【完結】役立たずな第三王子の僕は、大嫌いな勇者に迫られています…ってどうして?

佑々木(うさぎ)

文字の大きさ
9 / 37
第二章 癒し手

治療とキス

 それから、待つこと5時間。
 冒険者たちは小声でひそひそと話していたが、僕は黙って祈りを捧げていた。
 やがて白々と夜が明けてきて、ミーアが見えなくなった頃、ダンジョンの中から人が出てきた。

 一人では立っていられないのか、肩を借りて歩いて来る者がいる。
 かなりの重症に思えたが、その後に続く者たちははしっかりと自分の足で歩いている。
 着ている服はボロボロになっているが、それほど深手を負ってはいないようだ。
 けれど、レイの姿が見えてきて、その穢れに息を呑んだ。
 一体どれだけの魔物を討伐したのか、一人だけ纏わる穢れが違い、ところどころ肌が引きつっているのが見て取れた。

 ゆったりとした足取りで天幕の中に入ってきて、手渡された水を飲んでいる。
 余程喉が渇いていたのか、1杯目を呷るとすぐにカップを差し出して、もう一杯頼んだ。

 唖然としてその様子を見守っていると、僕の視線に気が付いたようだ。
 僕を目にすると、口端を上げて笑う。
 その際に痛みを感じたのか、片目を眇めた。
 僕は席を立ち、レイの傍へと近付いた。

「魔物の体液を、浴びたのですか?」

 そうでなければ、髪にまで穢れが及ぶとは思えない。

「すごいな。エスティンは、千里眼の持ち主か?」

 千里眼が何かは知らないが、揶揄されている気がした。
 そんな場合かと、暢気なレイが腹立たしい。
 僕は、さっきまで自分が座っていた席を指し示す。

「そちらにお座りください。立ったままでは治療しにくいので」

 治療と言葉にすると、レイは一つ息を吐いた。
 そして、天を振り仰いでから、椅子に腰かける。
 まるで、不本意だとでも言いたげな態度に、僕は憤りを覚えていた。
 不本意なのは、こちらも同じだ。
 せめて、体液を浴びてすぐに浄化してもらえばいいものを。
 何のために魔導士が同行しているのか。
 まさか、魔物の体液が人体にとって毒になるという、基礎的なことさえ誰も知らないというのだろうか。

「酷い顔ですね」

 髪だけではなく、顔もどす黒くなっている。
 僕が指摘すると、喉の奥で低く笑う。

「お前の言葉の方が酷い」

 僕はその言葉には取り合わず、すぐに治療に当たった。

 レイの頬を両手で包み、気脈の切れ目を探す。
 指先で肌を撫で、慎重に穢れの根源を見つける。
 ある一点に触れると、レイの肩が揺れた。
 痛みを感じるのだろう。それもそのはずだ。
 肌の奥深くに穢れの根が見える。
 これでは、指からの魔力では取り除けないだろう。

 僕は指で狙いを定め、右頬にある根源に口付けた。
 じわりと魔力が浸透し、穢れを滅する。
 一度顔を上げて顔全体を眺め、目元にも唇を押し当てる。
 本当は眼球を舐めるのも効果的だが、今はそこまでする必要はなさそうだ。
 顔を離し、元の位置に座り直してから僕は尋ねた。

「お加減は?」

 間近から目を覗き込むと、レイの顔が赤く染まっている。
 穢れを治療すると、稀に気脈を刺激し過ぎて、副反応で熱が上がることがある。
 魔物の穢れで身体機能が落ち、体温が下がることがある。
 そのため、冷え切った身体を温めようという生理現象が起こるのだが、ここまで赤いとなると余程高い熱なのか。

「発熱しているかもしれません。体温を──」

 額に手をやって確かめようとすると、レイは僕の手から逃れるように身を引いた。
 そして、気分を害した時のように、険しい目付きで僕を見る。

「天然か?」

 天然?
 人工的であることの対義語か。
 養殖のほうではないはずだ。
 それとも、守護されて育った僕に対しての何らかの当て擦りなのか。
 意味がわからずに、黒い双眸を見つめ返していると、クスクスと周囲で笑う声がした。

