて微笑んだ。
その表情には、どこかすでに“同志”のようなあたたかさすら感じられる。
もしかして――この人、腐女子…?
そんな突拍子もない考えが脳裏をよぎるが、今は深く追わないことにした。
朝食は、食卓で他の下宿人たちと共にとる形だった。
白米に味噌汁、煮物、漬物と、素朴ながら心温まる内容。
その中で、ひかるは静かに、しかし鋭く周囲の人物観察を始めていた。
正面の席に座ったのは、髪を七三に整えた青年。
袖口からのぞく細い手首、丁寧な箸の動き、口元を拭く所作。
その一連の動きに、ひかるの妄想センサーが敏感に反応した。
(この人……育ちが良い系の副会長ポジ……攻め寄り?いや、意外と受けワンチャンも…)
隣の席の書生は、小柄でやや猫背気味。
目が合うと小さく会釈をしてきたが、その瞬間にひかるの脳内では“人懐こい後輩受け”のラベルが即時貼り付けられていた。
(この子、絶対に年上攻めにふわっと懐くタイプ……お弁当作ってくるタイプ…)
さらに、食後に出かけた先の路地裏では、小さな古書店の前でまたひとり、逸材を見つけてしまう。
書棚の前に立つ和装の少年。
清潔な身なり、挨拶が丁寧で語尾が柔らかく、言葉遣いに品がある。
しかし、その目はどこか人と距離を置いているような冷たさがあり、思わずひかるは声を出しそうになるのを堪えた。
(これは……ヤバい。圧倒的“人当たりのいいツン系受け”……)
視界に入るすべての人物が、何かしらの“属性”を背負って立っているように感じられる。
世界が“萌え”でできているのでは、と本気で思えてきた。
ひかるは、そっと文具店で筆とスケッチ帳を買い、その日の午後、部屋にこもってページを開いた。
まだ何も書いていない真新しい紙面に、彼女は筆を取り、こう書き始めた。
「推し属性MAP:風籠荘とその周辺」
その下に、手描きの間取りと通りの地図、そして人物の特徴と判定結果を記していく。
・村瀬蒼
→ 書生。黒髪、眼鏡、伏し目がち。静かな声。白シャツに袴。後ろ姿が国宝級。
→ 受け度97%。だがスパダリ攻めの可能性も残しておく。将来的にスイッチタイプか。
・和泉(副会長系)
→ 襟の整い方が完璧。所作に品。書くときの姿勢が攻め。
→ 攻め度85%。受け時は“受けの美学”を語りがち。
・書店の少年(仮名・鶴丸)
→ 美しい敬語。しっかり者。声が低くて抑揚が少ない。
→ ツン受け。年下×年上カプの受け筆頭候補。
書いているうちに、ひかるの頬がゆるむ。
どのページにも、日常のなかに滲む“キャラ”の気配がある。
それは、自分がかつて空想していた「架空の世界」の中に今、自分が立っているという証だった。
(…この世界、まさかの…地上の楽園…妄想温泉…)
息を吐いて、筆を置いた。
障子の外では、庭の木々が風に揺れ、鳥の鳴き声が静かに響いていた。
ここでなら、書ける。
この日々、この人々、この空気。
すべてが、ひかるの物語の材料になる。
そして、ひかるは思った。
(創作って……取材だったんだ……)
それは、どこか真理に触れたような感覚だった。
彼女の中で、物語の輪郭が、少しずつ、はっきりと形を成していった。
柱のきしむ音、廊下を歩く足音、台所から聞こえる味噌汁を煮立てる匂い。
どれもが、ひかるにとって新鮮で、まるで物語の中に入り込んでしまったようだった。
部屋の襖を開けると、廊下から湯気の混じった温かな空気がふわりと流れ込んでくる。
柔らかい足音を立てて、ひかるは台所の方へ向かった。
慣れない和装での歩行は少しぎこちないが、不思議と体がそれに馴染んでいる気もする。
台所には、年配の女性が立っていた。
灰色の髪をきちんと結い上げた落ち着いた佇まい。
優しい目元ときびきびした動作が印象的な、気品のある人物だった。
彼女が、こちらを振り向いた。
「あら、おはよう。よく眠れたかしら?」
声は柔らかいが、しっかり芯がある。
まるで良家の奥様のような気配を漂わせている。
「はい……あの、はじめまして。私…その、桃野ひかりと申します」
自分の言葉に、ひかるは少しだけ遅れて戸惑いを覚えた。
名前は、とっさに咄嗟の偽名ではなく、本名に近いものを口にしてしまっていた。
「桃野さんね。聞いてるわよ。遠縁のおばさまからお話は伺ってるから、安心してね。…この風籠荘では、皆で助け合って暮らすのが決まり。気楽に過ごしてちょうだい」
その一言で、ひかるの肩の力が少し抜けた。
「ありがとうございます」
「それにしても、読書が好きな子だって聞いてたけど、本当にその通りなのね。机にずっと本を広げていたって。もしかして、なにかお書きになるの?」
「え、あ…はい、その……」
一瞬、思考が空転した。
しかし、躊躇いよりも早く、口が勝手に答えていた。
「文を書いています……物語を、少しだけ」
そう言いながら、自分でも驚くほど自然に言葉が出てきたことに気づく。
そうか。わたしはここでも書くのだ。
名前も知らぬ彼の後ろ姿を、この気配を、この空気を、きっと書かずにはいられない。
「まあ、それは素敵ね。文学が好きな子は、この時代には貴重よ。女であっても筆を持てるのは幸せなこと」
園田つばきと名乗ったその女性は、目元を細めて微笑んだ。
その表情には、どこかすでに“同志”のようなあたたかさすら感じられる。
もしかして――この人、腐女子…?
