ヘタレでノンケのオレが、BLゲームのスーパー攻め様に転生してしまった!

佑々木(うさぎ)

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ヘタレでノンケのオレが、BLゲームのスーパー攻め様に転生してしまった!

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「お願いです、ラウルさま。僕をラウルさまのペットにしてほしいんです」

 目が覚めて一発目で聞こえてきたセリフがこれだ。

「……へ?」

 足元にしな垂れかかり、オレの膝をさする少年に頬が引きつる。
 ハニーブロンドの巻き毛、潤んだ翡翠色の瞳。
 色が白く、頬だけがほんのりと赤い。
 こんな少年、今まで見たことがない。
 
 周囲を見回せば、これも見たことのない部屋だ。
 どこかの歴史ある邸の応接間のようだ。
 高い天井、そこから下がる豪奢なシャンデリア、マーブル模様のテーブル。
 俺はその部屋の革張りの長椅子に座り、毛足の長い絨毯の上に座る少年に懇願されている。

「ペットって……」
「愛玩動物のことです」

 背後から聞こえてきた声は冷静沈着な、耳に馴染むテノールだ。
 こんな声、未だかつて聴いたことがないような。
 振り向けば、黒のテイルコートを身にまとう青年がいる。
 年の頃は、20代半ばといったところか。
 珍しい青みがかった髪色をしていて、細身のシルバーフレームの眼鏡を抱えている。
 オレと目が合うと、手袋をはめた右手で眼鏡のブリッジを押し上げた。

 その男には見覚えがあった。
 黒と見紛うほどの濃い紺瞳も、高い鼻梁も。
 確か執事じゃなかったか。

「ラウル、さま……」

 現状把握に努めていると、穿いていた黒のスラックスの布地をぎゅっと握られる。
 注意を引くような動きにハッとなり、俺は視線を下げる。
 すると、上目遣いでオレを見つめ、少年が赤い唇を震わせている。
 そうだった。この少年に頼まれている最中だった。

「あー、あのさあ」

 すると、突然目の前に文字が浮かび上がった。


 ***************
  ティルトをペットに
  ⇒する
   しない
 ****************


 これはもしや、選択肢というやつじゃないのか。
 話の流れからするに、この少年の名前はティルト。
 そして、選択肢はオレにペットにするかどうか聞いてきている。

 周囲は動きを止めていて、聞き覚えのあるBGMが流れている。
 選択しない限り、時は動かないらしい。

 だが、ペットにするかしないかなんて、悩むまでもない。
 オレは人間をペットにする趣味はない。
 
 となれば、やることはひとつだ。
 ただ、やっていいものかはわからないが。

 俺はこくりと唾液で喉を潤すと、恐る恐るその文字に触れ、矢印を「しない」に合わせた。
 すると、軽快なチャイム音が流れ、時が動き出す。

「そんな……僕は……」

 少年はぽろぽろと大粒の涙を零し、床にひれ伏そうとした。
 すると、オレの手が意思に反して勝手に動く。

 ティルトの前髪を掴んで上向かせ、その泣き顔を見てククッと笑う。

「お前はオレのペットではない。性奴隷だ」

 途端に少年の顔が赤く染まり、嬉しそうに微笑みを浮かべる。
 
 一体どうなっている?
 性奴隷って何だ?
 何をこいつは喜んでいる?

 オレは長椅子から立ち上がり、自身のスラックスの前立てを下ろす。

「上手く奉仕出来たら、今日は存分に可愛がってやるぞ」
「はい! ラウルさま!」

 待て待て。
 勝手にオレの身体を操るな!