 僕にはわからなくとも、周りは「天然」の意味がわかるらしい。
 何か気恥しい思いをしたが、揶揄される謂われはない。
 無言のままでいると、レイが口を開く。

「逆に聞くが、俺がお前の頬にキスしたらどう思う?」

 どう、とは。
 何を問われているのか真意が見えない。

「何のためにするのですか。勇者様には癒しの力はないでしょう?」

 もし、癒すためだとしたら、どうということもない。
 僕の答えが気に食わないのか、レイは盛大な溜息を吐いた。

「この世界には……親愛の情をキスで示す風習はないのか」

 先程の行為はキスではない。
 そう言いたいところだけれど、レイが聞きたいのは別のことだろう。
 僕は、レイの問いに答えた。

「幼い子供なら、髪にキスすることはありますが」

 大人になったら、そんなことはしない。
 最後に髪にキスをされたのは、5年以上前のことだ。

 すると、レイは僕の方へと身を寄せて、前髪を一房取るとそれに口付ける。
 そして、そのままの姿勢で視線だけ僕に合わせてきた。

「どんな気分だ?」
「どんな、とは」

 子供にするキスを、なぜ僕にしてきたのか。
 そして、何を確認されているのか。
 僕が視線で先を促すと、レイは椅子に座り直す。

「もう、いい。──それより、こっちの頬にもしてくれるか?」

 左頬には穢れの根源はない。
 だが、もしかしたら顔全体に浴びたことで、何か不快な思いをしているのかもしれない。
 僕は仕方なく、もう一度顔を近付け、左の頬にも唇を押し当てた。
 すると、髪を撫でられ、後頭部手を置いて引き寄せられる。
 距離が近付き、何の真似かと距離を取ろうとすると、僕をその瞳に映した。

「エスティン……」

 さらりと前髪を梳かれ、もう一度キスをされる。
 何か落ち着かない心地がして、もうやめてくれと言いそうになったところで、天幕を開ける音が耳に届いた。

「お楽しみのところ悪いが、そろそろ作戦指揮を願えるか?」

 現れたのは、冒険者のハロルドだ。
 途端にレイは小さく舌打ちして椅子から立ち上がった。

「わかった、今行く」

 僕は置いておかれて、結局王都に戻るまでの間、その後はレイと話すことはなかった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ
BL
12/23後日談追加しました。 ================= 高校の養護教諭の世凪は、放課後の見回り中にプールに落ちてしまう。カナヅチの世凪は、そのまま溺れたと思ったが、気づくと全く知らない場所にある小さな池に座り込んでいた。 ここがどこなのか、何がどうなったのか分からない世凪に、「かあさま」と呼んで近づく小さな男の子。彼の怪我の手当てをしたら、世凪は不審者として捕まってしまう。 そんな世凪を助けてくれたのは、「氷の王子」と呼ばれるこの国の第二王子アドウェル。 冷淡で表情も変わらない人だと周りに言われたが、世凪に対するアドウェルは、穏やかで優しくて、理想の王子様でドキドキしてしまう世凪。でも王子は世凪に母親を重ねているようで…… 優しい年下王子様×異世界転移してきた前向き養護教諭の互いを知って認めていくあたたかな恋の話です。

転生先は猫でした。

秋山龍央
BL
吾輩は猫である。 名前はまだないので、かっこよくてキュートで、痺れるような名前を絶賛募集中である。 ……いや、本当になんでこんなことになったんだか! 転生した異世界で猫になった男が、冒険者に拾われて飼い猫になるほのぼのファンタジーコメディ。 人間化あり、主人公攻め。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

白烏は黒狼に名を捧ぐ

うみくも
BL
〝二十歳を終える時までに……〟  そんな風に思って覚悟を決めてきたのに、こんなギリギリになってあなたに出会うなんて―――  しがない庶民のレイ。  何故か、ハウゼン・サルトミラ大公殿下にお買い上げされました…(?)  あまりにも好きを全面に出してくるハウゼンに、レイは戸惑いながらもつい流されてしまう。  でも、互いに共通の秘密を抱えていることを知ってから、その気持ちは急速に一つの形を作り始めて――― 「ハウゼンは、今俺に感じている気持ちを……いつまで変わらずに持っていられるんだろうね…?」  明らかに惹かれているくせに、なかなかその一歩を踏み出せない。  その理由には、ハウゼンが知らない大きな秘密があって……  様々な種族が生きる世界で、たった一人だけと紡がれる愛の物語。  純白か、漆黒か。  種族のしがらみに苦しむレイに、ハウゼンは―――