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ep.03 ホテルでもう一度
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しばらくはざわついていたが、司会の仲本が次の議題を振り、話は他に移った。
そこからは滞りなく報告は終わり、俺は席を立ってミーティングルームを出た。
「おい、お前さあ。よくあんなこと言ったな」
エレベーターホールまで行ったところで、吉田がそう言って背中を叩く。
「普段から考えていたことだし、言ってもいいだろ」
「それにしたって、言い方ってもんがあるだろ」
「そのくらい、俺だって考えて言ったさ」
吉田は、まだぶつぶつ言っていたが、ビルの下に降りた頃には落ち着いたようだ。
「じゃ、今日も勤しみますか!」
俺たちはそこから、企業訪問に向かった。
うちの会社、YAMAGAMIは老舗のビール会社だ。
三強と言われるこの業界の中で、売り上げはトップクラスに食い込んでいる。
今売り出し中のビール「からり晴れ」は、夏に発売されたばかりの新商品だ。
発売前からシリーズものの広告を打ち出し、3回にわたって物語性のあるテレビCMを流してきた。人気俳優を起用していたこともあり、かなりの話題となったのだが、そのうちの一人が不祥事を起こした。それが、イメージダウンとなり、別の意味で有名になってしまった。
せっかく盛り上がっていた機運が台無しになり、社内ムードも落ち込んでいる。
それでも、ビールが美味いのは事実だし、第一俺の惚れ込んだ商品だ。
絶対に売る自信があった。
「今日は、おだて作戦だな」
吉田の言葉に頷いて、俺たちはアポを取っていた会社の担当者に会いに行った。
それを皮切りに、ドラッグストアやコンビニにも営業をかけ、終わったのは夜遅い時間だった。
「お疲れ。お前はどうする?」
「会社に戻るよ」
直帰してもいいところだが、俺は吉田とそこで別れた。
まだ見ておきたいデータがあって、その確認のためだった。
「あれ? 課長、まだいたんですか」
オフィスに入るとまだ明かりがついていて、中に課長の姿がある。
「ああ、一ノ瀬くんか。いや、もう帰るところだよ」
課長は立ち上がって椅子を直し、コートを着込む。
「お疲れ様です」
「ほんと疲れたよ」
そう言って笑い、課長は部屋から出て行った。
これで、俺以外はすべて帰り、一人きりになる。
却って静かで捗るだろうと、買っていた缶コーヒーを飲みながら作業に移る。
それから一時間ほど経った頃だろうか。
ドアを3度ノックする音が、オフィスに響いた。
時計を確認すると、もう22時になるところだ。
もしかしたら、警備の見回りかと立ち上がりかけたところでドアが開いた。
「……え?」
入ってきたのは、美浜部長だ。
「帰るぞ」
「あ、はい。お疲れ様です」
反射的に応えると、なぜかムッとした顔つきになる。
何か苛立つことでも言ったかと会話を反芻しかけたところで、美浜は言う。
「君も帰るんだ」
「えっと、まだ俺はやることが──」
「明日にしろ」
途中で遮られて、言葉が続けられなくなる。
「ついて来い」
そう言って、美浜はドアを開けたまま廊下に消えていく。
「ちょっと、待ってくださいよ」
慌てて周りを片付け、ファイルを閉じてから、俺はコートを引っ掛けてオフィスを出た。
美浜はエレベーターホールの前で、立ち止まっている。
エレベーターを待っているのか、それとも俺を待っていたのか。
到着すると目も合わせずに乗り込んでいく。
仕方なく俺も中に入ると、ドアが閉まったところで口を開いた。
「先日の件だが」
先日、というのはもちろん先週の金曜日のことだろう。
俺が身構えて、次の言葉を待っていると、美浜はさらりととんでもないことを言った。
「今後の日程について、詳細を詰めたい」
まるで仕事のことについて話している口調だが、これは例のアレだろう。
「それは、まだ決定事項ではなかったはずです」
すると、切れ長の瞳がすっと細められた。
やっぱり、整ったいい顔だ。こういうクールな表情がとてもよく似合う。
昼間のツンケンした、侮蔑したような顔も嫌いじゃないが。
そこまで考えたところで、無言で見つめ合ってしまっていたことに気付く。
「では、答えを聞かせてもらおうか」
答えと言われても、そんなの一択しかない。
俺が答えようとしたところで、ポンと軽い音が聞こえる。
階下についてしまったのだとわかり、俺はボタンを押して美浜を促した。
意図に気付いているはずなのに、美浜はなかなか降りようとしない。
幸い周りに人は少ないが、ここでこれ以上やり取りをすれば悪目立ちする。
仕方なく俺は、美浜に提案した。
「どこか場所を移して話しませんか」
すると、美浜は眉を上げ、名案だと言いたげに一つゆっくりと頷いた。
「場所は私に任せろ」
もちろん、その方が助かる。
この会社の部長クラスがどういう生活レベルなのかは大体想像がつく。
そんな人を連れて行ける場所なんて、俺は知らない。