 オレは身体の動きを制御しようと、眉間に皺を寄せるほどに意思の力を総動員し、自分のモノを取り出しかけた手を止める。
 そして、不思議そうにオレを見上げる翡翠色の瞳に告げた。

「ティルトと言ったな。悪いがお前の相手はできない。とりあえず、ここから出て行ってくれないか」

 必死に口を動かして告げると、ティルトのとろりとしていた目が絶望の色に変わる。
 そして、何一つ口ごたえせずに、コクリと一つ頷いてティルトは出て行った。

 こうして、応接間には、オレと後ろに控える青年だけが取り残される。

「お見事でございます」
「……何が?」

 背後から聞こえてきた声に、オレは問い掛ける。
 つい口調が険しいものになっても、この状況なら仕方がない。
 だが、男は気にした様子もなく、恭しく頭を下げた。

「一度は希望を与えた上で、素気無くする。素晴らしいお振舞いでございます」
「いや、オレはそんなつもりはない。リチャード」

 名前を口にして、オレはハッとした。
 なぜオレは、こいつの名前を知っているのか。
 
「う……く……っ」
「ラウルさま、いかがいたしましたか」

 そうだ。──オレの名前は、ラウル。
 そして、この濃紺の髪の男の名がリチャードというのなら、もう決まりだ。

 ここはBLゲーム「スレイブ・ファクトリー」の世界だ。
 リチャードというのはゲームの案内役で、チュートリアルから攻略対象の好感度まで教えてくれるキャラだ。
 さっきのティルトは攻略対象の一人で、一番初期の段階で攻略できる好感度の上げやすい登場人物だ。

 そう理解した途端に、現状が把握できるようになる。

 問題は、オレがそのゲームの主人公の身体に入ってしまっていることだ。
 一体全体、何が起きてしまっているのか。

 もし、夢か何かなら、醒めるまで待てばいい。
 だが、これが昨今耳にする転生だとしたら、オレがラウルであるというのは重大問題だ。

 なぜなら、このゲームのコンセプトは主人公総攻め。
 いわゆるスーパー攻め様であるラウルが、次々に男を快楽堕ちさせて、ハーレムENDを迎えるというストーリーだ。
 ルートの分岐によっては攻略対象と恋人になることも可能だが。
 いずれにせよ、オレがそのラウルであるのなら、男をラブストーリーを展開することになる。

 ここのところ、暇つぶしにBLゲームをプレイしていたとはいえ、オレはいわゆる腐男子じゃない。
 その上、実際の中身はノンケでヘタレで、尚且つ陰キャだ。

 そんなオレが、スーパー攻め様の役柄を演じる?
 ミスキャストもいいところだ。

「ラウルさま」

 頭を抱えていると、再びリチャードに名前を呼ばれる。

「すまない。一人にしてくれるか」

 とにかく今は、この状況を整理して、次の手を考える他ない。
 だが、リチャードは顔を蒼くして首を振った。

「ラウルさまが、私に謝罪されるなど有り得ません。これは由々しき事態です。今すぐ医者をお呼びいたします」
「いや、それには及ばな──」

 オレが止めるのも聞かずに、リチャードは部屋を出て行く。
 一人になれたのはいいが、一時的なものだろう。

 どうしたものかと唸っていると、リチャードは白衣の人物を伴って現れた。
 神経質そうに眉根を寄せ、オレの傍へ寄る男。
 銀色の髪に空の蒼のような青い瞳。
 この男にも見覚えがある。
 攻略対象の一人である、この屋敷のお抱え医師のノイエだ。


「ラウルさまが御病気など。どうせ、夜会に行きたくなくて仮病を使われているのだろう」

 フンと鼻を鳴らし、胸の前で腕を組んでオレを睥睨する。
 ティルトやリチャードとは違い、偉そうな態度だ。

「ノイエ殿。我があるじに対して不敬です」

 リチャードはノイエを叱り、くどくどと説教を始めた。
 ノイエはどこ吹く風で、そっぽを向いている。
 だが、横目でちらちらとオレを覗っている。
 言動とは裏腹に、どうやらオレを心配しているようだ。

