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第68話 政治参謀ベラントの不安

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『報告します。
大貴族エンファル様とガルフ様がお顔に怪我をされましたので治療しました。
しかし、言動がいつもと違い私達にも労いの言葉をかけてくださいました。』

そして慌てて入ってくる警備兵。

『報告します!!
大貴族セラン様が中庭に全裸で目も当てられぬ程ボロボロにされて倒れておりました!!
只今治療中です!!』

また慌てて入ってくる警備兵。

『報告します!!!
先程、一階広間で大貴族ファリス様と警備兵6人が全身骨折で医務室へ運ばれました!!
ファリス様に至っては骨折が酷く元の身体には戻れないそうです!!』

ベラントは立て続けに入ってくる大貴族達の有様に困惑している。

『何が起きている?!何か情報は無いのか?!』 

『はっ!一階広間でファリス様と警備兵を骨折させたのは子供だと言っておりました!
スプーンと小枝で一瞬で倒されたそうです!』

『何だとぉぉ!?言っとる意味が分からん!!!何が起こっているのか調べろ!!直ぐにだ!!あとメラを呼べ!!』

ベラントはこめかみを膨らませ怒鳴る。

(この大事な時に・・・問題はまずい。)

『ベラント様お呼びでしょうか?』

『メラ!作戦は問題なく進んでいるんだろうな!?』

失禁して気絶していた事は心にしまって報告する。

『はい!予定通り、受け付けと大会の説明をし、部屋を与えて食事をさせてます!
部屋には先程から例の物を置いて行かせております。』

『ふん!そんな事は誰でも出来る!!問題が無いのが重要なのだ!!
ところで【英雄】と弟子達の動向はどうなっている?』

メラは失禁した事を思い出し唇を噛む。
『は、はい。ファイデル王国からは子供7人と大人3人で参加しています。
今の所、問題は無いです。』

『子供だと?!ん・・・?子供・・・・
まさかな・・・。』

ベラントは先程の報告を思い返し嫌な予感が胸を締め付ける。

『メラ!引き続き作戦の遂行と【英雄】と弟子達の監視だ!!行け!!失敗は許されんぞ!!』

『はっ!!』
メラは歯切れの良い返事と共に部屋を出て行った。

ベラントがソファーに座り溜息を漏らすと、扉の前に隠密が肩で息をして跪いていた。

『ほ、報告します。
【英雄】の屋敷に向かわせた39人が・・・
全滅・・・しました・・・』
脇腹を押さえて苦しそうに話す。

『何だとぉぉぉ!!!全滅ぅぅぅ!!何故だ!!【英雄】と弟子達がいない屋敷で何があったんだ!!!』
ベラントは激昂して立ち上がる!

『や、奴らは、、、こ、こちらの動きを、ぐふっ・・・よ、読んでいました、、、、。
あ、あいつらを・・・て、敵に・・・回しては・・・がはっ!!』

隠密が吐血して倒れて事切れる。
これで屋敷に向かった者が全滅した。

ベラントは呆然と隠密を見ていた。
自分の作戦が読まれていた?!迎撃体制が出来ていた?レベル150越えが40人だぞ?!
一体奴らは何をしたんだ・・・・。

さらに悪い予感がベラントの胸を締め付ける。


俺は一階広間に行く準備をしていると、扉をノックされる。
扉の向こうには12人。さっきの奴隷だった奴らだ。

『開いてるぞ。』

男達が入ってきて跪く。
『改めて礼を言う。俺はエルフォン王国の
カーズだ。
名を教えてくれないか?』

『ファイデル王国のアマクサ・ハヤトだ。
ハヤトでいい。』

『そ、そうか!!あんたが今、帝国で噂になってる英雄ハヤトか!!
成る程、納得がいったぞ!
俺達に何かできる事があったら言ってくれ!
全力で手伝うぞ!』 

『あぁ、その時になったら頼む。それよりも・・・奴隷生活は辛かっただろう。
カーズの手を取り大金貨3枚を手に握らせる。
これで宿を取って美味い物でも食べて、飲んでくれ。
今度、エルフォン王国に寄った時に飯でも奢ってくれ!それでいい。』

カーズ達は涙を滲ませ、今までの地獄から解放された嬉しさと、ハヤトの優しさに触れ感極まっていた・・・。

『ハヤト殿!この恩決して忘れませんぞ!!エルフォン王国へ来た時は国を挙げて歓迎しますぞ!!ありがとう!!!』
男達が一斉に頭を下げる。

俺は男達の意を汲んで
『あぁ、その時は楽しみにしておくよ。
さあ、行ってくれ!これからやる事がある。』

カーズは俺の意図を察して頷く。
『それではご武運を!』
男達は名残惜しそうに出て行った。

ゲランド帝国の人の尊厳を踏み躙る行為に改めて怒りを覚えた。
そして奴らは今夜、慌てふためく事になる。
ハヤトは口角を挙げて悪い顔になるのだった。

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