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第六章 創生
静かな決意***
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女性たちはその後も現れた。
決まって、朝食後から昼食の合間で、お茶だけ飲んで帰っていく。
ただ、神出鬼没の為、いつ現れるかわからない。
時折他の予定とかち合って帰ることはあったけれど。
さすがにフェンテスも追い返すわけにもいかないのか、どこにいても呼びに来た。
「サガン様はお疲れですか?」
「いえ、そんなことは」
実際は疲れも見えていた。
でも、だからと言って、そんなに関係も深くない人にそうは言えない。
「リディアン様も、夜会続きでお疲れのご様子ですよね」
リディアンの話題を振られて、僕は笑って誤魔化した。
僕が勝手に、リディアンについて話していいものか。
早く次の話題をと考えていると、エミルが言い出した。
「私たちは、リディアン様の妾妃のお一人になりたいと思っております」
突然の宣言に、僕は危うくお茶に噎せそうになる。
「最初は誰かお一人になるかと思っていたのですけれど、何人も妾妃がいた王様もいらっしゃいます」
「リディアン様はどんな方がお好きなのかしら」
そう言われても、リディアンの女性の好みなんてわからない。
まじまじと見つめられて、僕は弱ってしまう。
「僕は、聞いたことがなくて」
途端に、意外そうな声を上げる。
「サガン様はご存じないのですか?」
「一番お近くにいらっしゃるのに」
「ぜひ、サガン様からリディアン様に聞いてみてください」
詰め寄られて、僕は曖昧に笑って頷いた。
そうして、その日のお茶会もなんとか終わった。
夜になって僕は、部屋で一人考えた。
リディアンのお妃選びに、僕は関与するべきなんだろうか。
この間読んだ手記のサガンは、王妃と妾妃との関係について注意していたようだけれど。
僕より5つ年下とはいえ、恋愛事はリディアンの方が得意なはずだ。
リディアン以外とキスさえしたことのなかった僕に、一体何が言えるというのか。
それに、正妃以外にも妾妃を娶るかどうかなんて。
正妃さえ決まっていない今、話すことじゃない。
たとえ、彼女たちが僕に言ってきたところで、動くべきじゃないだろう。
すべては今じゃない。
そうして、考えているうちに眠ってしまったのだろうか。
僕は夜に、人の気配に気付いて目を覚ました。
背中に人の体温を感じる。
僕に、寄り添って寝ている人がいる。
横向きに寝ている僕を抱きしめて、首筋に鼻先を押し付けているようだ。
すうすうと規則正しい音は、寝息っぽい。
ゆっくりと目を開けて身を捩ると、背後にいた人物と目が合った。
長い睫毛といつもより暗い色の瞳。
僕が話しかける前に、口を開く。
「抱いてもいいか?」
いつもより少しだけ掠れた声に訊ねられて、胸が締め付けられたように痛む。
難しいことはまだわからない。
でも今は──。
「僕も、リディが欲しい」
僕が答えると、抱きしめる腕に力を入れて、身を摺り寄せてきた。
「まず、服を脱いでください。──このままじゃ、汚れてしまいます」
リディアンは夜会服のままで、マントも手袋も身に着けたままだ。
僕の言葉を聞くと、口端を上げて笑う。
「一体、何で汚れるって?」
答えにくいことを問われて答えに詰まると、くすくすと笑いながら僕の寝着の前をはだけようとする。
「だから、僕じゃなくて……っリディ」
脇腹を撫でる手を止めて抗議すると、リディアンは目元を綻ばせる。
「タカトは可愛いな」
可愛いと言われても喜べない。
そう言い返したくても、弱いところに触られて変な声が出そうだ。
こうなったら、実力行使に出るしかない。
僕は、リディアンの服を脱がしにかかった。
マントの留め具を取り、タイを緩め、ボタンを外していく。
気付いたリディアンが愛撫する手を止めて、僕の行為をじっと眺めている。
見つめられているとやりにくいけれど、それでも汚してしまうよりはいい。
すると、僕の手を止めて口元に運び、音を立ててキスをする。
「わかった。脱がされるのもいいけれど、もどかしいから自分で脱ぐよ」
もどかしい?
何か少し馬鹿にされたような気もするけれど。
とにかく、脱ぐ気になってくれたのならそれでいい。
リディアンは、脱いだ服を椅子に掛け、下穿きまですべて脱いで全裸になった。
部屋には薄明りしか灯っていないとはいえ、すべて丸見えだ。こんなに堂々と晒されると、こっちの方が照れてしまう。しかも、完全に勃ち上がったモノを目にしては、動揺したって当然だ。
リディアンはベッドに上がってきて、僕と向かい合って座る。
「触ってくれる?」
「……っ」
手を掴まれて導かれ、僕は恐る恐るリディアンのものに触れる。
こんな風に触るのは初めてで、その大きさや硬さに顔が熱くなる。僕がしてもらっているように、ゆっくりと手を動かすと、小さく息を吐いた。
「タカトの手、気持ちいい」
耳元で囁かれて、触っているのは僕の方なのに、おどおどしてしまう。
滑らかな表面を撫でさすり、根元から先端まで扱く。
額に額を押し付け、リディアンは時折声を漏らす。
その声がやけに色っぽくて、こっちまで煽られる。
こんな大きなモノを、僕は受け入れていたのか。
そして、これからきっと挿入される。
激しく中を行き来して、奥を突き、穿つ。
まだ挿入されたわけでもないのに、僕の方まで呼吸が乱れた。
だんだんと息遣いが荒々しくなり、リディアンが達するかと思ったところで、不意に手を止められた。
「これ以上されたら、すぐに入れたくなる」
「……いいですよ。入れても」
すると、目元にキスをしてから、僕の目尻を拭う。
「いきなり入れたら、痛みで本気で泣くことになるよ」
リディアンに言われて、これまでのことを思い返した。
たしかに、いつだってリディアンはゆっくりと中を弄って緩めてから入って来ていた。
どんなに切羽詰まっていても、僕の身体を気遣い、快感を優先させていて。
乱暴だったのは、図書室での時だけだったし、あの時は最後までしなかった。
大切にしてくれているんだと、僕は改めて実感した。
「ありがとうございます」
「……そこで礼を言ってしまうのが、タカトらしい」
リディアンは僕をうつ伏せにして尻を高く上げさせ、潤滑油を塗す。
「心配しなくても、いっぱいここを弄って、入れられた瞬間にイけるようにしてやる」
「……っそんなこと」
「すると言ったら、俺はやる」
肩越しに振り返ろうとしたけれど、ベッドに沈められて見られない。
その間にも、穴の中に指が入ってくる。
「あ……っく……は……っ」
長く滑らかな指先が奥深く入り込み、円を描くように動く。
ずくずくと小刻みに疲れて、それだけで身体が跳ねる。
「これだと、俺を入れる前にイきそうだ」
「ちが……っ」
「ここ、こんなになっているのに?」
僕のモノをぎゅっと握り、リディアンは前と後ろを同時に弄り出した。
「あ……っは……っう……ああ……っ」
このままだと、本当に挿入される前にイってしまう。
抱きたいと思って、僕の部屋に来てくれたのに。
これでは、リディアンに申し訳ない。
僕の両脇に突いていた手に手を重ね。指を組み合わせてぎゅっと握る。
「リディアン、入れて……奥まで、欲しい」
「……っそれ、反則だ」
リディアンはそう言うと、腰骨を掴んで尻を上げさせ、僕の後ろにあてがった。
そして、尻を割り開いて、鋭く突き入れてくる。
「ひあ……っあ……ああ……」
まるで中にある快感の粒を潰されて行ったかのように、あまりの衝撃にガクガクと身体が揺れた。最奥まで到達し、ぐっと抉られた途端に、僕は射精していた。ぶるりと身体が揺れ、震えに合わせて数度に分けて吐精し続ける。気持ち良くて、口を開けたまま喘いでいると、リディアンは抽送を始める。
「……っあ……は……あう……っあっあ」
ベッドが軋むほどに腰を使い、リディアンに合わせて僕は自ら尻を振った。
「いい……っきもち、いい……リディっ」
「く……っう……堪らないな」
リディアンが身体を倒し、背中にキスをしてくる。
その刺激にも感じて、僕は高い声を上げ続けた。
「それ、すごい……っいい……あぅ……リディ、リディ──っ」
何度も何度も熱に浮かされたように名前を呼び、リディアンに強請る。
途中で一度抜いて、リディアンは向かい合わせになってから挿入した。
僕は背中に腕を回して引き寄せ、自分からキスをした。
「好き……だい、すき……」
「俺もだ、タカト。お前が……好きだ」
互いを貪り合い、この時ばかりはすべてを忘れて求め合った。
朝を迎え、隣にリディアンがいないことに気付いて、僕は初めて喪失感を抱いた。
これが、寂しいってこと?
そんな言葉じゃ足りない。
まるで、半身を引き裂かれて、ぽっかりと胸に穴が空いたようだ。
昨日の夜のことが、幻だったかのように感じる。
あんなに一つになったのに。
朝にはすべて消えてしまった。
ふらふらと起き上って湯殿を使い、朝食を一人で摂る。
リディアンは既に出かけてしまっていて、僕は寝坊したことを悔いた。
図書室に向かって、また本を読むしかないかと思っていると、フェンテスが部屋をノックする。
来客の知らせだとわかって、少し身構えたけれど、相手がララノアだとわかってホッとする。
「おはよう。朝早くごめんなさい」
「おはようございます。今日はお一人ですか?」
いつもならヒューブレヒトと一緒なのに、今日は一人で来たみたいだ。
しかも、馬車ではなく馬で早掛けしてきたとわかって、僕は少し驚いていた。
さすがはエルフということなのか。
服装もいつもと違って、まるで姫を救いに行く騎士のようだ。
思わず見惚れていた僕に、ララノアは柔らかく微笑んでから、肩から掛けていた袋を手渡してきた。
中身は、前にももらった香油のボトルだ。
「忙しいとは思うけれど、二人でゆっくり入って」
二人で、と言われて僕は顔を上げてララノアを見た。
ララノアは笑みを深めただけで何も言わない。
もしかしたら、ララノアは知っている?
含む意味はなかったのかもしれないけれど、その表情から僕は察した。
僕のことを心配して来てくれたのだと。
「本当に、ありがとうございます」
「私がしてもらったことに比べたら、まだまだ足りないくらいだわ」
ララノアはそう言って、馬に跨った。
「次に会う時は、100日祭の時ね。楽しみにしているから。身体に気を付けてね」
颯爽と馬を走らせるララノアに向かって、僕は手を振り続けた。
言葉では伝わらない。この感謝の思いを込められる言葉なんてない。
そう感じるほどに、僕は嬉しかった。
僕は部屋に戻り、香油を棚に置いてからベッドに横たわった。
リディアンには、あの時、寂しくはないと言った。
今は、寂しいというよりも、胸が痛い。
今夜は、誰と過ごすのだろう。
王太子妃を迎えたら、今度はその人とキスをして──。
僕は目を瞑り、顔を右腕で覆った。
考えるな。
たとえそうだとしても、僕の与り知らぬことだ。
僕はサガンで、それ以上でもそれ以下でもない。
何も言うべきことなんて、ないはずだ。
僕は、こんなにも良くしてもらっている。
他に何を望むというんだ?