 リチャードは、はあと深い溜息を吐き、頭痛がするとでもいうように額に手を当てる。

「幼馴染だからといっても、ノイエ殿は気安すぎます。立場を弁えていただかないと」
「フン、リチャードが甘やかしすぎているのだ」

 じろりとリチャードを睨みつけ、ノイエは身を屈めて俺の首筋に手をやった。

「熱は──っ」

 体温を手で測ろうとしているのだろうが、突然オレの手が意思に反して動く。
 そして、ノイエのその滑らかな手に手を重ね、ニヤリと笑ったのだ。

「オレに触りたいのか? ノイエ」

 揶揄うような声音で、オレはノイエに訊ねる。
 途端にノイエは焦ったように頭を振り、オレから逃れようとした。

「違う。これはれっきとした医療行為で……っは」

 オレはノイエの股間を鷲掴みにし、やわやわと揉みこむ。

「その割に、ここが膨らんでいるぞ」

 オレが触ると、スラックスの中のモノが見る見るうちに膨らみ、前立てを押し上げた。
 ノイエは、オレの手を掴み、何とか引き剥がそうとしている。
 だが、その力は弱く、微かに震えていた。

「ああ、このまま触っていたら、イってしまうんじゃないか?」

 膨らみを指先で辿り、まるで形の変わっていく存在を知らしめているような動きだ。

「よせ、やめろっ! 私にそんな趣味はない! お前がいつも侍らせている少年と同一視するな!」

 ノイエは激高し、オレの手を払った。

「なんだ、妬いているのか? 心配しなくとも、お前のこともオレは可愛く思っているぞ」

 そう言って再びノイエのモノに手を伸ばし、今度は手のひらで円を描くように撫でる。
 ノイエの呼吸が乱れ、はあはあと息遣いが荒くなっていく。

「どうした? 抵抗はもう終わりか、ノイエ」
「うる、さい……っ」

 言葉とは裏腹に、身体は陥落寸前だ。
 膝がガクガクと震え、薄いブラウンのスラックスに染みが広がっていく。

「このままでは、下着もスラックスも精液塗れになる。お願いしますと言えば、イかせてやらなくもない」
「誰がっ! 私は、イきそうになって……など……う……はっ」

 そこまで追い込んで、オレはハタと正気に戻った。
 目の前にまた、選択肢が浮かび上がったからだ。


 *************
  ノイエに対して
  ⇒このままイかせる
   お仕置きする
 **************

 
 オレはその選択肢を読んで、眩暈を感じた。
 どちらも選びようがないじゃないか。
 いや、まだお仕置きの方がマシか?

 時が止まり、BGMが流れ続ける。──まるでオレの選択を急かすかのように。
 オレは考えた挙句、仕方なく下の選択肢をチョイスした。

「リチャード」
「はい、主さま」

 名前を呼んで軽く手を上げたオレに、リチャードは心得ていると言わんばかりに何かを渡す。
 手にしたものを見て、俺は内心ギョッとした。

 リチャードが渡してきたのは、鞭だ。
 乗馬をする時に使う、硬い鞭だとわかって血の気が引いた。

 だが、身体は勝手に動き、目の前にいたノイエの足を払う。
 そして、床にしたたかに身体を打ち付けて呻くノイエめがけて、オレは鞭を振り上げた。

「尻を出せ。ペチペチしてやるぞ?」
「ああ……それだけは、許してくれっ……」

 ノイエは悲痛な声で言ったが、慣れているのかすぐに四つん這いになった。
 そして、白衣を捲り上げてオレに尻を向ける。
 先程とは打って変わった従順さに、オレは目を瞠る。
 床に這いつくばり、毛足の長い絨毯に爪を立てて、ノイエは今か今かと待ち構えているようだ。

 オレは、何度か素振りをするように鞭を振るって音を聞かせ、ノイエが怯えて身を竦めたところで尻をぶった。

「……っひあ……あ……」
「さあ、何と言うんだったか? 教えただろう?」

 オレの問いかけに、ノイエはきつく唇を噛む。
 だが、1度、2度と鞭を振るわれると、顔を赤くしてついに口に舌。

「ご主人様! 哀れな豚にお情けを!」
「フっ、いい子だ。──さあ、お前の恥部を曝け出せ」
「はい……っ!」
 
 ノイエはいそいそとスラックスと下着をずるりと下ろして、尻を剥き出しにした。
 窄まりから陰嚢の影までオレに見せつけ、肩越しにちらちらとみてくる。
 着やせする質なのか、スラックスを穿いていた時には、こんなに尻が丸いとは思っていなかった。
 白い尻には、先程鞭打たれたことで赤いミミズ腫れが出来ていて、オレはその痕を乗馬鞭の先で辿った。

