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ヘタレでノンケのオレが、BLゲームのスーパー攻め様に転生してしまった!
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「お願いです、ラウルさま。僕をラウルさまのペットにしてほしいんです」
目が覚めて一発目で聞こえてきたセリフがこれだ。
「……へ?」
足元にしな垂れかかり、オレの膝をさする少年に頬が引きつる。
ハニーブロンドの巻き毛、潤んだ翡翠色の瞳。
色が白く、頬だけがほんのりと赤い。
こんな少年、今まで見たことがない。
周囲を見回せば、これも見たことのない部屋だ。
どこかの歴史ある邸の応接間のようだ。
高い天井、そこから下がる豪奢なシャンデリア、マーブル模様のテーブル。
俺はその部屋の革張りの長椅子に座り、毛足の長い絨毯の上に座る少年に懇願されている。
「ペットって……」
「愛玩動物のことです」
背後から聞こえてきた声は冷静沈着な、耳に馴染むテノールだ。
こんな声、未だかつて聴いたことがないような。
振り向けば、黒のテイルコートを身にまとう青年がいる。
年の頃は、20代半ばといったところか。
珍しい青みがかった髪色をしていて、細身のシルバーフレームの眼鏡を抱えている。
オレと目が合うと、手袋をはめた右手で眼鏡のブリッジを押し上げた。
その男には見覚えがあった。
黒と見紛うほどの濃い紺瞳も、高い鼻梁も。
確か執事じゃなかったか。
「ラウル、さま……」
現状把握に努めていると、穿いていた黒のスラックスの布地をぎゅっと握られる。
注意を引くような動きにハッとなり、俺は視線を下げる。
すると、上目遣いでオレを見つめ、少年が赤い唇を震わせている。
そうだった。この少年に頼まれている最中だった。
「あー、あのさあ」
すると、突然目の前に文字が浮かび上がった。
***************
ティルトをペットに
⇒する
しない
****************
これはもしや、選択肢というやつじゃないのか。
話の流れからするに、この少年の名前はティルト。
そして、選択肢はオレにペットにするかどうか聞いてきている。
周囲は動きを止めていて、聞き覚えのあるBGMが流れている。
選択しない限り、時は動かないらしい。
だが、ペットにするかしないかなんて、悩むまでもない。
オレは人間をペットにする趣味はない。
となれば、やることはひとつだ。
ただ、やっていいものかはわからないが。
俺はこくりと唾液で喉を潤すと、恐る恐るその文字に触れ、矢印を「しない」に合わせた。
すると、軽快なチャイム音が流れ、時が動き出す。
「そんな……僕は……」
少年はぽろぽろと大粒の涙を零し、床にひれ伏そうとした。
すると、オレの手が意思に反して勝手に動く。
ティルトの前髪を掴んで上向かせ、その泣き顔を見てククッと笑う。
「お前はオレのペットではない。性奴隷だ」
途端に少年の顔が赤く染まり、嬉しそうに微笑みを浮かべる。
一体どうなっている?
性奴隷って何だ?
何をこいつは喜んでいる?
オレは長椅子から立ち上がり、自身のスラックスの前立てを下ろす。
「上手く奉仕出来たら、今日は存分に可愛がってやるぞ」
「はい! ラウルさま!」
待て待て。
勝手にオレの身体を操るな!
オレは身体の動きを制御しようと、眉間に皺を寄せるほどに意思の力を総動員し、自分のモノを取り出しかけた手を止める。
そして、不思議そうにオレを見上げる翡翠色の瞳に告げた。
「ティルトと言ったな。悪いがお前の相手はできない。とりあえず、ここから出て行ってくれないか」
必死に口を動かして告げると、ティルトのとろりとしていた目が絶望の色に変わる。
そして、何一つ口ごたえせずに、コクリと一つ頷いてティルトは出て行った。
こうして、応接間には、オレと後ろに控える青年だけが取り残される。
「お見事でございます」
「……何が?」
背後から聞こえてきた声に、オレは問い掛ける。
つい口調が険しいものになっても、この状況なら仕方がない。
だが、男は気にした様子もなく、恭しく頭を下げた。
「一度は希望を与えた上で、素気無くする。素晴らしいお振舞いでございます」
「いや、オレはそんなつもりはない。リチャード」
名前を口にして、オレはハッとした。
なぜオレは、こいつの名前を知っているのか。
「う……く……っ」
「ラウルさま、いかがいたしましたか」
そうだ。──オレの名前は、ラウル。
そして、この濃紺の髪の男の名がリチャードというのなら、もう決まりだ。
ここはBLゲーム「スレイブ・ファクトリー」の世界だ。
リチャードというのはゲームの案内役で、チュートリアルから攻略対象の好感度まで教えてくれるキャラだ。
さっきのティルトは攻略対象の一人で、一番初期の段階で攻略できる好感度の上げやすい登場人物だ。
そう理解した途端に、現状が把握できるようになる。
問題は、オレがそのゲームの主人公の身体に入ってしまっていることだ。
一体全体、何が起きてしまっているのか。
もし、夢か何かなら、醒めるまで待てばいい。
だが、これが昨今耳にする転生だとしたら、オレがラウルであるというのは重大問題だ。
なぜなら、このゲームのコンセプトは主人公総攻め。
いわゆるスーパー攻め様であるラウルが、次々に男を快楽堕ちさせて、ハーレムENDを迎えるというストーリーだ。
ルートの分岐によっては攻略対象と恋人になることも可能だが。
いずれにせよ、オレがそのラウルであるのなら、男をラブストーリーを展開することになる。
ここのところ、暇つぶしにBLゲームをプレイしていたとはいえ、オレはいわゆる腐男子じゃない。
その上、実際の中身はノンケでヘタレで、尚且つ陰キャだ。
そんなオレが、スーパー攻め様の役柄を演じる?
ミスキャストもいいところだ。
「ラウルさま」
頭を抱えていると、再びリチャードに名前を呼ばれる。
「すまない。一人にしてくれるか」
とにかく今は、この状況を整理して、次の手を考える他ない。
だが、リチャードは顔を蒼くして首を振った。
「ラウルさまが、私に謝罪されるなど有り得ません。これは由々しき事態です。今すぐ医者をお呼びいたします」
「いや、それには及ばな──」
オレが止めるのも聞かずに、リチャードは部屋を出て行く。
一人になれたのはいいが、一時的なものだろう。
どうしたものかと唸っていると、リチャードは白衣の人物を伴って現れた。
神経質そうに眉根を寄せ、オレの傍へ寄る男。
銀色の髪に空の蒼のような青い瞳。
この男にも見覚えがある。
攻略対象の一人である、この屋敷のお抱え医師のノイエだ。
「ラウルさまが御病気など。どうせ、夜会に行きたくなくて仮病を使われているのだろう」
フンと鼻を鳴らし、胸の前で腕を組んでオレを睥睨する。
ティルトやリチャードとは違い、偉そうな態度だ。
「ノイエ殿。我が主に対して不敬です」
リチャードはノイエを叱り、くどくどと説教を始めた。
ノイエはどこ吹く風で、そっぽを向いている。
だが、横目でちらちらとオレを覗っている。
言動とは裏腹に、どうやらオレを心配しているようだ。
リチャードは、はあと深い溜息を吐き、頭痛がするとでもいうように額に手を当てる。
「幼馴染だからといっても、ノイエ殿は気安すぎます。立場を弁えていただかないと」
「フン、リチャードが甘やかしすぎているのだ」
じろりとリチャードを睨みつけ、ノイエは身を屈めて俺の首筋に手をやった。
「熱は──っ」
体温を手で測ろうとしているのだろうが、突然オレの手が意思に反して動く。
そして、ノイエのその滑らかな手に手を重ね、ニヤリと笑ったのだ。
「オレに触りたいのか? ノイエ」
揶揄うような声音で、オレはノイエに訊ねる。
途端にノイエは焦ったように頭を振り、オレから逃れようとした。
「違う。これはれっきとした医療行為で……っは」
オレはノイエの股間を鷲掴みにし、やわやわと揉みこむ。
「その割に、ここが膨らんでいるぞ」
オレが触ると、スラックスの中のモノが見る見るうちに膨らみ、前立てを押し上げた。
ノイエは、オレの手を掴み、何とか引き剥がそうとしている。
だが、その力は弱く、微かに震えていた。
「ああ、このまま触っていたら、イってしまうんじゃないか?」
膨らみを指先で辿り、まるで形の変わっていく存在を知らしめているような動きだ。
「よせ、やめろっ! 私にそんな趣味はない! お前がいつも侍らせている少年と同一視するな!」
ノイエは激高し、オレの手を払った。
「なんだ、妬いているのか? 心配しなくとも、お前のこともオレは可愛く思っているぞ」
そう言って再びノイエのモノに手を伸ばし、今度は手のひらで円を描くように撫でる。
ノイエの呼吸が乱れ、はあはあと息遣いが荒くなっていく。
「どうした? 抵抗はもう終わりか、ノイエ」
「うる、さい……っ」
言葉とは裏腹に、身体は陥落寸前だ。
膝がガクガクと震え、薄いブラウンのスラックスに染みが広がっていく。
「このままでは、下着もスラックスも精液塗れになる。お願いしますと言えば、イかせてやらなくもない」
「誰がっ! 私は、イきそうになって……など……う……はっ」
そこまで追い込んで、オレはハタと正気に戻った。
目の前にまた、選択肢が浮かび上がったからだ。
*************
ノイエに対して
⇒このままイかせる
お仕置きする
**************
オレはその選択肢を読んで、眩暈を感じた。
どちらも選びようがないじゃないか。
いや、まだお仕置きの方がマシか?
