6 / 65
第一章
変化とは、常に勇気を必要とするもの。――5
しおりを挟む
Eランクダンジョンのゲートは、台東区にある廃ビルの、二階にあった。
ゲートは二メートルほどの楕円形。黒を基調としており、無数に鏤められた、キラキラ輝く白い粒が渦を描いている。
学術雑誌に載っている銀河のような、神秘的な光景。この先に凶悪なモンスターがたむろしているのだから、皮肉な話だ。
ゲートの側には、探索者協会の職員が二名、立っていた。
ゲートから出てきたモンスターが人々を襲わないよう、探索者協会はゲートの管理をしている。彼らはゲートの監視役なのだろう。
俺は職員のひとりに声をかけた。
「ダンジョンに挑みたいのですが」
「探索許可書はお持ちですか?」
対応してくれた職員に、柳さんに発行してもらった探索許可書を提示する。
探索許可書を受け取った職員は、それが本物かどうかをじっくり確かめて――
「承りました。どうぞお気を付けて」
俺をゲートの前まで案内してくれた。
ゲートを前にして、緊張と不安が蘇る。思わず後退りそうになり――俺は気合で持ちこたえた。
やるって決めただろ! 尻込んでどうする!
弱気な自分に負けないよう、俺は両手で頬を叩く。ヒリヒリとした痛みが俺に活を入れてくれた。
「よし!」
自分を励ますように声を上げ、俺はゲートをくぐった。
ぐにゃりと視界が歪み、体が浮遊感を覚える。
視界が戻り、浮遊感がなくなると、俺はダンジョンのなかにいた。
周りが岩で構成された洞穴。左右の壁には、誰が用意したのかわからない松明がかけられている。
「洞窟系ダンジョンか……」
ダンジョンにはいくつもの種類があるが、このダンジョンはもっとも多い系統――洞窟系のようだ。
ダンジョンの種類を確認し、俺は歩き出した。
俺のステータス的に、モンスターに不意を突かれたらマズい。対応できないまま一気に押し切られてしまう。
そのため、俺は辺りを警戒しながら慎重にダンジョンを進んでいった。
五分ほど歩いたとき、俺は視界の先に一体のモンスターを捉えた。
深緑の肌をした、体長一五〇センチほどの小鬼。手にするのは木製の棍棒。
Eランクダンジョンに生息しているモンスターの代表格『ゴブリン』だ。
ドクンッ! と心臓が跳ねる。
ゴブリンに見つからないうちに、俺は急いで近くにあった岩陰に隠れた。
そろりと窺うと、ゴブリンは獲物を探すようにキョロキョロと辺りを見回している。気づかれてはいないようだ。
ふぅ、と一息つきながらも、俺の鼓動は荒ぶっていた。まるでバスドラムが連打されているかのようにうるさい。頭のなかも恐怖で濁っている。
ソロでモンスターに挑むのははじめてなのだから、しかたない。
俺のステータスはゴブリンよりわずかに上だ。とはいえ、普通に戦ったら勝率は六割くらいだろう。負ける可能性は――死んでしまう可能性は充分にある。
怖い。怖くて怖くてたまらない。
だけど、逃げない。
「こういうときは、あれだ」
俺は目をつむり、顔の前で手を合わせた。
ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐く。
プロのカードゲーマーだったとき、試合前にいつも行っていたルーティン。一〇〇パーセントの状態で試合に臨むための儀式だ。
荒ぶっていた鼓動が鎮まっていく。恐怖で濁っていた思考がクリアになっていく。
大丈夫だ。もう気負いはない。覚悟も決まった。
俺は目を開ける。
「行くぞ、勝地真」
一言、そう口にしてから、俺は岩陰を離れた。
ゲートは二メートルほどの楕円形。黒を基調としており、無数に鏤められた、キラキラ輝く白い粒が渦を描いている。
学術雑誌に載っている銀河のような、神秘的な光景。この先に凶悪なモンスターがたむろしているのだから、皮肉な話だ。
ゲートの側には、探索者協会の職員が二名、立っていた。
ゲートから出てきたモンスターが人々を襲わないよう、探索者協会はゲートの管理をしている。彼らはゲートの監視役なのだろう。
俺は職員のひとりに声をかけた。
「ダンジョンに挑みたいのですが」
「探索許可書はお持ちですか?」
対応してくれた職員に、柳さんに発行してもらった探索許可書を提示する。
探索許可書を受け取った職員は、それが本物かどうかをじっくり確かめて――
「承りました。どうぞお気を付けて」
俺をゲートの前まで案内してくれた。
ゲートを前にして、緊張と不安が蘇る。思わず後退りそうになり――俺は気合で持ちこたえた。
やるって決めただろ! 尻込んでどうする!
弱気な自分に負けないよう、俺は両手で頬を叩く。ヒリヒリとした痛みが俺に活を入れてくれた。
「よし!」
自分を励ますように声を上げ、俺はゲートをくぐった。
ぐにゃりと視界が歪み、体が浮遊感を覚える。
視界が戻り、浮遊感がなくなると、俺はダンジョンのなかにいた。
周りが岩で構成された洞穴。左右の壁には、誰が用意したのかわからない松明がかけられている。
「洞窟系ダンジョンか……」
ダンジョンにはいくつもの種類があるが、このダンジョンはもっとも多い系統――洞窟系のようだ。
ダンジョンの種類を確認し、俺は歩き出した。
俺のステータス的に、モンスターに不意を突かれたらマズい。対応できないまま一気に押し切られてしまう。
そのため、俺は辺りを警戒しながら慎重にダンジョンを進んでいった。
五分ほど歩いたとき、俺は視界の先に一体のモンスターを捉えた。
深緑の肌をした、体長一五〇センチほどの小鬼。手にするのは木製の棍棒。
Eランクダンジョンに生息しているモンスターの代表格『ゴブリン』だ。
ドクンッ! と心臓が跳ねる。
ゴブリンに見つからないうちに、俺は急いで近くにあった岩陰に隠れた。
そろりと窺うと、ゴブリンは獲物を探すようにキョロキョロと辺りを見回している。気づかれてはいないようだ。
ふぅ、と一息つきながらも、俺の鼓動は荒ぶっていた。まるでバスドラムが連打されているかのようにうるさい。頭のなかも恐怖で濁っている。
ソロでモンスターに挑むのははじめてなのだから、しかたない。
俺のステータスはゴブリンよりわずかに上だ。とはいえ、普通に戦ったら勝率は六割くらいだろう。負ける可能性は――死んでしまう可能性は充分にある。
怖い。怖くて怖くてたまらない。
だけど、逃げない。
「こういうときは、あれだ」
俺は目をつむり、顔の前で手を合わせた。
ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐く。
プロのカードゲーマーだったとき、試合前にいつも行っていたルーティン。一〇〇パーセントの状態で試合に臨むための儀式だ。
荒ぶっていた鼓動が鎮まっていく。恐怖で濁っていた思考がクリアになっていく。
大丈夫だ。もう気負いはない。覚悟も決まった。
俺は目を開ける。
「行くぞ、勝地真」
一言、そう口にしてから、俺は岩陰を離れた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,017
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる