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10日間の空白、それが何より雄弁だった
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昼休みの教室には、ゆるいざわめきが満ちていた。
弁当を広げる音、椅子を引く音、廊下を走る足音。それらが雑然と混ざり合い、いつもの日常が繰り返されているはずだった。
だが、その一角。女子生徒たちが集まる机の周囲だけは、少し異質な熱を帯びていた。
「結翔くん、ほんとに何もポストしてないよね」
スマホの画面をのぞき込むようにして、小さく声を落とす。
「凪くんのカメラロールも、もう十日以上更新なし。ストーリーすらないとか、珍しすぎて逆に不安なんだけど」
もう一人が続ける。眉をひそめながら、画面をスクロールする指を止める。
彼らは元々、過剰なほど発信していた。
投稿は日課のように、時にあざとく、時に意味深に。
写真の構図、投稿時間、言葉の選び方までもが、互いに呼応するかのように計算されていた。
フォロワーたちは、それを当然のように享受していた。
だからこそ、ふたりが同時に“黙った”ことの意味は、大きかった。
「なにこれ、まさか喧嘩……?でもリアルで見た感じ、普通っぽくない?」
「いや、でもあのふたりが揃って無言って、それだけでも事件じゃん」
「付き合ってたんじゃないのって言ってたのに……え、じゃあ今って、冷却期間的な?」
小さな噂話が、教室の空気にさざ波のように広がっていく。
それを、凪は聞こえていないふりをしていた。
彼は窓際の席に座り、文庫本を片手にしていた。
ページをめくる指は滑らかで、その横顔はいつも通りの整った静けさを保っている。
頬のラインに光が落ち、まつげの影が頬をかすめていた。
一見、変わらない。
だが、その髪に触れる指先が、妙に頻繁だった。
前髪を整えるようにして何度も触れ、右手が耳元に上がるたび、軽く空気をかき乱す。
その動作には、無意識の苛立ちか、あるいは何かを整えようとする意図が含まれていた。
ページを閉じると、凪はふと窓の外を見た。
吹き抜ける秋の風が、校庭の紅葉をほんのわずかに揺らしている。
その光景を見ながらも、彼の眼差しは遠くを捉えているようで、どこか焦点が合っていなかった。
一方、結翔は教壇寄りの席にいた。
彼の姿もまた、端正で、いつも通りに見えた。
黒髪は整っていて、制服の襟も乱れなく、持っていた手帳を静かにめくっていた。
だが、ある瞬間、その指がぴたりと止まった。
誰にも気づかれないような動作の中で、結翔はスマホを手に取った。
画面を開き、通知欄を確認する。
その表情に動きはない。
けれど、画面を見つめる瞳に、一瞬だけ影が落ちた。
通知は、何もなかった。
凪からのいいねも、ストーリーの閲覧も、DMも。
なにも、なかった。
ほんの少しだけ、唇がわずかに開きかける。
だが何も言わず、スマホを閉じ、ポケットへしまった。
そしてまた、何もなかったかのように手帳を開く。
でも、そのページの内容が頭に入っていないことは、本人が一番よく分かっていた。
投稿が止まった。それだけだ。
だが、それだけのことで、世界がこんなにもざわつく。
それほどまでに、ふたりの“発信”は、この教室にとって日常の一部だった。
凪も、結翔も、それを意識していないわけではなかった。
むしろ、意識しているからこそ、動けなかった。
「何かを言えば、また戻れるのかもしれない」
「でも、今、何を言っても全部、違う気がする」
互いがそう思っていることを、どちらも知らなかった。
教室の空気は、ふたりを中心にして、まるで目に見えない真空地帯のようだった。
視線を交わさず、声も交えず、ただ隣接する沈黙。
そのなかに、伝わらなかった言葉の余韻だけが、まだ残っていた。
弁当を広げる音、椅子を引く音、廊下を走る足音。それらが雑然と混ざり合い、いつもの日常が繰り返されているはずだった。
だが、その一角。女子生徒たちが集まる机の周囲だけは、少し異質な熱を帯びていた。
「結翔くん、ほんとに何もポストしてないよね」
スマホの画面をのぞき込むようにして、小さく声を落とす。
「凪くんのカメラロールも、もう十日以上更新なし。ストーリーすらないとか、珍しすぎて逆に不安なんだけど」
もう一人が続ける。眉をひそめながら、画面をスクロールする指を止める。
彼らは元々、過剰なほど発信していた。
投稿は日課のように、時にあざとく、時に意味深に。
写真の構図、投稿時間、言葉の選び方までもが、互いに呼応するかのように計算されていた。
フォロワーたちは、それを当然のように享受していた。
だからこそ、ふたりが同時に“黙った”ことの意味は、大きかった。
「なにこれ、まさか喧嘩……?でもリアルで見た感じ、普通っぽくない?」
「いや、でもあのふたりが揃って無言って、それだけでも事件じゃん」
「付き合ってたんじゃないのって言ってたのに……え、じゃあ今って、冷却期間的な?」
小さな噂話が、教室の空気にさざ波のように広がっていく。
それを、凪は聞こえていないふりをしていた。
彼は窓際の席に座り、文庫本を片手にしていた。
ページをめくる指は滑らかで、その横顔はいつも通りの整った静けさを保っている。
頬のラインに光が落ち、まつげの影が頬をかすめていた。
一見、変わらない。
だが、その髪に触れる指先が、妙に頻繁だった。
前髪を整えるようにして何度も触れ、右手が耳元に上がるたび、軽く空気をかき乱す。
その動作には、無意識の苛立ちか、あるいは何かを整えようとする意図が含まれていた。
ページを閉じると、凪はふと窓の外を見た。
吹き抜ける秋の風が、校庭の紅葉をほんのわずかに揺らしている。
その光景を見ながらも、彼の眼差しは遠くを捉えているようで、どこか焦点が合っていなかった。
一方、結翔は教壇寄りの席にいた。
彼の姿もまた、端正で、いつも通りに見えた。
黒髪は整っていて、制服の襟も乱れなく、持っていた手帳を静かにめくっていた。
だが、ある瞬間、その指がぴたりと止まった。
誰にも気づかれないような動作の中で、結翔はスマホを手に取った。
画面を開き、通知欄を確認する。
その表情に動きはない。
けれど、画面を見つめる瞳に、一瞬だけ影が落ちた。
通知は、何もなかった。
凪からのいいねも、ストーリーの閲覧も、DMも。
なにも、なかった。
ほんの少しだけ、唇がわずかに開きかける。
だが何も言わず、スマホを閉じ、ポケットへしまった。
そしてまた、何もなかったかのように手帳を開く。
でも、そのページの内容が頭に入っていないことは、本人が一番よく分かっていた。
投稿が止まった。それだけだ。
だが、それだけのことで、世界がこんなにもざわつく。
それほどまでに、ふたりの“発信”は、この教室にとって日常の一部だった。
凪も、結翔も、それを意識していないわけではなかった。
むしろ、意識しているからこそ、動けなかった。
「何かを言えば、また戻れるのかもしれない」
「でも、今、何を言っても全部、違う気がする」
互いがそう思っていることを、どちらも知らなかった。
教室の空気は、ふたりを中心にして、まるで目に見えない真空地帯のようだった。
視線を交わさず、声も交えず、ただ隣接する沈黙。
そのなかに、伝わらなかった言葉の余韻だけが、まだ残っていた。
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