時が止まり、BGMが流れ続ける。──まるでオレの選択を急かすかのように。
オレは考えた挙句、仕方なく下の選択肢をチョイスした。
「リチャード」
「はい、主さま」
名前を呼んで軽く手を上げたオレに、リチャードは心得ていると言わんばかりに何かを渡す。
手にしたものを見て、俺は内心ギョッとした。
リチャードが渡してきたのは、鞭だ。
乗馬をする時に使う、硬い鞭だとわかって血の気が引いた。
だが、身体は勝手に動き、目の前にいたノイエの足を払う。
そして、床にしたたかに身体を打ち付けて呻くノイエめがけて、オレは鞭を振り上げた。
「尻を出せ。ペチペチしてやるぞ?」
「ああ……それだけは、許してくれっ……」
ノイエは悲痛な声で言ったが、慣れているのかすぐに四つん這いになった。
そして、白衣を捲り上げてオレに尻を向ける。
先程とは打って変わった従順さに、オレは目を瞠る。
床に這いつくばり、毛足の長い絨毯に爪を立てて、ノイエは今か今かと待ち構えているようだ。
オレは、何度か素振りをするように鞭を振るって音を聞かせ、ノイエが怯えて身を竦めたところで尻をぶった。
「……っひあ……あ……」
「さあ、何と言うんだったか? 教えただろう?」
オレの問いかけに、ノイエはきつく唇を噛む。
だが、1度、2度と鞭を振るわれると、顔を赤くしてついに口に舌。
「ご主人様! 哀れな豚にお情けを!」
「フっ、いい子だ。──さあ、お前の恥部を曝け出せ」
「はい……っ!」
ノイエはいそいそとスラックスと下着をずるりと下ろして、尻を剥き出しにした。
窄まりから陰嚢の影までオレに見せつけ、肩越しにちらちらとみてくる。
着やせする質なのか、スラックスを穿いていた時には、こんなに尻が丸いとは思っていなかった。
白い尻には、先程鞭打たれたことで赤いミミズ腫れが出来ていて、オレはその痕を乗馬鞭の先で辿った。
「どうして欲しい? 言ってみろ」
「ご主人様の楔を、どうか私めに打ち込んでください!」
あれほどツンツンしていたというのに、今や尻を振って懇願している。
オレが、楔をこの尻にぶち込む?
楔というのは、アレのことだろう。
無理だ……。
まったく興奮しないし、オレのモノは反応していない。
第一オレは、この状況で興奮するような変態じゃない。
ノイエの様子を見て深い溜息を吐き、オレはどかりと長椅子に座り直す。
「ラウルさま」
「こいつを追い出せ。その気にならない」
「そんな!」
ノイエは恨めしい視線を俺に寄越すと、下ろしていた下着とスラックスを穿き直し、着衣を整える。
「うう……っ」
恨めしそうにオレを見つめて唸り声をあげた。
そして、オレから顔を逸らし、往診用のカバンを手にすると、足早に部屋を出て行った。
呻きたいのはこっちの方だ。まさかこれが日常化するのか?
冗談じゃない。
頭痛が酷くなり、オレは眉間を押さえた。
この2人の他にも、攻略対象はあと3人いる。
こいつらの面倒を、これから一生見なければならないのか。
第一、男のハーレムなんて、オレは望まない。
そんなものにオレは興奮なんかしないし、元の世界に戻るまでそっとしておいてほしい。
なんとか回避できないのかと頭を悩ませたところで、オレはあるルートを思い出した。
そういえば、誰とも関係を持たずに済むルートがあった。
たしか、攻略対象を次々と奴隷商に売り払っていくルートだ。
若干可哀想ではあるが、背に腹は代えられない。
こうなったら、最短ルートで奴隷にしてやる。
「リチャード。あいつらを奴隷商に売り飛ばしたい」
オレは背後に控えるリチャードを呼び、そう意思を伝えた。
「あいつらとおっしゃいますと、ティルト殿とノイエ殿のことでしょうか」
「いや、5人まとめて一気に売り払う」
すると、リチャードは眼鏡の奥の瞳を瞠り、次いで胸元に手を当てた。
「ああ、これで私の長年の夢が叶います」
「夢、だと?」
何のことかと訊ねようとしたが、リチャードはすぐに手続きに入る。
「奴隷商でしたら、サイデン商会がよろしいでしょう。価格はいかがなさいますか? 全員処女ですので、高くお売りできると思われます」
全員、処女。
男でも処女というのかは別にして、オレとしては厄介払いできればそれでいい。
「奴隷商の言い値で売ってやれ」
「左様でございますか。では、お任せを」
リチャードは深々と頭を下げ、部屋を出て行った。
これでいい。
オレの人生は安泰だ。
もう攻略対象に絡まれることもない。
詰めていた息を吐き、オレは今後の人生を考える。
確かラウルは男爵で、金には困っていない。
ここには漫画もアニメもないだろうが、探せば暇つぶしになる娯楽くらいあるだろう。
社畜として働く毎日からも解放されるのだ。
なんというユートピア!
オレは長椅子に深く座り、肘掛けに寄りかかりながら夢想した。
きっと、この世界にも酒はあるだろうし、ほろ酔いで毎日過ごすのも悪くない。
そうして、にやけていたところ、不意にドアがノックされた。
オレは一つ咳払いをし、真面目くさった声で「入れ」と命じた。
現れたのはリチャードだ。
眼鏡のブリッジを押し上げて、不敵な笑みを浮かべる。
先程までの彼とは、まったく印象が違う。
リチャードは左手に何やらカバンを持っている。
「それは?」
「淫具でございます」
「……イン、グ?」
言葉の意味がわからずに繰り返すと、オレの傍まで近寄り、長椅子の足下にカバンを置いた。そして、留め金を外してカバンを開け、中身をオレに見せる。
「……なんだ、これ」
「ですから、淫具でございます」
中に入っていたのは、SMプレイで使うような道具だ。
ディルドを始め、アナルパールや手錠、ボールギャグも入っている。
恐らくは、攻略対象に使う物だろう
「ああ、ゴミか」
攻略対象を奴隷商に売り払ったのだから、もうこれらは用済みだ。
オレが納得して頷いていると、「いいえ」と否定する。
「こちらは、我が主、ラウルさまに使用する物でございます」
「は?」
今度こそ意味がわからず、俺は訊き返す。
「オレに使うってどういうことだ?」
すると、リチャードは白手袋をはめた手を自身の胸元に押し当てて礼をした。
「主を愉しませるため、精一杯尽くします」
「だから、何を言って……うわっ!」
リチャードは、オレの膝裏に手を差し入れると、軽々と抱き上げた。
いわゆる、お姫様抱っこと呼ばれるものだ。
「下ろしてくれっ!」
恥ずかしさと得体の知れなさにリチャードの腕の中で暴れたが、怯むことなくずんずんと歩く。
そして、ベッドのある部屋に連れて行くと、恭しくキングサイズの寝台に俺を寝かせた。
「一体、なんのつもりで──」
「ラウルさまは、攻略対象の皆様を奴隷として売り飛ばされました」
それは間違いない。
オレが頷くと、リチャードは続ける。
「主さまがどなたにもご興味を抱かなかった場合、スーパー攻め様という称号は剥奪されます」
「剥……奪?」
嫌な予感がする。
これは、何かまずいルートに入った。
オレが顔を強張らせていると、リチャードはするりと頬の輪郭を撫でる。
「今から、主さまは受け対象となります」
「う、受け? 待ってくれ。それは、男に犯されるってことか?」
「違います」
はっきりと否定されて、俺は胸を撫で下ろした。
なんだ、勘違いか。
それはそうだ。
スーパー攻め様だったオレが、受けになるわけがないじゃないか。
そんなの、プレイヤーの地雷を踏みぬく行為だ。
リチャードは更に笑みを深め、両手を高々と上げる。
「ああ、私はこの時のために祈りを捧げて参りました。神よ」
感極まったような声でそう言うと、リチャードはオレの頬を両手で挟む。
まるで宝物を扱うかのように自分に向かせ、顔を寄せた。
吐息がかかるほどの距離まで近付くと、紺色の瞳を瞬かせる。
「私が、受けとなった我が主を抱くのです。大切にいたします」
「何を……っんん……んー!!」
唇が重なったかと思うと、すぐに舌が潜り込んだ。
肩を押して避けようとするも、リチャードの身体はビクともしない。
ぬるりと口腔内に入り込んだ舌は、上顎をくすぐり、歯列をなぞる。
ぞくぞくと背中を快感が駆け上がり、脳天が痺れる心地がした。
「んっ……は……やめ……っ」
顔の角度を変えたところで言葉を発したが、リチャードは再び口を塞ぐ。好き放題に口腔内を味わい、舌を吸われる。身体から力が抜けていき、押し返していたはずの手が、胸元に縋る動きに変わった。
まずい。このままでは流されてしまう。
そう思っても、まるで唾液が媚薬でもあるかのように、だんだんと身体が昂っていった。
自分のモノが膨張して硬くなり、痛いほどに張り詰める。
「我が主の処女を散らす光栄に預かり、私は幸せです」
「処女を散らすとか言うな! オレは絶対にさせないからな!」
リチャードの身体の下から抜け出そうとするも、上着の首根っこを引っ張られて俯せにされた。
腰に巻いたカマーバンドを外し、スラックスを脱がし始める。
「やめろ、馬鹿!」
罵倒しても、リチャードは恍惚とした表情を浮かべるだけだ。
オレのスラックスと下穿きを一枚一枚、時間をかけて脱がし、下半身を剥き出しにさせる。
「ああ、何という滑らかな肌でしょう。今すぐにでもかぶりつきたい」
尻を撫で揉みしだきながら言われて、身体がビクンと跳ねる。
「期待していらっしゃるのですね」
「そんなわけない! 勝手に解釈しないで、く……っわ……ああ」
尻の狭間に濡れた指が触れ、窄まりを揉みこまれる。
この状態でいきなりモノを突っ込むつもりなのかと焦っていると、無機物のような硬くつるりとしたものを押し当てられる。
「御心配には及びません。中を広げるための淫具でございます」
「やめてくれっ! 広げようとしないでほしい!!」
「ああ、なんとお可愛らしい……」
リチャードはうっとりとした口調で言うと、細く長いそれを中に埋めた。
「ふっ……く……っ」
異物感はあるが、痛みはない。
むしろ、これでどうやって広げられるのかわからないくらいだ。
だが、濡らした異物の感触は気色悪い。
自分の尻の中に器具が入っていると思うだけで怖気が立つ。
「さあ、これであとは時が来るまでじっくり愉しみましょう」
時が来る?
よくわからないままに、リチャードはオレを仰向けに返した。
そして、身に着けていた襟高の上着のボタンを外し、タイを緩め、中のブラウスの前も開ける。肌が空気にさらされて、その冷たさに鳥肌が立った。
「もう乳首を立たせているのですか、もしや、ご自身で愉しんでいらしたとか」
言われた通り、乳首は立っていたが、これは鳥肌が立っているせいだ。
「乳首なんて触るわけがないだろ」
「これはこれは、素直でいらっしゃいますね」
くすくすと笑い、リチャードは両手でオレの胸元を撫で回した。
オレより少し体温が低いのか、指先がひんやりしている。
しばらく肌の質感を確かめるように触ったあと、立ち上がった乳首を抓んだ。
「う……くっ」
「痛みがありますか?」
「それは、ない……が」
「ああ、では感じていらっしゃるのですね」
「ちが、……はっ」
否定しようとしたところで、指先で捏ねられて声が上がってしまう。
じんと身体の奥深くが疼き、尻の中にある器具を締め付けてしまう。
「く……は……っ」
「おや? もう中が気持ちいいのですか。さすが我が主。感度も素晴らしい」
「馬鹿に、しているのか?」
「まさか」
リチャードはオレに顔を近付け、鼻を触れ合わせた。
「私は、喜んでいるのです。我が主よ」
「……っふ……んん……ぁ……ふ」
そこで、再び唇が重なった。
押し付けるだけのキスをし、軽く啄まれる。
ここで口を開けたら舌を入れられると思い、俺はぎゅっと奥歯を噛む。
「ふふっ……初々しいですね」
リチャードは唇を舌で舐め、狭間を辿る。
その艶めかしい舌の動きに身体が昂った。
それでも何とか閉じていると、芯を持ち始めた乳首をくりくりと指先で弄られた。
「はう……っあ……んく」
途端に口の中に舌が入り込み、逃げたオレの舌を舐めてくる。
チュッと吸い上げ、絡め取り、くちゅくちゅと音を立てるほどに刺激した。
これまで、キスくらいしたことはあったが、こんなに蕩かされる感覚は味わったことがない。頭の中が霞むほどの濃厚なキスをされて、身体から力が抜けた。
呆然と天井を見上げることしかできないでいると、唇が離れていった。
キスを解かれてホッとしたのも束の間、唇は頬を滑り、首筋を通って胸元に到達した。肌をぺろりと舐め、唇で吸い上げる。
「んぁ……あ……は……」
やがて痛いほどに立ち上がった乳首も唇で挟み、ちゅっちゅと音を立ててしゃぶった。
乳輪を舐め取るように舌を動かし、立った中心を押し潰しては吸い上げる。
おかしくなるほどに続け、オレに快感を植え付ける。
散々舌で舐ったあと、リチャードはオレにもう一度キスをした。
受けってこんなに気持ちがいいものなのかと、一方的な愛撫に理性を奪われる。
リチャードは頬やこめかみにキスをしながら、オレのモノに触れた。
「こんなに大きくして。触ったら弾けてしまいそうでございますね」
笑い含みに指摘されて、居た堪れなくなる。
リチャードは、さっき後ろに塗した液体をオレのモノにも垂らし、ぬるぬるした手で握って扱く。
「あう……っあ……出、る……っ」
情けないとは思ったが、オレは口走った。
「出してもいいですが、あとが辛くなります」
「なら……手を、放して……くれ……っ」
「それは聞けません。もう少し、弄らないと」
そして、根元から先端に掛けて何度もしつこいほどに扱き、陰嚢を揉むことさえする。
「あ……っは……っ!?」
それは、突然起こった。
「な……っに……ああっ……あ」
内側から熱が湧き起こり、ぶわりと視界が揺れる。
視界ではなく、自分の身体が揺れているのだと遅れて気が付いた。
「素晴らしい。やはり私の目に狂いはなかった。初めてでここまで感じられる方は稀有です。さすがは我が主。極上の身体をしていらっしゃる」
「あう……っあ……いい、から……なんとか、し……てく……っは」
リチャードは感嘆したように溜息を吐き、オレの膝を開かせる。
「慎まやかにしていながら、ひくひくと誘っている。なんと清楚で淫らな身体でしょう。その不均衡なさまが、お美しくていらっしゃる。
「御託は、いい……っ! はや、く……っ」
「もっとゆっくり愉しみたいところですが、ラウルさまのお望みとあらば、致し方ありません」
リチャードは、オレの尻穴に触れると、少しだけ飛び出ていた器具をずるりと引き抜いた。
「ふあ……っあー!! あっ……は……」
ビクンビクンと身体が跳ね、今にも達するというところで、リチャードはオレのモノの根元を指できつく締め付ける。
「!? あ……っあ……」
「なりません」
「馬鹿……っなんで……うう……」
イくのを止められたせいで、行き場のない快感が体内にわだかまる。
わなわなと唇が震え、喉が干上がった。
込み上げた射精感は維持されたまま、腰のあたりに熱が凝る。
「も、う……イきた……」
「さあ、ここから受けの本領発揮です。どうぞ、ごゆるりとご堪能あれ」
リチャードは謳うようにそう言うと、自身の前を寛げて、中からモノを取り出した。大きく張ったカリ、浮き出た血管、何よりその長さと太さにくらりと目眩がした。
「そんなにこれが欲しいのですね」
「そんなもの、入るわけがない!」
「何をおっしゃいます。我が主に不可能などないのです」
リチャードは薄っすらと笑い、熱い眼差しで俺を見下ろした。
「よせ、やめろ……っ」
「ふふ、逃げても無駄ですよ。あなたは受けなのですから」
「ぐ……は……」
ベッドヘッドへずり上がろうとする身体を腰骨を掴んで引き止め、膝頭に手を置いた。そして、オレの後ろに自身の亀頭を押し当てる。身体がぶるりと震え、歯の根が合わない。
「挿入いたします」
「うっ……く……は……っ」
リチャードのモノは、見た目以上に大きく、しかも熱く脈打っている。
ぞわぞわと足先から何か得体の知れないものが這い上がり、深々と穿たれた途端に身体中を吹き荒れた。
「うあ……あ……っああ! やめ、……もう……いれない、でっくれ」
「ああ、なんと熱い。私のものを飲み込んで、逃がすまいと絡みついてくる。おわかりですか? ほら、このように」
「ひあ……っあ……は……うあ……っんん」
ずんと奥を突き、ゆるゆると引き抜かれると、指摘通り中がリチャードを食む。
まるで絡みついて、引き留めているようだ。
リチャードは、鋭く突き入れ、ゆっくりと抜く動作を繰り返した。
「あ……は……っあ……あ」
動く度に声が押し出され、オレはリチャードの胸を押し返す。
「いや、だ……それ……っつあ」
「これ、ですか」
「んく……っんん」
逃げようとしても追い詰められ、リズミカルにモノを握る手を動かし、出し入れを繰り返す。
「りちゃー、ど……は……っん」
「どうしました?」
「く……う……ああ」
気持ち良くて、もっと続けてほしくなる。
その奥を押し上げ、擦り立てて、抜き差しして欲しい。
そんなことを言葉にできるはずもなく、オレはただ名前を呼んだ。
「リチャード、リチャードっ」
「ここ」
「はう……っああ……あ……っ」
「良さそうですね」
オレは、何度も首を縦に振り、自分の快感を伝える。
「もっと感じてください。中の私を欲して、きゅうきゅうと締め上げ、吞み込んでいただきたい」
「あう……ああ……っあ」
結合部からぐぷぐぷと音がする。
淫猥な音は、耳だけではなく頭の中まで侵食する。
「ああ……っイく……もう、う……駄目、だ……っ」
「いいですよ。どうぞいっぱい出してください」
リチャードはそれまで触っていたオレのモノから手を放し、腰を使って律動を続ける。一定の変わらぬリズムで動いているというのに、身体が悲鳴を上げるほどの快楽に浸る。
もう、愉悦に堕ちていきそうだ。
今、求められたら、オレは何も断れない。
射精するためなら、何でもする。言いなりになる。
俺は自分に覆い被さって動くリチャードの顔を見ながら、達する瞬間を待った。
「あああ……っは……きもち、いい……っイく、リチャード──っ」
「ふ……っあ」
オレが叫んだところで、勢いよく白濁が迸った。
リチャードもオレの中で達し、精液を注ぎ入れてくる。
オレは激しい呼吸を繰り返しながら、汗に濡れた額を拭い、唇にキスを落とすリチャードを見遣った。
「これで、主も受けの良さがわかりましたね。最高でございましょう?」
リチャードに問われて、オレは無意識化で頷いていた。
やがて目の前が暗くなり、俺は夢の中に沈んでいった。
目を覚ますと、オレは薄暗闇にいた。
カーテンの隙間から陽が差し込み、聞き慣れた小鳥の鳴き声を耳が拾う。
「帰って来た、のか?」
もしかしたら、元いた世界に戻れたのかと、オレは期待して窓辺に近付こうとした。
だが、ほんの数歩進んだところで、首ぐんと後ろに引っ張られて、首元が苦しくなる。
首元に手をやると、そこには首輪がされていた。
「一体、何……が?」
「目が覚めましたか? 我が主」
オレの声に、もう一つの声が重なった。
声の主は、全裸の俺とは違い、いつもの如く隙なくテイルコートを身に着けている。
その微笑みは満ち足りているように、深く甘い。
「これは、何だ」
「ああ、首輪でございます」
「だから、なぜ首輪で繋ぐんだ」
「もちろん、逃さないためです」
きっぱりと言い切られて、俺は顔を顰めた。
「どういうつもりか、説明しろっ」
オレが命じると、リチャードは恭しく胸元に手をやった。
「主さまは、スーパー攻め様から受けになられたのです」
「……だから?」
恐る恐る尋ねると、リチャードは頬を染めた。
「これからは、我が主にして我が愛玩物として、一生愛でる所存です」
「……はあ!?」
リチャードはオレの顎先を指で捉え、あらゆる角度から首筋を見てきた。
「急ごしらえの首輪では心許ない。主さまのために職人に最高級の首輪を作らせます」
「要らない!」
「そうおっしゃらずに」
こうして俺は、元の世界に帰るどころか、リチャードの許しがなければ部屋からも出られなくなった。
首輪に鎖をつけられて連れて行かれ、リチャード専用の受けとして生きている。
これが、ルートのENDなら従うしかない。
──今は、素直に従ったフリを続ける。
なぜなら、ひとつだけ抜け道があるからだ。
オレは、このゲームの中に、このルート以外をセーブしている。
そこをロードすれば、またスーパー攻め様である時空に戻れるはずだ。
しかし、今のところその戻り方がわからない。
リチャードなら知っているだろうが、彼が方法を話すとは思えない。
だから今は、大人しく受けとして生きている。
いつか、スーパー攻め様であったセーブポイントに戻る日を夢見ながら、今日もリチャード専用の受けとして抱かれるのであった。
-END-
目が覚めて一発目で聞こえてきたセリフがこれだ。
「……へ?」
足元にしな垂れかかり、オレの膝をさする少年に頬が引きつる。
ハニーブロンドの巻き毛、潤んだ翡翠色の瞳。
色が白く、頬だけがほんのりと赤い。
こんな少年、今まで見たことがない。
周囲を見回せば、これも見たことのない部屋だ。
どこかの歴史ある邸の応接間のようだ。
高い天井、そこから下がる豪奢なシャンデリア、マーブル模様のテーブル。
俺はその部屋の革張りの長椅子に座り、毛足の長い絨毯の上に座る少年に懇願されている。
「ペットって……」
「愛玩動物のことです」
背後から聞こえてきた声は冷静沈着な、耳に馴染むテノールだ。
こんな声、未だかつて聴いたことがないような。
振り向けば、黒のテイルコートを身にまとう青年がいる。
年の頃は、20代半ばといったところか。
珍しい青みがかった髪色をしていて、細身のシルバーフレームの眼鏡を抱えている。
オレと目が合うと、手袋をはめた右手で眼鏡のブリッジを押し上げた。
その男には見覚えがあった。
黒と見紛うほどの濃い紺瞳も、高い鼻梁も。
確か執事じゃなかったか。
「ラウル、さま……」
現状把握に努めていると、穿いていた黒のスラックスの布地をぎゅっと握られる。
注意を引くような動きにハッとなり、俺は視線を下げる。
すると、上目遣いでオレを見つめ、少年が赤い唇を震わせている。
そうだった。この少年に頼まれている最中だった。
「あー、あのさあ」
すると、突然目の前に文字が浮かび上がった。
***************
ティルトをペットに
⇒する
しない
****************
これはもしや、選択肢というやつじゃないのか。
話の流れからするに、この少年の名前はティルト。
そして、選択肢はオレにペットにするかどうか聞いてきている。
周囲は動きを止めていて、聞き覚えのあるBGMが流れている。
選択しない限り、時は動かないらしい。
だが、ペットにするかしないかなんて、悩むまでもない。
オレは人間をペットにする趣味はない。
となれば、やることはひとつだ。
ただ、やっていいものかはわからないが。
俺はこくりと唾液で喉を潤すと、恐る恐るその文字に触れ、矢印を「しない」に合わせた。
すると、軽快なチャイム音が流れ、時が動き出す。
「そんな……僕は……」
少年はぽろぽろと大粒の涙を零し、床にひれ伏そうとした。
すると、オレの手が意思に反して勝手に動く。
ティルトの前髪を掴んで上向かせ、その泣き顔を見てククッと笑う。
「お前はオレのペットではない。性奴隷だ」
途端に少年の顔が赤く染まり、嬉しそうに微笑みを浮かべる。
一体どうなっている?
性奴隷って何だ?
何をこいつは喜んでいる?
オレは長椅子から立ち上がり、自身のスラックスの前立てを下ろす。
「上手く奉仕出来たら、今日は存分に可愛がってやるぞ」
「はい! ラウルさま!」
待て待て。
勝手にオレの身体を操るな!
オレは身体の動きを制御しようと、眉間に皺を寄せるほどに意思の力を総動員し、自分のモノを取り出しかけた手を止める。
そして、不思議そうにオレを見上げる翡翠色の瞳に告げた。
「ティルトと言ったな。悪いがお前の相手はできない。とりあえず、ここから出て行ってくれないか」
必死に口を動かして告げると、ティルトのとろりとしていた目が絶望の色に変わる。
そして、何一つ口ごたえせずに、コクリと一つ頷いてティルトは出て行った。
こうして、応接間には、オレと後ろに控える青年だけが取り残される。
「お見事でございます」
「……何が?」
背後から聞こえてきた声に、オレは問い掛ける。
つい口調が険しいものになっても、この状況なら仕方がない。
だが、男は気にした様子もなく、恭しく頭を下げた。
「一度は希望を与えた上で、素気無くする。素晴らしいお振舞いでございます」
「いや、オレはそんなつもりはない。リチャード」
名前を口にして、オレはハッとした。
なぜオレは、こいつの名前を知っているのか。
「う……く……っ」
「ラウルさま、いかがいたしましたか」
そうだ。──オレの名前は、ラウル。
そして、この濃紺の髪の男の名がリチャードというのなら、もう決まりだ。
ここはBLゲーム「スレイブ・ファクトリー」の世界だ。
リチャードというのはゲームの案内役で、チュートリアルから攻略対象の好感度まで教えてくれるキャラだ。
さっきのティルトは攻略対象の一人で、一番初期の段階で攻略できる好感度の上げやすい登場人物だ。
そう理解した途端に、現状が把握できるようになる。
問題は、オレがそのゲームの主人公の身体に入ってしまっていることだ。
一体全体、何が起きてしまっているのか。
もし、夢か何かなら、醒めるまで待てばいい。
だが、これが昨今耳にする転生だとしたら、オレがラウルであるというのは重大問題だ。
なぜなら、このゲームのコンセプトは主人公総攻め。
いわゆるスーパー攻め様であるラウルが、次々に男を快楽堕ちさせて、ハーレムENDを迎えるというストーリーだ。
ルートの分岐によっては攻略対象と恋人になることも可能だが。
いずれにせよ、オレがそのラウルであるのなら、男をラブストーリーを展開することになる。
ここのところ、暇つぶしにBLゲームをプレイしていたとはいえ、オレはいわゆる腐男子じゃない。
その上、実際の中身はノンケでヘタレで、尚且つ陰キャだ。
そんなオレが、スーパー攻め様の役柄を演じる?
ミスキャストもいいところだ。
「ラウルさま」
頭を抱えていると、再びリチャードに名前を呼ばれる。
「すまない。一人にしてくれるか」
とにかく今は、この状況を整理して、次の手を考える他ない。
だが、リチャードは顔を蒼くして首を振った。
「ラウルさまが、私に謝罪されるなど有り得ません。これは由々しき事態です。今すぐ医者をお呼びいたします」
「いや、それには及ばな──」
オレが止めるのも聞かずに、リチャードは部屋を出て行く。
一人になれたのはいいが、一時的なものだろう。
どうしたものかと唸っていると、リチャードは白衣の人物を伴って現れた。
神経質そうに眉根を寄せ、オレの傍へ寄る男。
銀色の髪に空の蒼のような青い瞳。
この男にも見覚えがある。
攻略対象の一人である、この屋敷のお抱え医師のノイエだ。
「ラウルさまが御病気など。どうせ、夜会に行きたくなくて仮病を使われているのだろう」
フンと鼻を鳴らし、胸の前で腕を組んでオレを睥睨する。
ティルトやリチャードとは違い、偉そうな態度だ。
「ノイエ殿。我が主に対して不敬です」
リチャードはノイエを叱り、くどくどと説教を始めた。
ノイエはどこ吹く風で、そっぽを向いている。
だが、横目でちらちらとオレを覗っている。
言動とは裏腹に、どうやらオレを心配しているようだ。
リチャードは、はあと深い溜息を吐き、頭痛がするとでもいうように額に手を当てる。
「幼馴染だからといっても、ノイエ殿は気安すぎます。立場を弁えていただかないと」
「フン、リチャードが甘やかしすぎているのだ」
じろりとリチャードを睨みつけ、ノイエは身を屈めて俺の首筋に手をやった。
「熱は──っ」
体温を手で測ろうとしているのだろうが、突然オレの手が意思に反して動く。
そして、ノイエのその滑らかな手に手を重ね、ニヤリと笑ったのだ。
「オレに触りたいのか? ノイエ」
揶揄うような声音で、オレはノイエに訊ねる。
途端にノイエは焦ったように頭を振り、オレから逃れようとした。
「違う。これはれっきとした医療行為で……っは」
オレはノイエの股間を鷲掴みにし、やわやわと揉みこむ。
「その割に、ここが膨らんでいるぞ」
オレが触ると、スラックスの中のモノが見る見るうちに膨らみ、前立てを押し上げた。
ノイエは、オレの手を掴み、何とか引き剥がそうとしている。
だが、その力は弱く、微かに震えていた。
「ああ、このまま触っていたら、イってしまうんじゃないか?」
膨らみを指先で辿り、まるで形の変わっていく存在を知らしめているような動きだ。
「よせ、やめろっ! 私にそんな趣味はない! お前がいつも侍らせている少年と同一視するな!」
ノイエは激高し、オレの手を払った。
「なんだ、妬いているのか? 心配しなくとも、お前のこともオレは可愛く思っているぞ」
そう言って再びノイエのモノに手を伸ばし、今度は手のひらで円を描くように撫でる。
ノイエの呼吸が乱れ、はあはあと息遣いが荒くなっていく。
「どうした? 抵抗はもう終わりか、ノイエ」
「うる、さい……っ」
言葉とは裏腹に、身体は陥落寸前だ。
膝がガクガクと震え、薄いブラウンのスラックスに染みが広がっていく。
「このままでは、下着もスラックスも精液塗れになる。お願いしますと言えば、イかせてやらなくもない」
「誰がっ! 私は、イきそうになって……など……う……はっ」
そこまで追い込んで、オレはハタと正気に戻った。
目の前にまた、選択肢が浮かび上がったからだ。
*************
ノイエに対して
⇒このままイかせる
お仕置きする
**************
オレはその選択肢を読んで、眩暈を感じた。
どちらも選びようがないじゃないか。
いや、まだお仕置きの方がマシか?