「どうして欲しい? 言ってみろ」
「ご主人様のくさびを、どうか私めに打ち込んでください!」

 あれほどツンツンしていたというのに、今や尻を振って懇願している。
 オレが、楔をこの尻にぶち込む?
 楔というのは、アレのことだろう。

 無理だ……。
 まったく興奮しないし、オレのモノは反応していない。
 第一オレは、この状況で興奮するような変態じゃない。

 ノイエの様子を見て深い溜息を吐き、オレはどかりと長椅子に座り直す。

「ラウルさま」
「こいつを追い出せ。その気にならない」
「そんな!」

 ノイエは恨めしい視線を俺に寄越すと、下ろしていた下着とスラックスを穿き直し、着衣を整える。

「うう……っ」

 恨めしそうにオレを見つめて唸り声をあげた。
 そして、オレから顔を逸らし、往診用のカバンを手にすると、足早に部屋を出て行った。

 呻きたいのはこっちの方だ。まさかこれが日常化するのか?
 冗談じゃない。
 頭痛が酷くなり、オレは眉間を押さえた。

 この2人の他にも、攻略対象はあと3人いる。
 こいつらの面倒を、これから一生見なければならないのか。
 第一、男のハーレムなんて、オレは望まない。
 そんなものにオレは興奮なんかしないし、元の世界に戻るまでそっとしておいてほしい。

 なんとか回避できないのかと頭を悩ませたところで、オレはあるルートを思い出した。
 そういえば、誰とも関係を持たずに済むルートがあった。
 たしか、攻略対象を次々と奴隷商に売り払っていくルートだ。

 若干可哀想ではあるが、背に腹は代えられない。
 こうなったら、最短ルートで奴隷にしてやる。

「リチャード。あいつらを奴隷商に売り飛ばしたい」

 オレは背後に控えるリチャードを呼び、そう意思を伝えた。

「あいつらとおっしゃいますと、ティルト殿とノイエ殿のことでしょうか」
「いや、5人まとめて一気に売り払う」

 すると、リチャードは眼鏡の奥の瞳を瞠り、次いで胸元に手を当てた。

「ああ、これで私の長年の夢が叶います」
「夢、だと?」

 何のことかと訊ねようとしたが、リチャードはすぐに手続きに入る。

「奴隷商でしたら、サイデン商会がよろしいでしょう。価格はいかがなさいますか? 全員処女ですので、高くお売りできると思われます」

 全員、処女。
 男でも処女というのかは別にして、オレとしては厄介払いできればそれでいい。

「奴隷商の言い値で売ってやれ」
「左様でございますか。では、お任せを」

 リチャードは深々と頭を下げ、部屋を出て行った。

 これでいい。
 オレの人生は安泰だ。
 もう攻略対象に絡まれることもない。

 詰めていた息を吐き、オレは今後の人生を考える。
 確かラウルは男爵で、金には困っていない。
 ここには漫画もアニメもないだろうが、探せば暇つぶしになる娯楽くらいあるだろう。
 社畜として働く毎日からも解放されるのだ。
 なんというユートピア!

 オレは長椅子に深く座り、肘掛けに寄りかかりながら夢想した。
 きっと、この世界にも酒はあるだろうし、ほろ酔いで毎日過ごすのも悪くない。

 そうして、にやけていたところ、不意にドアがノックされた。
 オレは一つ咳払いをし、真面目くさった声で「入れ」と命じた。

 現れたのはリチャードだ。
 眼鏡のブリッジを押し上げて、不敵な笑みを浮かべる。
 先程までの彼とは、まったく印象が違う。

 リチャードは左手に何やらカバンを持っている。

「それは?」
「淫具でございます」
「……イン、グ?」

 言葉の意味がわからずに繰り返すと、オレの傍まで近寄り、長椅子の足下にカバンを置いた。そして、留め金を外してカバンを開け、中身をオレに見せる。

「……なんだ、これ」
「ですから、淫具でございます」

 中に入っていたのは、SMプレイで使うような道具だ。
 ディルドを始め、アナルパールや手錠、ボールギャグも入っている。
 恐らくは、攻略対象に使う物だろう

「ああ、ゴミか」

 攻略対象を奴隷商に売り払ったのだから、もうこれらは用済みだ。
 オレが納得して頷いていると、「いいえ」と否定する。

「こちらは、我が主、ラウルさまに使用する物でございます」
「は?」

 今度こそ意味がわからず、俺は訊き返す。

「オレに使うってどういうことだ?」

 すると、リチャードは白手袋をはめた手を自身の胸元に押し当てて礼をした。

「主を愉しませるため、精一杯尽くします」
「だから、何を言って……うわっ!」

 リチャードは、オレの膝裏に手を差し入れると、軽々と抱き上げた。
 いわゆる、お姫様抱っこと呼ばれるものだ。

「下ろしてくれっ!」

 恥ずかしさと得体の知れなさにリチャードの腕の中で暴れたが、怯むことなくずんずんと歩く。
 そして、ベッドのある部屋に連れて行くと、恭しくキングサイズの寝台に俺を寝かせた。

「一体、なんのつもりで──」
「ラウルさまは、攻略対象の皆様を奴隷として売り飛ばされました」

 それは間違いない。
 オレが頷くと、リチャードは続ける。

「主さまがどなたにもご興味を抱かなかった場合、スーパー攻め様という称号は剥奪されます」
「剥……奪?」

 嫌な予感がする。
 これは、何かまずいルートに入った。
 オレが顔を強張らせていると、リチャードはするりと頬の輪郭を撫でる。

「今から、主さまは受け対象となります」
「う、受け? 待ってくれ。それは、男に犯されるってことか?」
「違います」

 はっきりと否定されて、俺は胸を撫で下ろした。

 なんだ、勘違いか。
 それはそうだ。
 スーパー攻め様だったオレが、受けになるわけがないじゃないか。
 そんなの、プレイヤーの地雷を踏みぬく行為だ。

 リチャードは更に笑みを深め、両手を高々と上げる。

「ああ、私はこの時のために祈りを捧げて参りました。神よ」

 感極まったような声でそう言うと、リチャードはオレの頬を両手で挟む。
 まるで宝物を扱うかのように自分に向かせ、顔を寄せた。
 吐息がかかるほどの距離まで近付くと、紺色の瞳を瞬かせる。

「私が、受けとなった我が主を抱くのです。大切にいたします」
「何を……っんん……んー!!」

 唇が重なったかと思うと、すぐに舌が潜り込んだ。
 肩を押して避けようとするも、リチャードの身体はビクともしない。
 ぬるりと口腔内に入り込んだ舌は、上顎をくすぐり、歯列をなぞる。
 ぞくぞくと背中を快感が駆け上がり、脳天が痺れる心地がした。

「んっ……は……やめ……っ」

 顔の角度を変えたところで言葉を発したが、リチャードは再び口を塞ぐ。好き放題に口腔内を味わい、舌を吸われる。身体から力が抜けていき、押し返していたはずの手が、胸元に縋る動きに変わった。

 まずい。このままでは流されてしまう。
 そう思っても、まるで唾液が媚薬でもあるかのように、だんだんと身体が昂っていった。
 自分のモノが膨張して硬くなり、痛いほどに張り詰める。

「我が主の処女を散らす光栄に預かり、私は幸せです」
「処女を散らすとか言うな! オレは絶対にさせないからな!」

 リチャードの身体の下から抜け出そうとするも、上着の首根っこを引っ張られて俯せにされた。
 腰に巻いたカマーバンドを外し、スラックスを脱がし始める。

「やめろ、馬鹿!」

 罵倒しても、リチャードは恍惚とした表情を浮かべるだけだ。
 オレのスラックスと下穿きを一枚一枚、時間をかけて脱がし、下半身を剥き出しにさせる。

「ああ、何という滑らかな肌でしょう。今すぐにでもかぶりつきたい」

 尻を撫で揉みしだきながら言われて、身体がビクンと跳ねる。

「期待していらっしゃるのですね」
「そんなわけない! 勝手に解釈しないで、く……っわ……ああ」

 尻の狭間に濡れた指が触れ、窄まりを揉みこまれる。
 この状態でいきなりモノを突っ込むつもりなのかと焦っていると、無機物のような硬くつるりとしたものを押し当てられる。