妃が決まったら、もうキスをするのはやめよう。
たとえ僕の部屋にリディアンが来ることがあっても、ちゃんと説明して断ろう。
もちろん、妃ができたリディアンに、そんな心配はないんだろうけれど。
僕は起き上がって痛む胸を掴み、深呼吸を繰り返した。
必要であれば、アデラ城を出て一人で暮らす。
もう3か月近くエイノック国で暮らしてきたんだ。
できないことはないはずだ。
僕は自分に言い聞かせ、立ち上がって図書室へ向かった。
停滞させてはいけない。
今歩みを止めれば、蹲って立ち上がれなくなりそうだから。
決まって、朝食後から昼食の合間で、お茶だけ飲んで帰っていく。
ただ、神出鬼没の為、いつ現れるかわからない。
時折他の予定とかち合って帰ることはあったけれど。
さすがにフェンテスも追い返すわけにもいかないのか、どこにいても呼びに来た。
「サガン様はお疲れですか?」
「いえ、そんなことは」
実際は疲れも見えていた。
でも、だからと言って、そんなに関係も深くない人にそうは言えない。
「リディアン様も、夜会続きでお疲れのご様子ですよね」
リディアンの話題を振られて、僕は笑って誤魔化した。
僕が勝手に、リディアンについて話していいものか。
早く次の話題をと考えていると、エミルが言い出した。
「私たちは、リディアン様の妾妃のお一人になりたいと思っております」
突然の宣言に、僕は危うくお茶に噎せそうになる。
「最初は誰かお一人になるかと思っていたのですけれど、何人も妾妃がいた王様もいらっしゃいます」
「リディアン様はどんな方がお好きなのかしら」
そう言われても、リディアンの女性の好みなんてわからない。
まじまじと見つめられて、僕は弱ってしまう。
「僕は、聞いたことがなくて」
途端に、意外そうな声を上げる。
「サガン様はご存じないのですか?」
「一番お近くにいらっしゃるのに」
「ぜひ、サガン様からリディアン様に聞いてみてください」
詰め寄られて、僕は曖昧に笑って頷いた。
そうして、その日のお茶会もなんとか終わった。
夜になって僕は、部屋で一人考えた。
リディアンのお妃選びに、僕は関与するべきなんだろうか。
この間読んだ手記のサガンは、王妃と妾妃との関係について注意していたようだけれど。
僕より5つ年下とはいえ、恋愛事はリディアンの方が得意なはずだ。
リディアン以外とキスさえしたことのなかった僕に、一体何が言えるというのか。
それに、正妃以外にも妾妃を娶るかどうかなんて。
正妃さえ決まっていない今、話すことじゃない。
たとえ、彼女たちが僕に言ってきたところで、動くべきじゃないだろう。
すべては今じゃない。
そうして、考えているうちに眠ってしまったのだろうか。
僕は夜に、人の気配に気付いて目を覚ました。
背中に人の体温を感じる。
僕に、寄り添って寝ている人がいる。
横向きに寝ている僕を抱きしめて、首筋に鼻先を押し付けているようだ。
すうすうと規則正しい音は、寝息っぽい。
ゆっくりと目を開けて身を捩ると、背後にいた人物と目が合った。
長い睫毛といつもより暗い色の瞳。
僕が話しかける前に、口を開く。
「抱いてもいいか?」
いつもより少しだけ掠れた声に訊ねられて、胸が締め付けられたように痛む。
難しいことはまだわからない。
でも今は──。
「僕も、リディが欲しい」
僕が答えると、抱きしめる腕に力を入れて、身を摺り寄せてきた。
「まず、服を脱いでください。──このままじゃ、汚れてしまいます」
リディアンは夜会服のままで、マントも手袋も身に着けたままだ。
僕の言葉を聞くと、口端を上げて笑う。
「一体、何で汚れるって?」
答えにくいことを問われて答えに詰まると、くすくすと笑いながら僕の寝着の前をはだけようとする。
「だから、僕じゃなくて……っリディ」
脇腹を撫でる手を止めて抗議すると、リディアンは目元を綻ばせる。
「タカトは可愛いな」
可愛いと言われても喜べない。
そう言い返したくても、弱いところに触られて変な声が出そうだ。
こうなったら、実力行使に出るしかない。
僕は、リディアンの服を脱がしにかかった。
マントの留め具を取り、タイを緩め、ボタンを外していく。
気付いたリディアンが愛撫する手を止めて、僕の行為をじっと眺めている。
見つめられているとやりにくいけれど、それでも汚してしまうよりはいい。
すると、僕の手を止めて口元に運び、音を立ててキスをする。
「わかった。脱がされるのもいいけれど、もどかしいから自分で脱ぐよ」
もどかしい?