時が止まり、BGMが流れ続ける。──まるでオレの選択を急かすかのように。
オレは考えた挙句、仕方なく下の選択肢をチョイスした。
「リチャード」
「はい、主さま」
名前を呼んで軽く手を上げたオレに、リチャードは心得ていると言わんばかりに何かを渡す。
手にしたものを見て、俺は内心ギョッとした。
リチャードが渡してきたのは、鞭だ。
乗馬をする時に使う、硬い鞭だとわかって血の気が引いた。
だが、身体は勝手に動き、目の前にいたノイエの足を払う。
そして、床にしたたかに身体を打ち付けて呻くノイエめがけて、オレは鞭を振り上げた。
「尻を出せ。ペチペチしてやるぞ?」
「ああ……それだけは、許してくれっ……」
ノイエは悲痛な声で言ったが、慣れているのかすぐに四つん這いになった。
そして、白衣を捲り上げてオレに尻を向ける。
先程とは打って変わった従順さに、オレは目を瞠る。
床に這いつくばり、毛足の長い絨毯に爪を立てて、ノイエは今か今かと待ち構えているようだ。
オレは、何度か素振りをするように鞭を振るって音を聞かせ、ノイエが怯えて身を竦めたところで尻をぶった。
「……っひあ……あ……」
「さあ、何と言うんだったか? 教えただろう?」
オレの問いかけに、ノイエはきつく唇を噛む。
だが、1度、2度と鞭を振るわれると、顔を赤くしてついに口に舌。
「ご主人様! 哀れな豚にお情けを!」
「フっ、いい子だ。──さあ、お前の恥部を曝け出せ」
「はい……っ!」
ノイエはいそいそとスラックスと下着をずるりと下ろして、尻を剥き出しにした。
窄まりから陰嚢の影までオレに見せつけ、肩越しにちらちらとみてくる。
着やせする質なのか、スラックスを穿いていた時には、こんなに尻が丸いとは思っていなかった。
白い尻には、先程鞭打たれたことで赤いミミズ腫れが出来ていて、オレはその痕を乗馬鞭の先で辿った。
「どうして欲しい? 言ってみろ」
「ご主人様の楔を、どうか私めに打ち込んでください!」
あれほどツンツンしていたというのに、今や尻を振って懇願している。
オレが、楔をこの尻にぶち込む?
楔というのは、アレのことだろう。
無理だ……。
まったく興奮しないし、オレのモノは反応していない。
第一オレは、この状況で興奮するような変態じゃない。
ノイエの様子を見て深い溜息を吐き、オレはどかりと長椅子に座り直す。
「ラウルさま」
「こいつを追い出せ。その気にならない」
「そんな!」
ノイエは恨めしい視線を俺に寄越すと、下ろしていた下着とスラックスを穿き直し、着衣を整える。
「うう……っ」
恨めしそうにオレを見つめて唸り声をあげた。
そして、オレから顔を逸らし、往診用のカバンを手にすると、足早に部屋を出て行った。
呻きたいのはこっちの方だ。まさかこれが日常化するのか?
冗談じゃない。
頭痛が酷くなり、オレは眉間を押さえた。
この2人の他にも、攻略対象はあと3人いる。
こいつらの面倒を、これから一生見なければならないのか。
第一、男のハーレムなんて、オレは望まない。
そんなものにオレは興奮なんかしないし、元の世界に戻るまでそっとしておいてほしい。
なんとか回避できないのかと頭を悩ませたところで、オレはあるルートを思い出した。
そういえば、誰とも関係を持たずに済むルートがあった。
たしか、攻略対象を次々と奴隷商に売り払っていくルートだ。
若干可哀想ではあるが、背に腹は代えられない。
こうなったら、最短ルートで奴隷にしてやる。
「リチャード。あいつらを奴隷商に売り飛ばしたい」
オレは背後に控えるリチャードを呼び、そう意思を伝えた。
「あいつらとおっしゃいますと、ティルト殿とノイエ殿のことでしょうか」
「いや、5人まとめて一気に売り払う」
すると、リチャードは眼鏡の奥の瞳を瞠り、次いで胸元に手を当てた。
「ああ、これで私の長年の夢が叶います」
「夢、だと?」
何のことかと訊ねようとしたが、リチャードはすぐに手続きに入る。
「奴隷商でしたら、サイデン商会がよろしいでしょう。価格はいかがなさいますか? 全員処女ですので、高くお売りできると思われます」
全員、処女。
男でも処女というのかは別にして、オレとしては厄介払いできればそれでいい。
「奴隷商の言い値で売ってやれ」
「左様でございますか。では、お任せを」
リチャードは深々と頭を下げ、部屋を出て行った。
これでいい。
オレの人生は安泰だ。
もう攻略対象に絡まれることもない。
詰めていた息を吐き、オレは今後の人生を考える。
確かラウルは男爵で、金には困っていない。
ここには漫画もアニメもないだろうが、探せば暇つぶしになる娯楽くらいあるだろう。
社畜として働く毎日からも解放されるのだ。
なんというユートピア!
オレは長椅子に深く座り、肘掛けに寄りかかりながら夢想した。
きっと、この世界にも酒はあるだろうし、ほろ酔いで毎日過ごすのも悪くない。
そうして、にやけていたところ、不意にドアがノックされた。
オレは一つ咳払いをし、真面目くさった声で「入れ」と命じた。
現れたのはリチャードだ。
眼鏡のブリッジを押し上げて、不敵な笑みを浮かべる。
先程までの彼とは、まったく印象が違う。
リチャードは左手に何やらカバンを持っている。
「それは?」
「淫具でございます」
「……イン、グ?」
言葉の意味がわからずに繰り返すと、オレの傍まで近寄り、長椅子の足下にカバンを置いた。そして、留め金を外してカバンを開け、中身をオレに見せる。
「……なんだ、これ」
「ですから、淫具でございます」
中に入っていたのは、SMプレイで使うような道具だ。
ディルドを始め、アナルパールや手錠、ボールギャグも入っている。
恐らくは、攻略対象に使う物だろう
「ああ、ゴミか」
攻略対象を奴隷商に売り払ったのだから、もうこれらは用済みだ。
オレが納得して頷いていると、「いいえ」と否定する。
「こちらは、我が主、ラウルさまに使用する物でございます」
「は?」
今度こそ意味がわからず、俺は訊き返す。
「オレに使うってどういうことだ?」
すると、リチャードは白手袋をはめた手を自身の胸元に押し当てて礼をした。
「主を愉しませるため、精一杯尽くします」
「だから、何を言って……うわっ!」
リチャードは、オレの膝裏に手を差し入れると、軽々と抱き上げた。
いわゆる、お姫様抱っこと呼ばれるものだ。
「下ろしてくれっ!」
恥ずかしさと得体の知れなさにリチャードの腕の中で暴れたが、怯むことなくずんずんと歩く。
そして、ベッドのある部屋に連れて行くと、恭しくキングサイズの寝台に俺を寝かせた。
「一体、なんのつもりで──」
「ラウルさまは、攻略対象の皆様を奴隷として売り飛ばされました」
それは間違いない。
オレが頷くと、リチャードは続ける。
「主さまがどなたにもご興味を抱かなかった場合、スーパー攻め様という称号は剥奪されます」
「剥……奪?」
嫌な予感がする。
これは、何かまずいルートに入った。
オレが顔を強張らせていると、リチャードはするりと頬の輪郭を撫でる。
「今から、主さまは受け対象となります」
「う、受け? 待ってくれ。それは、男に犯されるってことか?」
「違います」
はっきりと否定されて、俺は胸を撫で下ろした。
なんだ、勘違いか。
それはそうだ。
スーパー攻め様だったオレが、受けになるわけがないじゃないか。
そんなの、プレイヤーの地雷を踏みぬく行為だ。
リチャードは更に笑みを深め、両手を高々と上げる。
「ああ、私はこの時のために祈りを捧げて参りました。神よ」
感極まったような声でそう言うと、リチャードはオレの頬を両手で挟む。
まるで宝物を扱うかのように自分に向かせ、顔を寄せた。
吐息がかかるほどの距離まで近付くと、紺色の瞳を瞬かせる。
「私が、受けとなった我が主を抱くのです。大切にいたします」
「何を……っんん……んー!!」
唇が重なったかと思うと、すぐに舌が潜り込んだ。
肩を押して避けようとするも、リチャードの身体はビクともしない。
ぬるりと口腔内に入り込んだ舌は、上顎をくすぐり、歯列をなぞる。
ぞくぞくと背中を快感が駆け上がり、脳天が痺れる心地がした。
「んっ……は……やめ……っ」
顔の角度を変えたところで言葉を発したが、リチャードは再び口を塞ぐ。好き放題に口腔内を味わい、舌を吸われる。身体から力が抜けていき、押し返していたはずの手が、胸元に縋る動きに変わった。
まずい。このままでは流されてしまう。
そう思っても、まるで唾液が媚薬でもあるかのように、だんだんと身体が昂っていった。
自分のモノが膨張して硬くなり、痛いほどに張り詰める。
「我が主の処女を散らす光栄に預かり、私は幸せです」
「処女を散らすとか言うな! オレは絶対にさせないからな!」
リチャードの身体の下から抜け出そうとするも、上着の首根っこを引っ張られて俯せにされた。
腰に巻いたカマーバンドを外し、スラックスを脱がし始める。
「やめろ、馬鹿!」
罵倒しても、リチャードは恍惚とした表情を浮かべるだけだ。
オレのスラックスと下穿きを一枚一枚、時間をかけて脱がし、下半身を剥き出しにさせる。
「ああ、何という滑らかな肌でしょう。今すぐにでもかぶりつきたい」
尻を撫で揉みしだきながら言われて、身体がビクンと跳ねる。
「期待していらっしゃるのですね」
「そんなわけない! 勝手に解釈しないで、く……っわ……ああ」
尻の狭間に濡れた指が触れ、窄まりを揉みこまれる。
この状態でいきなりモノを突っ込むつもりなのかと焦っていると、無機物のような硬くつるりとしたものを押し当てられる。
「御心配には及びません。中を広げるための淫具でございます」
「やめてくれっ! 広げようとしないでほしい!!」
「ああ、なんとお可愛らしい……」
リチャードはうっとりとした口調で言うと、細く長いそれを中に埋めた。
「ふっ……く……っ」
異物感はあるが、痛みはない。
むしろ、これでどうやって広げられるのかわからないくらいだ。
だが、濡らした異物の感触は気色悪い。
自分の尻の中に器具が入っていると思うだけで怖気が立つ。
「さあ、これであとは時が来るまでじっくり愉しみましょう」
時が来る?
よくわからないままに、リチャードはオレを仰向けに返した。
そして、身に着けていた襟高の上着のボタンを外し、タイを緩め、中のブラウスの前も開ける。肌が空気にさらされて、その冷たさに鳥肌が立った。
「もう乳首を立たせているのですか、もしや、ご自身で愉しんでいらしたとか」
言われた通り、乳首は立っていたが、これは鳥肌が立っているせいだ。
「乳首なんて触るわけがないだろ」
「これはこれは、素直でいらっしゃいますね」
くすくすと笑い、リチャードは両手でオレの胸元を撫で回した。
オレより少し体温が低いのか、指先がひんやりしている。
しばらく肌の質感を確かめるように触ったあと、立ち上がった乳首を抓んだ。
「う……くっ」
「痛みがありますか?」
「それは、ない……が」
「ああ、では感じていらっしゃるのですね」
「ちが、……はっ」
否定しようとしたところで、指先で捏ねられて声が上がってしまう。
じんと身体の奥深くが疼き、尻の中にある器具を締め付けてしまう。
「く……は……っ」
「おや? もう中が気持ちいいのですか。さすが我が主。感度も素晴らしい」
「馬鹿に、しているのか?」
「まさか」
リチャードはオレに顔を近付け、鼻を触れ合わせた。
「私は、喜んでいるのです。我が主よ」
「……っふ……んん……ぁ……ふ」
そこで、再び唇が重なった。
押し付けるだけのキスをし、軽く啄まれる。
ここで口を開けたら舌を入れられると思い、俺はぎゅっと奥歯を噛む。
「ふふっ……初々しいですね」
リチャードは唇を舌で舐め、狭間を辿る。
その艶めかしい舌の動きに身体が昂った。
それでも何とか閉じていると、芯を持ち始めた乳首をくりくりと指先で弄られた。
「はう……っあ……んく」
途端に口の中に舌が入り込み、逃げたオレの舌を舐めてくる。
チュッと吸い上げ、絡め取り、くちゅくちゅと音を立てるほどに刺激した。
これまで、キスくらいしたことはあったが、こんなに蕩かされる感覚は味わったことがない。頭の中が霞むほどの濃厚なキスをされて、身体から力が抜けた。
呆然と天井を見上げることしかできないでいると、唇が離れていった。
キスを解かれてホッとしたのも束の間、唇は頬を滑り、首筋を通って胸元に到達した。肌をぺろりと舐め、唇で吸い上げる。
「んぁ……あ……は……」
やがて痛いほどに立ち上がった乳首も唇で挟み、ちゅっちゅと音を立ててしゃぶった。
乳輪を舐め取るように舌を動かし、立った中心を押し潰しては吸い上げる。
おかしくなるほどに続け、オレに快感を植え付ける。
散々舌で舐ったあと、リチャードはオレにもう一度キスをした。