「御心配には及びません。中を広げるための淫具でございます」
「やめてくれっ! 広げようとしないでほしい!!」
「ああ、なんとお可愛らしい……」

 リチャードはうっとりとした口調で言うと、細く長いそれを中に埋めた。

「ふっ……く……っ」

 異物感はあるが、痛みはない。
 むしろ、これでどうやって広げられるのかわからないくらいだ。
 だが、濡らした異物の感触は気色悪い。
 自分の尻の中に器具が入っていると思うだけで怖気が立つ。

「さあ、これであとは時が来るまでじっくり愉しみましょう」

 時が来る?
 よくわからないままに、リチャードはオレを仰向けに返した。
 そして、身に着けていた襟高の上着のボタンを外し、タイを緩め、中のブラウスの前も開ける。肌が空気にさらされて、その冷たさに鳥肌が立った。

「もう乳首を立たせているのですか、もしや、ご自身で愉しんでいらしたとか」

 言われた通り、乳首は立っていたが、これは鳥肌が立っているせいだ。
 
「乳首なんて触るわけがないだろ」
「これはこれは、素直でいらっしゃいますね」

 くすくすと笑い、リチャードは両手でオレの胸元を撫で回した。
 オレより少し体温が低いのか、指先がひんやりしている。
 しばらく肌の質感を確かめるように触ったあと、立ち上がった乳首を抓んだ。

「う……くっ」
「痛みがありますか?」
「それは、ない……が」
「ああ、では感じていらっしゃるのですね」
「ちが、……はっ」

 否定しようとしたところで、指先で捏ねられて声が上がってしまう。
 じんと身体の奥深くが疼き、尻の中にある器具を締め付けてしまう。

「く……は……っ」
「おや? もう中が気持ちいいのですか。さすが我が主。感度も素晴らしい」
「馬鹿に、しているのか?」
「まさか」

 リチャードはオレに顔を近付け、鼻を触れ合わせた。

「私は、喜んでいるのです。我が主よ」
「……っふ……んん……ぁ……ふ」

 そこで、再び唇が重なった。
 押し付けるだけのキスをし、軽く啄まれる。
 ここで口を開けたら舌を入れられると思い、俺はぎゅっと奥歯を噛む。

「ふふっ……初々しいですね」

 リチャードは唇を舌で舐め、狭間を辿る。
 その艶めかしい舌の動きに身体が昂った。
 それでも何とか閉じていると、芯を持ち始めた乳首をくりくりと指先で弄られた。

「はう……っあ……んく」
 
 途端に口の中に舌が入り込み、逃げたオレの舌を舐めてくる。
 チュッと吸い上げ、絡め取り、くちゅくちゅと音を立てるほどに刺激した。
 これまで、キスくらいしたことはあったが、こんなに蕩かされる感覚は味わったことがない。頭の中が霞むほどの濃厚なキスをされて、身体から力が抜けた。
 呆然と天井を見上げることしかできないでいると、唇が離れていった。

 キスを解かれてホッとしたのも束の間、唇は頬を滑り、首筋を通って胸元に到達した。肌をぺろりと舐め、唇で吸い上げる。

「んぁ……あ……は……」

 やがて痛いほどに立ち上がった乳首も唇で挟み、ちゅっちゅと音を立ててしゃぶった。
 乳輪を舐め取るように舌を動かし、立った中心を押し潰しては吸い上げる。
 おかしくなるほどに続け、オレに快感を植え付ける。
 散々舌で舐ったあと、リチャードはオレにもう一度キスをした。
 