何か少し馬鹿にされたような気もするけれど。
とにかく、脱ぐ気になってくれたのならそれでいい。
リディアンは、脱いだ服を椅子に掛け、下穿きまですべて脱いで全裸になった。
部屋には薄明りしか灯っていないとはいえ、すべて丸見えだ。こんなに堂々と晒されると、こっちの方が照れてしまう。しかも、完全に勃ち上がったモノを目にしては、動揺したって当然だ。
リディアンはベッドに上がってきて、僕と向かい合って座る。
「触ってくれる?」
「……っ」
手を掴まれて導かれ、僕は恐る恐るリディアンのものに触れる。
こんな風に触るのは初めてで、その大きさや硬さに顔が熱くなる。僕がしてもらっているように、ゆっくりと手を動かすと、小さく息を吐いた。
「タカトの手、気持ちいい」
耳元で囁かれて、触っているのは僕の方なのに、おどおどしてしまう。
滑らかな表面を撫でさすり、根元から先端まで扱く。
額に額を押し付け、リディアンは時折声を漏らす。
その声がやけに色っぽくて、こっちまで煽られる。
こんな大きなモノを、僕は受け入れていたのか。
そして、これからきっと挿入される。
激しく中を行き来して、奥を突き、穿つ。
まだ挿入されたわけでもないのに、僕の方まで呼吸が乱れた。
だんだんと息遣いが荒々しくなり、リディアンが達するかと思ったところで、不意に手を止められた。
「これ以上されたら、すぐに入れたくなる」
「……いいですよ。入れても」
すると、目元にキスをしてから、僕の目尻を拭う。
「いきなり入れたら、痛みで本気で泣くことになるよ」
リディアンに言われて、これまでのことを思い返した。
たしかに、いつだってリディアンはゆっくりと中を弄って緩めてから入って来ていた。
どんなに切羽詰まっていても、僕の身体を気遣い、快感を優先させていて。
乱暴だったのは、図書室での時だけだったし、あの時は最後までしなかった。
大切にしてくれているんだと、僕は改めて実感した。
「ありがとうございます」
「……そこで礼を言ってしまうのが、タカトらしい」
リディアンは僕をうつ伏せにして尻を高く上げさせ、潤滑油を塗す。
「心配しなくても、いっぱいここを弄って、入れられた瞬間にイけるようにしてやる」
「……っそんなこと」
「すると言ったら、俺はやる」
肩越しに振り返ろうとしたけれど、ベッドに沈められて見られない。
その間にも、穴の中に指が入ってくる。
「あ……っく……は……っ」
長く滑らかな指先が奥深く入り込み、円を描くように動く。
ずくずくと小刻みに疲れて、それだけで身体が跳ねる。
「これだと、俺を入れる前にイきそうだ」
「ちが……っ」
「ここ、こんなになっているのに?」
僕のモノをぎゅっと握り、リディアンは前と後ろを同時に弄り出した。
「あ……っは……っう……ああ……っ」
このままだと、本当に挿入される前にイってしまう。
抱きたいと思って、僕の部屋に来てくれたのに。
これでは、リディアンに申し訳ない。
僕の両脇に突いていた手に手を重ね。指を組み合わせてぎゅっと握る。
「リディアン、入れて……奥まで、欲しい」
「……っそれ、反則だ」
リディアンはそう言うと、腰骨を掴んで尻を上げさせ、僕の後ろにあてがった。
そして、尻を割り開いて、鋭く突き入れてくる。
「ひあ……っあ……ああ……」
まるで中にある快感の粒を潰されて行ったかのように、あまりの衝撃にガクガクと身体が揺れた。最奥まで到達し、ぐっと抉られた途端に、僕は射精していた。ぶるりと身体が揺れ、震えに合わせて数度に分けて吐精し続ける。気持ち良くて、口を開けたまま喘いでいると、リディアンは抽送を始める。
「……っあ……は……あう……っあっあ」
ベッドが軋むほどに腰を使い、リディアンに合わせて僕は自ら尻を振った。
「いい……っきもち、いい……リディっ」
「く……っう……堪らないな」
リディアンが身体を倒し、背中にキスをしてくる。
その刺激にも感じて、僕は高い声を上げ続けた。
「それ、すごい……っいい……あぅ……リディ、リディ──っ」
何度も何度も熱に浮かされたように名前を呼び、リディアンに強請る。
途中で一度抜いて、リディアンは向かい合わせになってから挿入した。
僕は背中に腕を回して引き寄せ、自分からキスをした。
「好き……だい、すき……」
「俺もだ、タカト。お前が……好きだ」
互いを貪り合い、この時ばかりはすべてを忘れて求め合った。
朝を迎え、隣にリディアンがいないことに気付いて、僕は初めて喪失感を抱いた。
これが、寂しいってこと?