受けってこんなに気持ちがいいものなのかと、一方的な愛撫に理性を奪われる。
リチャードは頬やこめかみにキスをしながら、オレのモノに触れた。
「こんなに大きくして。触ったら弾けてしまいそうでございますね」
笑い含みに指摘されて、居た堪れなくなる。
リチャードは、さっき後ろに塗した液体をオレのモノにも垂らし、ぬるぬるした手で握って扱く。
「あう……っあ……出、る……っ」
情けないとは思ったが、オレは口走った。
「出してもいいですが、あとが辛くなります」
「なら……手を、放して……くれ……っ」
「それは聞けません。もう少し、弄らないと」
そして、根元から先端に掛けて何度もしつこいほどに扱き、陰嚢を揉むことさえする。
「あ……っは……っ!?」
それは、突然起こった。
「な……っに……ああっ……あ」
内側から熱が湧き起こり、ぶわりと視界が揺れる。
視界ではなく、自分の身体が揺れているのだと遅れて気が付いた。
「素晴らしい。やはり私の目に狂いはなかった。初めてでここまで感じられる方は稀有です。さすがは我が主。極上の身体をしていらっしゃる」
「あう……っあ……いい、から……なんとか、し……てく……っは」
リチャードは感嘆したように溜息を吐き、オレの膝を開かせる。
「慎まやかにしていながら、ひくひくと誘っている。なんと清楚で淫らな身体でしょう。その不均衡なさまが、お美しくていらっしゃる。
「御託は、いい……っ! はや、く……っ」
「もっとゆっくり愉しみたいところですが、ラウルさまのお望みとあらば、致し方ありません」
リチャードは、オレの尻穴に触れると、少しだけ飛び出ていた器具をずるりと引き抜いた。
「ふあ……っあー!! あっ……は……」
ビクンビクンと身体が跳ね、今にも達するというところで、リチャードはオレのモノの根元を指できつく締め付ける。
「!? あ……っあ……」
「なりません」
「馬鹿……っなんで……うう……」
イくのを止められたせいで、行き場のない快感が体内にわだかまる。
わなわなと唇が震え、喉が干上がった。
込み上げた射精感は維持されたまま、腰のあたりに熱が凝る。
「も、う……イきた……」
「さあ、ここから受けの本領発揮です。どうぞ、ごゆるりとご堪能あれ」
リチャードは謳うようにそう言うと、自身の前を寛げて、中からモノを取り出した。大きく張ったカリ、浮き出た血管、何よりその長さと太さにくらりと目眩がした。
「そんなにこれが欲しいのですね」
「そんなもの、入るわけがない!」
「何をおっしゃいます。我が主に不可能などないのです」
リチャードは薄っすらと笑い、熱い眼差しで俺を見下ろした。
「よせ、やめろ……っ」
「ふふ、逃げても無駄ですよ。あなたは受けなのですから」
「ぐ……は……」
ベッドヘッドへずり上がろうとする身体を腰骨を掴んで引き止め、膝頭に手を置いた。そして、オレの後ろに自身の亀頭を押し当てる。身体がぶるりと震え、歯の根が合わない。
「挿入いたします」
「うっ……く……は……っ」
リチャードのモノは、見た目以上に大きく、しかも熱く脈打っている。
ぞわぞわと足先から何か得体の知れないものが這い上がり、深々と穿たれた途端に身体中を吹き荒れた。
「うあ……あ……っああ! やめ、……もう……いれない、でっくれ」
「ああ、なんと熱い。私のものを飲み込んで、逃がすまいと絡みついてくる。おわかりですか? ほら、このように」
「ひあ……っあ……は……うあ……っんん」
ずんと奥を突き、ゆるゆると引き抜かれると、指摘通り中がリチャードを食む。
まるで絡みついて、引き留めているようだ。
リチャードは、鋭く突き入れ、ゆっくりと抜く動作を繰り返した。
「あ……は……っあ……あ」
動く度に声が押し出され、オレはリチャードの胸を押し返す。
「いや、だ……それ……っつあ」
「これ、ですか」
「んく……っんん」
逃げようとしても追い詰められ、リズミカルにモノを握る手を動かし、出し入れを繰り返す。
「りちゃー、ど……は……っん」
「どうしました?」
「く……う……ああ」
気持ち良くて、もっと続けてほしくなる。
その奥を押し上げ、擦り立てて、抜き差しして欲しい。
そんなことを言葉にできるはずもなく、オレはただ名前を呼んだ。
「リチャード、リチャードっ」
「ここ」
「はう……っああ……あ……っ」
「良さそうですね」
オレは、何度も首を縦に振り、自分の快感を伝える。
「もっと感じてください。中の私を欲して、きゅうきゅうと締め上げ、吞み込んでいただきたい」
「あう……ああ……っあ」
結合部からぐぷぐぷと音がする。
淫猥な音は、耳だけではなく頭の中まで侵食する。
「ああ……っイく……もう、う……駄目、だ……っ」
「いいですよ。どうぞいっぱい出してください」
リチャードはそれまで触っていたオレのモノから手を放し、腰を使って律動を続ける。一定の変わらぬリズムで動いているというのに、身体が悲鳴を上げるほどの快楽に浸る。
もう、愉悦に堕ちていきそうだ。
今、求められたら、オレは何も断れない。
射精するためなら、何でもする。言いなりになる。
俺は自分に覆い被さって動くリチャードの顔を見ながら、達する瞬間を待った。
「あああ……っは……きもち、いい……っイく、リチャード──っ」
「ふ……っあ」
オレが叫んだところで、勢いよく白濁が迸った。
リチャードもオレの中で達し、精液を注ぎ入れてくる。
オレは激しい呼吸を繰り返しながら、汗に濡れた額を拭い、唇にキスを落とすリチャードを見遣った。
「これで、主も受けの良さがわかりましたね。最高でございましょう?」
リチャードに問われて、オレは無意識化で頷いていた。
やがて目の前が暗くなり、俺は夢の中に沈んでいった。
目を覚ますと、オレは薄暗闇にいた。
カーテンの隙間から陽が差し込み、聞き慣れた小鳥の鳴き声を耳が拾う。
「帰って来た、のか?」
もしかしたら、元いた世界に戻れたのかと、オレは期待して窓辺に近付こうとした。
だが、ほんの数歩進んだところで、首ぐんと後ろに引っ張られて、首元が苦しくなる。
首元に手をやると、そこには首輪がされていた。
「一体、何……が?」
「目が覚めましたか? 我が主」
オレの声に、もう一つの声が重なった。
声の主は、全裸の俺とは違い、いつもの如く隙なくテイルコートを身に着けている。
その微笑みは満ち足りているように、深く甘い。
「これは、何だ」
「ああ、首輪でございます」
「だから、なぜ首輪で繋ぐんだ」
「もちろん、逃さないためです」
きっぱりと言い切られて、俺は顔を顰めた。
「どういうつもりか、説明しろっ」
オレが命じると、リチャードは恭しく胸元に手をやった。
「主さまは、スーパー攻め様から受けになられたのです」
「……だから?」
恐る恐る尋ねると、リチャードは頬を染めた。
「これからは、我が主にして我が愛玩物として、一生愛でる所存です」
「……はあ!?」
リチャードはオレの顎先を指で捉え、あらゆる角度から首筋を見てきた。
「急ごしらえの首輪では心許ない。主さまのために職人に最高級の首輪を作らせます」
「要らない!」
「そうおっしゃらずに」
こうして俺は、元の世界に帰るどころか、リチャードの許しがなければ部屋からも出られなくなった。
首輪に鎖をつけられて連れて行かれ、リチャード専用の受けとして生きている。
これが、ルートのENDなら従うしかない。
──今は、素直に従ったフリを続ける。
なぜなら、ひとつだけ抜け道があるからだ。
オレは、このゲームの中に、このルート以外をセーブしている。
そこをロードすれば、またスーパー攻め様である時空に戻れるはずだ。
しかし、今のところその戻り方がわからない。
リチャードなら知っているだろうが、彼が方法を話すとは思えない。
だから今は、大人しく受けとして生きている。
いつか、スーパー攻め様であったセーブポイントに戻る日を夢見ながら、今日もリチャード専用の受けとして抱かれるのであった。
-END-
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