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聞かれた、見られた…

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「それでさぁ」
キッチンに立つ私に、翔が声をかけてきた。
「…なんでしょう」
「さっきの話の続きなんだけど、紗綾に本当の奥さんの振りをしてほしくて。1ヶ月だけ。その後はマスコミには自然消滅ってことで、何も言わなければ良い。簡単でしょ?
どう?やってみない?」
奥さんの振り…か。
少し前の私だったら、即却下だっただろう。
でも、翔に    何か     を奪われた今、少し考えてしまった。
「具体的に、何をすれば?」
「そーだねぇ、手を繋ぐとか、ハグするとか?
三食作ってもらうとか!どう?」
手を繋ぐ…ハグ…無理だ。25年間男経験一切無しの私にできるはずがない。
「ご、ごはん作るくらい…なら」
「えー、やだ。
せめて手くらい繋がせてよ!お願い!この通り!」
この通りってなんだ。またあの上目使いじゃないか。ムカつく。
「そんなの、あの噂されてる女優さんでも良いじゃないですか!どう考えたって、私よりキレイですし…」
私がこう言った途端、翔は俯いてしまった。
不安になった私は、キッチンを離れて翔の側に駆け寄った。
あれ…?顔が赤い?
「わー!やめて、見ないで!ご飯作って下さい!
はい!お願いします!」
翔は顔を手で覆いながら、自分の部屋に去っていってしまった。


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翔side…

落ち着け俺。
えっと、昨日は家に紗綾をお持ち帰りして、その後、まあいろいろ話して…
バレたかな、バレちゃったかなあ、顔真っ赤にしてるの。
「噂されてる女優さんでも良いじゃないですか!どう考えたって、私よりキレイですし…」
か。
言えない。言える訳がない。
手を繋ぎたいのとか、誰でも良いわけじゃない。紗綾としたいって、心の底から思えたのに。

こんなお調子者キャラだからそう思われちゃうのか…なんて考えたりもする。でも、無理にでも明るくいないと、なんだかドキドキに押し潰されそうになって…
「俺、紗綾の事好きなんだなあ」
そんな言葉が、口からポロリと出てしまった。



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紗綾side…

お料理が出来て、10分くらいか。翔が部屋から出てこない。
嫌われた?
いや、そもそも好かれてはいないのか。よく考えたら、出会って1日。
料理だけ部屋に持っていこう。その後のことはまた考える。
翔の部屋のドアを開けた。
そーっと入ると、翔の声が聞こえた。


「俺、紗綾の事好きなんだなあ」

今、聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がする。
いやいや、嘘だよね。そんな、出会って間もない私が好きだなんて、、、


――――――――――――――――――――――――――
両side…

翔が紗綾の方を見た。
二人はきっと同じような事を考えていただろう。


翔(聞かれた…!)
紗綾(見られた…!)


紗綾「し、し、失礼しました!!!」
紗綾はおぼんにのった料理を机に叩きつけ、慌てて部屋から出ていった。

翔は湯気が出るほど顔を赤くして、それから15分間、部屋の中に閉じこもっていたという。
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