 受けってこんなに気持ちがいいものなのかと、一方的な愛撫に理性を奪われる。
 リチャードは頬やこめかみにキスをしながら、オレのモノに触れた。

「こんなに大きくして。触ったら弾けてしまいそうでございますね」

 笑い含みに指摘されて、居た堪れなくなる。
 リチャードは、さっき後ろに塗した液体をオレのモノにも垂らし、ぬるぬるした手で握って扱く。

「あう……っあ……出、る……っ」

 情けないとは思ったが、オレは口走った。

「出してもいいですが、あとが辛くなります」
「なら……手を、放して……くれ……っ」
「それは聞けません。もう少し、弄らないと」

 そして、根元から先端に掛けて何度もしつこいほどに扱き、陰嚢を揉むことさえする。

「あ……っは……っ!?」

 それは、突然起こった。

「な……っに……ああっ……あ」

 内側から熱が湧き起こり、ぶわりと視界が揺れる。
 視界ではなく、自分の身体が揺れているのだと遅れて気が付いた。

「素晴らしい。やはり私の目に狂いはなかった。初めてでここまで感じられる方は稀有です。さすがは我が主。極上の身体をしていらっしゃる」
「あう……っあ……いい、から……なんとか、し……てく……っは」

 リチャードは感嘆したように溜息を吐き、オレの膝を開かせる。
 
「慎まやかにしていながら、ひくひくと誘っている。なんと清楚で淫らな身体でしょう。その不均衡なさまが、お美しくていらっしゃる。
「御託は、いい……っ! はや、く……っ」
「もっとゆっくり愉しみたいところですが、ラウルさまのお望みとあらば、致し方ありません」

 リチャードは、オレの尻穴に触れると、少しだけ飛び出ていた器具をずるりと引き抜いた。

「ふあ……っあー!! あっ……は……」

 ビクンビクンと身体が跳ね、今にも達するというところで、リチャードはオレのモノの根元を指できつく締め付ける。

「!? あ……っあ……」
「なりません」
「馬鹿……っなんで……うう……」

 イくのを止められたせいで、行き場のない快感が体内にわだかまる。
 わなわなと唇が震え、喉が干上がった。
 込み上げた射精感は維持されたまま、腰のあたりに熱がこごる。

「も、う……イきた……」
「さあ、ここから受けの本領発揮です。どうぞ、ごゆるりとご堪能あれ」

 リチャードは謳うようにそう言うと、自身の前を寛げて、中からモノを取り出した。大きく張ったカリ、浮き出た血管、何よりその長さと太さにくらりと目眩がした。

「そんなにこれが欲しいのですね」
「そんなもの、入るわけがない!」
「何をおっしゃいます。我が主に不可能などないのです」

 リチャードは薄っすらと笑い、熱い眼差しで俺を見下ろした。

「よせ、やめろ……っ」
「ふふ、逃げても無駄ですよ。あなたは受けなのですから」
「ぐ……は……」

 ベッドヘッドへずり上がろうとする身体を腰骨を掴んで引き止め、膝頭に手を置いた。そして、オレの後ろに自身の亀頭を押し当てる。身体がぶるりと震え、歯の根が合わない。

「挿入いたします」
「うっ……く……は……っ」

 リチャードのモノは、見た目以上に大きく、しかも熱く脈打っている。
 ぞわぞわと足先から何か得体の知れないものが這い上がり、深々と穿たれた途端に身体中を吹き荒れた。

「うあ……あ……っああ! やめ、……もう……いれない、でっくれ」
「ああ、なんと熱い。私のものを飲み込んで、逃がすまいと絡みついてくる。おわかりですか? ほら、このように」
「ひあ……っあ……は……うあ……っんん」

 ずんと奥を突き、ゆるゆると引き抜かれると、指摘通り中がリチャードを食む。
 まるで絡みついて、引き留めているようだ。
 リチャードは、鋭く突き入れ、ゆっくりと抜く動作を繰り返した。