ゆっくり話すとなると、浮かぶのは個室の居酒屋かカラオケルームくらいなものだ。
そこに美浜を連れていくわけにはいかないだろう。
そこからは滞りなく報告は終わり、俺は席を立ってミーティングルームを出た。
「おい、お前さあ。よくあんなこと言ったな」
エレベーターホールまで行ったところで、吉田がそう言って背中を叩く。
「普段から考えていたことだし、言ってもいいだろ」
「それにしたって、言い方ってもんがあるだろ」
「そのくらい、俺だって考えて言ったさ」
吉田は、まだぶつぶつ言っていたが、ビルの下に降りた頃には落ち着いたようだ。
「じゃ、今日も勤しみますか!」
俺たちはそこから、企業訪問に向かった。
うちの会社、YAMAGAMIは老舗のビール会社だ。
三強と言われるこの業界の中で、売り上げはトップクラスに食い込んでいる。
今売り出し中のビール「からり晴れ」は、夏に発売されたばかりの新商品だ。
発売前からシリーズものの広告を打ち出し、3回にわたって物語性のあるテレビCMを流してきた。人気俳優を起用していたこともあり、かなりの話題となったのだが、そのうちの一人が不祥事を起こした。それが、イメージダウンとなり、別の意味で有名になってしまった。
せっかく盛り上がっていた機運が台無しになり、社内ムードも落ち込んでいる。
それでも、ビールが美味いのは事実だし、第一俺の惚れ込んだ商品だ。
絶対に売る自信があった。
「今日は、おだて作戦だな」
吉田の言葉に頷いて、俺たちはアポを取っていた会社の担当者に会いに行った。
それを皮切りに、ドラッグストアやコンビニにも営業をかけ、終わったのは夜遅い時間だった。
「お疲れ。お前はどうする?」
「会社に戻るよ」
直帰してもいいところだが、俺は吉田とそこで別れた。
まだ見ておきたいデータがあって、その確認のためだった。
「あれ? 課長、まだいたんですか」
オフィスに入るとまだ明かりがついていて、中に課長の姿がある。
「ああ、一ノ瀬くんか。いや、もう帰るところだよ」
課長は立ち上がって椅子を直し、コートを着込む。
「お疲れ様です」
「ほんと疲れたよ」
そう言って笑い、課長は部屋から出て行った。
これで、俺以外はすべて帰り、一人きりになる。
却って静かで捗るだろうと、買っていた缶コーヒーを飲みながら作業に移る。
それから一時間ほど経った頃だろうか。
ドアを3度ノックする音が、オフィスに響いた。
時計を確認すると、もう22時になるところだ。
もしかしたら、警備の見回りかと立ち上がりかけたところでドアが開いた。
「……え?」
入ってきたのは、美浜部長だ。
「帰るぞ」
「あ、はい。お疲れ様です」
反射的に応えると、なぜかムッとした顔つきになる。
何か苛立つことでも言ったかと会話を反芻しかけたところで、美浜は言う。
「君も帰るんだ」
「えっと、まだ俺はやることが──」
「明日にしろ」
途中で遮られて、言葉が続けられなくなる。
「ついて来い」
そう言って、美浜はドアを開けたまま廊下に消えていく。
「ちょっと、待ってくださいよ」
慌てて周りを片付け、ファイルを閉じてから、俺はコートを引っ掛けてオフィスを出た。
美浜はエレベーターホールの前で、立ち止まっている。
エレベーターを待っているのか、それとも俺を待っていたのか。
到着すると目も合わせずに乗り込んでいく。
仕方なく俺も中に入ると、ドアが閉まったところで口を開いた。
「先日の件だが」
先日、というのはもちろん先週の金曜日のことだろう。
俺が身構えて、次の言葉を待っていると、美浜はさらりととんでもないことを言った。
「今後の日程について、詳細を詰めたい」
まるで仕事のことについて話している口調だが、これは例のアレだろう。
「それは、まだ決定事項ではなかったはずです」
すると、切れ長の瞳がすっと細められた。
やっぱり、整ったいい顔だ。こういうクールな表情がとてもよく似合う。
昼間のツンケンした、侮蔑したような顔も嫌いじゃないが。
そこまで考えたところで、無言で見つめ合ってしまっていたことに気付く。
「では、答えを聞かせてもらおうか」
答えと言われても、そんなの一択しかない。
俺が答えようとしたところで、ポンと軽い音が聞こえる。
階下についてしまったのだとわかり、俺はボタンを押して美浜を促した。
意図に気付いているはずなのに、美浜はなかなか降りようとしない。
幸い周りに人は少ないが、ここでこれ以上やり取りをすれば悪目立ちする。
仕方なく俺は、美浜に提案した。
「どこか場所を移して話しませんか」
すると、美浜は眉を上げ、名案だと言いたげに一つゆっくりと頷いた。
「場所は私に任せろ」
もちろん、その方が助かる。
この会社の部長クラスがどういう生活レベルなのかは大体想像がつく。
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そこに美浜を連れていくわけにはいかないだろう。
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