そんな突拍子もない考えが脳裏をよぎるが、今は深く追わないことにした。
朝食は、食卓で他の下宿人たちと共にとる形だった。
白米に味噌汁、煮物、漬物と、素朴ながら心温まる内容。
その中で、ひかるは静かに、しかし鋭く周囲の人物観察を始めていた。
正面の席に座ったのは、髪を七三に整えた青年。
袖口からのぞく細い手首、丁寧な箸の動き、口元を拭く所作。
その一連の動きに、ひかるの妄想センサーが敏感に反応した。
(この人……育ちが良い系の副会長ポジ……攻め寄り?いや、意外と受けワンチャンも…)
隣の席の書生は、小柄でやや猫背気味。
目が合うと小さく会釈をしてきたが、その瞬間にひかるの脳内では“人懐こい後輩受け”のラベルが即時貼り付けられていた。
(この子、絶対に年上攻めにふわっと懐くタイプ……お弁当作ってくるタイプ…)
さらに、食後に出かけた先の路地裏では、小さな古書店の前でまたひとり、逸材を見つけてしまう。
書棚の前に立つ和装の少年。
清潔な身なり、挨拶が丁寧で語尾が柔らかく、言葉遣いに品がある。
しかし、その目はどこか人と距離を置いているような冷たさがあり、思わずひかるは声を出しそうになるのを堪えた。
(これは……ヤバい。圧倒的“人当たりのいいツン系受け”……)
視界に入るすべての人物が、何かしらの“属性”を背負って立っているように感じられる。
世界が“萌え”でできているのでは、と本気で思えてきた。
ひかるは、そっと文具店で筆とスケッチ帳を買い、その日の午後、部屋にこもってページを開いた。
まだ何も書いていない真新しい紙面に、彼女は筆を取り、こう書き始めた。
「推し属性MAP:風籠荘とその周辺」
その下に、手描きの間取りと通りの地図、そして人物の特徴と判定結果を記していく。
・村瀬蒼
→ 書生。黒髪、眼鏡、伏し目がち。静かな声。白シャツに袴。後ろ姿が国宝級。
→ 受け度97%。だがスパダリ攻めの可能性も残しておく。将来的にスイッチタイプか。
・和泉(副会長系)
→ 襟の整い方が完璧。所作に品。書くときの姿勢が攻め。
→ 攻め度85%。受け時は“受けの美学”を語りがち。
・書店の少年(仮名・鶴丸)
→ 美しい敬語。しっかり者。声が低くて抑揚が少ない。
→ ツン受け。年下×年上カプの受け筆頭候補。
書いているうちに、ひかるの頬がゆるむ。
どのページにも、日常のなかに滲む“キャラ”の気配がある。
それは、自分がかつて空想していた「架空の世界」の中に今、自分が立っているという証だった。
(…この世界、まさかの…地上の楽園…妄想温泉…)
息を吐いて、筆を置いた。
障子の外では、庭の木々が風に揺れ、鳥の鳴き声が静かに響いていた。
ここでなら、書ける。
この日々、この人々、この空気。
すべてが、ひかるの物語の材料になる。
そして、ひかるは思った。
(創作って……取材だったんだ……)
それは、どこか真理に触れたような感覚だった。
彼女の中で、物語の輪郭が、少しずつ、はっきりと形を成していった。
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