気持ち良くって、どうしよう

佑々木(うさぎ)

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「やっぱり、きれいな顔してますね」

 それは、僕の顔に突いて言っているのか。
 思わず眉を顰めると、市川は笑う。

「言われ慣れてるって顔だ」

 そんなわけがない。
 こうやって、相手を気持ちよくさせるのは、営業のたしなみなのか。
 そんなもの、僕に向けなくてもいい。

「グラス、空きましたね。次、何にしますか?」
 
 僕はざっと残りの料理名を見て、日本酒を頼んだ。
 お造りとあさりご飯なら、日本酒を合わせたい。

 市川は今回もまた、僕と同じものを頼む。

「別に僕に気を遣わずに、市川の飲みたいものを飲んでいい」
「飲みたいもの、飲んでます。土屋さんとは、飲み物の好みも合うみたいです」

 言われて何となく好感を覚えてしまう。
 こういうところが、人心掌握術ってところなのか。

 料理を食べながら酒が進み、だんだんと視界がふわふわしてくる。
 それでも、まだ続く市川の話に相槌を打っていた。

「土屋さんって、聞き上手ですね」

 自分の話を急に止めて、市川はそう言った。
 
「なんか、言わなくてもいいことまで喋っちゃいます」

 最初から、セフレについて言ってきたくらいだ。
 僕が聞き上手かなんて、関係ない。
 市川が、誰に対しても開けっぴろげなだけだ。

「あー、酔ってるでしょ」

 市川は、そう言ってクスクス笑う。

「今の、口に出ちゃってます」

 口に出ている?
 何を言っているんだ、こいつは。

「ほら、また」

 市川は、笑い上戸なのか、楽しそうに笑っている。

「市川みたいにコミュ力が高かったら、マチアプなんてなくても選び放題じゃないか?」
「出会いがないんですよ」
「出会い、か」

 たしかに、セフレにするような相手を会社で見繕うことはできないだろう。
 後腐れなく、不特定多数と愉しみたいのなら、マチアプが最適か。
 だがそれは──

「一人と長く付き合うことは、考えないの?」
「考えないっていうか、セックスってヤってみないとわかんないでしょ。だから、まずはヤってみて、合う相手を探しているんです」

 いや、同意を求められても、僕にはわからない。
 好きだから、したいと思うものじゃないんだろうか。

「こっちが好きになってもね、相手にとって迷惑ってありますから」

 市川みたいな人に思われて、迷惑と感じる人は少ない気がする。
 陽キャだし、見た目もいい。一緒にいたら楽しいに違いない。

「土屋さん、ロマンティストですか? 好きな人じゃないと、キスもできない、とか」

 キスは、好きな人としたことがある。
 本当に、大好きな人だった。
 でも、唇を合わせたところまでは良かったが、舌が入って来た途端に気持ち悪くなった。
 キスはそれっきり、誰ともしていない。
 セックスも、キスさえできないならお察しだ。

「勿体ない」

 勿体ない?
 どういう意味かと訊ねようとしたら、市川は立ち上がって僕の方へと顔を寄せた。
 間近から目を覗き込まれた、と思った次の瞬間。
 唇が、重なった。
 身体が硬直し、反射的に逃げようとしたところで、後頭部を手で押さえられる、市川は自分の方へと僕を近付け、薄く開いていた唇の隙間から舌を入れてきた。薄い舌を閃かせ、僕の舌に押し付ける。背中がぞくりとして、息が漏れた。苦しくて震えていると、ようやく唇が離れていき、呼吸ができるようになる。

「俺のキス、嫌じゃなかったでしょう?」

 大した自信だ。
 だが、たしかに嫌じゃなかった。
 背中がぞくぞくしたけれど、気持ち悪くはない。

 市川は頷き、口端を上げた。
 そして、僕の耳元で、声を潜めて囁いた。

「もっと、気持ちいいキス、したくないですか?」

 気持ちいい、キス?
 いつもなら、鼻で嗤っただろう。
 キスに良いも悪いもない。
 ただひとえに、気色悪い。
 そんなもの、したいとも思えない。

 だが、今は違う。
 市川のキスは、前に好きな人としたものより良かったからだ。

「決まりですね」

 そう言うと、グラスの水を飲んでから、市川は席を立つ。
 そして、僕の分の鞄も手にして、店を出ていく。

 記憶はそこで途切れている。
 次に目を覚ました時には、僕は市川と共にどこかの部屋にいた。

「ん……ふ……っは」

 艶めかしい、甘えたような声が聞こえる。
 誰のものかと思ったら、自分の声だった。

「土屋さん、可愛い。キスだけで、こんなにトロトロになっちゃって」
 
 僕の目元を指で拭い、市川は笑う。

「気持ち良くて泣くなんて。まだ、キスしかしていないのに」
「ん……んく……」

 再び唇が重なって、より深いキスをされた。
 ちゅくちゅくと舌を吸い、髪を撫でてくる。
 まるで、小さな子供をあやすような、優しい手つきだ。
 それでいて、口の中を貪るように、濃厚なキスが続けられている。

「土屋さんからもして。上手にできたら、褒めてあげる」

 僕から市川にキスをする?
 何を言っているんだろう。
 
「ほら、早く。──しないなら、キス以上のことをしますよ」

 キス以上って、何をするのか。
 頭が回らず、考えられない。
 どうやら、相当酔っているようだ。
 
「かえ、りたい」
「どうして? 気持ちいいことしかしていないのに」

 市川は、ペットボトルの水を口に含むと、僕に口移しで飲ませた。
 水は、とても美味しかった。
 酒の飲みすぎで、喉が渇いていたのかもしれない。

「もっと、ほし……」
「いいの? 本当に」

 僕が頷くと、市川は頬にキスをしてきた。

「ゆっくりヤるから。怖くないですよ」

 そう言って、僕の服を脱がせ始めた。
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