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第一章

変化とは、常に勇気を必要とするもの。――5

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 Eランクダンジョンのゲートは、台東区にあるはいビルの、二階にあった。

 ゲートは二メートルほどの楕円形だえんけい。黒を基調としており、無数にちりばめられた、キラキラ輝く白い粒がうずを描いている。

 学術雑誌に載っている銀河のような、神秘的な光景。この先に凶悪なモンスターがたむろしているのだから、皮肉な話だ。

 ゲートのそばには、探索者協会の職員が二名、立っていた。

 ゲートから出てきたモンスターが人々を襲わないよう、探索者協会はゲートの管理をしている。彼らはゲートの監視役なのだろう。

 俺は職員のひとりに声をかけた。

「ダンジョンに挑みたいのですが」
「探索許可書はお持ちですか?」

 対応してくれた職員に、柳さんに発行してもらった探索許可書を提示する。

 探索許可書を受け取った職員は、それが本物かどうかをじっくり確かめて――

「承りました。どうぞお気を付けて」

 俺をゲートの前まで案内してくれた。

 ゲートを前にして、緊張と不安がよみがえる。思わず後退あとずさりそうになり――俺は気合で持ちこたえた。

 やるって決めただろ! 尻込しりごんでどうする!

 弱気な自分に負けないよう、俺は両手で頬を叩く。ヒリヒリとした痛みが俺にかつを入れてくれた。

「よし!」

 自分をはげますように声を上げ、俺はゲートをくぐった。

 ぐにゃりと視界が歪み、体が浮遊感を覚える。

 視界が戻り、浮遊感がなくなると、俺はダンジョンのなかにいた。

 周りが岩で構成された洞穴ほらあな。左右の壁には、誰が用意したのかわからない松明たいまつがかけられている。

洞窟どうくつ系ダンジョンか……」

 ダンジョンにはいくつもの種類があるが、このダンジョンはもっとも多い系統――洞窟系のようだ。

 ダンジョンの種類を確認し、俺は歩き出した。

 俺のステータス的に、モンスターに不意ふいを突かれたらマズい。対応できないまま一気に押し切られてしまう。

 そのため、俺は辺りを警戒しながら慎重しんちょうにダンジョンを進んでいった。

 五分ほど歩いたとき、俺は視界の先に一体のモンスターをとらえた。

 深緑の肌をした、体長一五〇センチほどの小鬼。手にするのは木製の棍棒こんぼう

 Eランクダンジョンに生息しているモンスターの代表格『ゴブリン』だ。

 ドクンッ! と心臓が跳ねる。

 ゴブリンに見つからないうちに、俺は急いで近くにあった岩陰に隠れた。

 そろりとうかがうと、ゴブリンは獲物を探すようにキョロキョロと辺りを見回している。気づかれてはいないようだ。

 ふぅ、と一息つきながらも、俺の鼓動は荒ぶっていた。まるでバスドラムが連打されているかのようにうるさい。頭のなかも恐怖で濁っている。

 ソロでモンスターに挑むのははじめてなのだから、しかたない。

 俺のステータスはゴブリンよりわずかに上だ。とはいえ、普通に戦ったら勝率は六割くらいだろう。負ける可能性は――死んでしまう可能性は充分にある。

 怖い。怖くて怖くてたまらない。

 だけど、逃げない。

「こういうときは、あれだ」

 俺は目をつむり、顔の前で手を合わせた。

 ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐く。

 プロのカードゲーマーだったとき、試合前にいつも行っていたルーティン。一〇〇パーセントの状態で試合にのぞむための儀式ぎしきだ。

 荒ぶっていた鼓動がしずまっていく。恐怖で濁っていた思考がクリアになっていく。

 大丈夫だ。もう気負きおいはない。覚悟も決まった。

 俺は目を開ける。

「行くぞ、勝地真」

 一言、そう口にしてから、俺は岩陰を離れた。
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