「あ……は……っあ……あ」

 動く度に声が押し出され、オレはリチャードの胸を押し返す。

「いや、だ……それ……っつあ」
「これ、ですか」
「んく……っんん」

 逃げようとしても追い詰められ、リズミカルにモノを握る手を動かし、出し入れを繰り返す。

「りちゃー、ど……は……っん」
「どうしました?」
「く……う……ああ」

 気持ち良くて、もっと続けてほしくなる。
 その奥を押し上げ、擦り立てて、抜き差しして欲しい。
 そんなことを言葉にできるはずもなく、オレはただ名前を呼んだ。

「リチャード、リチャードっ」
「ここ」
「はう……っああ……あ……っ」
「良さそうですね」

 オレは、何度も首を縦に振り、自分の快感を伝える。

「もっと感じてください。中の私を欲して、きゅうきゅうと締め上げ、吞み込んでいただきたい」
「あう……ああ……っあ」

 結合部からぐぷぐぷと音がする。
 淫猥な音は、耳だけではなく頭の中まで侵食する。

「ああ……っイく……もう、う……駄目、だ……っ」
「いいですよ。どうぞいっぱい出してください」

 リチャードはそれまで触っていたオレのモノから手を放し、腰を使って律動を続ける。一定の変わらぬリズムで動いているというのに、身体が悲鳴を上げるほどの快楽に浸る。
 もう、愉悦に堕ちていきそうだ。

 今、求められたら、オレは何も断れない。
 射精するためなら、何でもする。言いなりになる。
 俺は自分に覆い被さって動くリチャードの顔を見ながら、達する瞬間を待った。

「あああ……っは……きもち、いい……っイく、リチャード──っ」
「ふ……っあ」

 オレが叫んだところで、勢いよく白濁が迸った。
 リチャードもオレの中で達し、精液を注ぎ入れてくる。

 オレは激しい呼吸を繰り返しながら、汗に濡れた額を拭い、唇にキスを落とすリチャードを見遣った。

「これで、主も受けの良さがわかりましたね。最高でございましょう?」

 リチャードに問われて、オレは無意識化で頷いていた。
 やがて目の前が暗くなり、俺は夢の中に沈んでいった。



 目を覚ますと、オレは薄暗闇にいた。
 カーテンの隙間から陽が差し込み、聞き慣れた小鳥の鳴き声を耳が拾う。

「帰って来た、のか?」

 もしかしたら、元いた世界に戻れたのかと、オレは期待して窓辺に近付こうとした。
 だが、ほんの数歩進んだところで、首ぐんと後ろに引っ張られて、首元が苦しくなる。
 首元に手をやると、そこには首輪がされていた。

「一体、何……が?」
「目が覚めましたか? 我が主」

 オレの声に、もう一つの声が重なった。
 声の主は、全裸の俺とは違い、いつもの如く隙なくテイルコートを身に着けている。
 その微笑みは満ち足りているように、深く甘い。

「これは、何だ」
「ああ、首輪でございます」
「だから、なぜ首輪で繋ぐんだ」
「もちろん、逃さないためです」

 きっぱりと言い切られて、俺は顔を顰めた。

「どういうつもりか、説明しろっ」

 オレが命じると、リチャードは恭しく胸元に手をやった。

「主さまは、スーパー攻め様から受けになられたのです」
「……だから?」

 恐る恐る尋ねると、リチャードは頬を染めた。

「これからは、我が主にして我が愛玩物として、一生愛でる所存です」
「……はあ!?」

 リチャードはオレの顎先を指で捉え、あらゆる角度から首筋を見てきた。

「急ごしらえの首輪では心許ない。主さまのために職人に最高級の首輪を作らせます」
「要らない!」
「そうおっしゃらずに」

 こうして俺は、元の世界に帰るどころか、リチャードの許しがなければ部屋からも出られなくなった。
 首輪に鎖をつけられて連れて行かれ、リチャード専用の受けとして生きている。
 これが、ルートのENDなら従うしかない。
 ──今は、素直に従ったフリを続ける。

 なぜなら、ひとつだけ抜け道があるからだ。

 オレは、このゲームの中に、このルート以外をセーブしている。
 そこをロードすれば、またスーパー攻め様である時空に戻れるはずだ。

 しかし、今のところその戻り方がわからない。
 リチャードなら知っているだろうが、彼が方法を話すとは思えない。

 だから今は、大人しく受けとして生きている。
 いつか、スーパー攻め様であったセーブポイントに戻る日を夢見ながら、今日もリチャード専用の受けとして抱かれるのであった。

-END-
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