そんな言葉じゃ足りない。
まるで、半身を引き裂かれて、ぽっかりと胸に穴が空いたようだ。
昨日の夜のことが、幻だったかのように感じる。
あんなに一つになったのに。
朝にはすべて消えてしまった。
ふらふらと起き上って湯殿を使い、朝食を一人で摂る。
リディアンは既に出かけてしまっていて、僕は寝坊したことを悔いた。
図書室に向かって、また本を読むしかないかと思っていると、フェンテスが部屋をノックする。
来客の知らせだとわかって、少し身構えたけれど、相手がララノアだとわかってホッとする。
「おはよう。朝早くごめんなさい」
「おはようございます。今日はお一人ですか?」
いつもならヒューブレヒトと一緒なのに、今日は一人で来たみたいだ。
しかも、馬車ではなく馬で早掛けしてきたとわかって、僕は少し驚いていた。
さすがはエルフということなのか。
服装もいつもと違って、まるで姫を救いに行く騎士のようだ。
思わず見惚れていた僕に、ララノアは柔らかく微笑んでから、肩から掛けていた袋を手渡してきた。
中身は、前にももらった香油のボトルだ。
「忙しいとは思うけれど、二人でゆっくり入って」
二人で、と言われて僕は顔を上げてララノアを見た。
ララノアは笑みを深めただけで何も言わない。
もしかしたら、ララノアは知っている?
含む意味はなかったのかもしれないけれど、その表情から僕は察した。
僕のことを心配して来てくれたのだと。
「本当に、ありがとうございます」
「私がしてもらったことに比べたら、まだまだ足りないくらいだわ」
ララノアはそう言って、馬に跨った。
「次に会う時は、100日祭の時ね。楽しみにしているから。身体に気を付けてね」
颯爽と馬を走らせるララノアに向かって、僕は手を振り続けた。
言葉では伝わらない。この感謝の思いを込められる言葉なんてない。
そう感じるほどに、僕は嬉しかった。
僕は部屋に戻り、香油を棚に置いてからベッドに横たわった。
リディアンには、あの時、寂しくはないと言った。
今は、寂しいというよりも、胸が痛い。
今夜は、誰と過ごすのだろう。
王太子妃を迎えたら、今度はその人とキスをして──。
僕は目を瞑り、顔を右腕で覆った。
考えるな。
たとえそうだとしても、僕の与り知らぬことだ。
僕はサガンで、それ以上でもそれ以下でもない。
何も言うべきことなんて、ないはずだ。
僕は、こんなにも良くしてもらっている。
他に何を望むというんだ?
妃が決まったら、もうキスをするのはやめよう。
たとえ僕の部屋にリディアンが来ることがあっても、ちゃんと説明して断ろう。
もちろん、妃ができたリディアンに、そんな心配はないんだろうけれど。
僕は起き上がって痛む胸を掴み、深呼吸を繰り返した。
必要であれば、アデラ城を出て一人で暮らす。
もう3か月近くエイノック国で暮らしてきたんだ。
できないことはないはずだ。
僕は自分に言い聞かせ、立ち上がって図書室へ向かった。
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