【完結】役立たずな第三王子の僕は、大嫌いな勇者に迫られています…ってどうして?

佑々木(うさぎ)

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第二章 癒し手

勇者の帰還

 ダンジョンから王都へ戻ると、多くの人に歓迎された。
 どうやら伝令によって、僕たちの帰還の前に今回の功績を知らされていたようだ。

 沿道には人が集まり、遥か遠くに望む王城には旗が掲げられている。たった1回ダンジョンを攻略できただけ、しかも最深部には辿り着けていない。これから、順路を定めて、2度3度と続けなければならないというのに、みんな喜びを露わにしている。
 それだけ、魔物は脅威だということだろう。

「勇者様! ありがとうございます……っ!」
「なんと凛々しいお姿か」

 沿道に並ぶ人々から漏れ聞こえてくる声は、ほとんどが勇者を讃えるものだ。
 レイは、馬上で手を振って、人々の声に応えていた。

 僕が馬に乗れることにあれほど驚いていたくせに、レイ自身も乗れたんじゃないかと僕は意外に思うと同時に苛立ちを覚えた。あれは、僕が馬に乗れることそれ自体に驚いていたというわけだ。あまりにも僕を馬鹿にしている。まるで何もできない人形のような扱いだ。

 僕は馬車の窓から斜め前を行くレイを、つい睨み付けてしまう。
 レイはもちろん僕の視線に気付くことはない。
 手を振って入るものの、笑顔を見せることはなく、反対に疲れた様子もない。
 僕にはあんな色々な表情を見せるのに、むしろ無表情だと言える。

 なぜこんな顔で民衆の前に立つのだろう。
 僕に向ける笑顔の半分でも人々に見せてあげれば、どれほど喜ばれることか。
 そんな世渡りの仕方も知らないようには思えないけれど。
 僕は違和感を覚えながら、レイの横顔を眺めた。

 やがて出発場所の広場が見えてきて、馬や馬車を下りて集まってきた。
 僕も馬車から出て、ハロルドの方を向いて並ぶ冒険者の後ろに立った。
 ハロルドは、伝令の言葉を聞いた後、冒険者たちに向かって声を張り上げる。

「この後、夜6時より我々の帰還を祝って、王が晩餐会を開いてくださるそうだ」

 わっと歓声が上がり、ハロルドは手で彼らを制した。
 すぐに静まり返って、みんなハロルドの声に耳を傾ける。

「晩さん会の場所は、王城の前庭だ。立食パーティーだから平服で構わないということだ。だが、せめて風呂には入ってこい。着替えを済ませ、準備ができたらここに集まってくれ」

 父である王が、晩餐会を開くほどに冒険者を歓迎するとは思ってもみなかった。
 それほどに、魔物に対する民衆の恐怖は強く、この討伐隊の功績は大きいということだ。
 城の外の状況をまったく把握していなかったことを、僕は改めて知った。
 そして、召喚された勇者レイが、こうも歓待される理由を今になって理解する。

 この国に勇者は必要であり、レイにはその期待に応えるだけの力がある。
 たとえ気に食わなくとも、その点は認めざるを得ない。
 僕は、冒険者たちに囲まれているレイを見て、自分の認識を変える時が来たと感じた。
 悔しさは拭えないが、強情を張るべきではない。
 僕はレイから目を逸らし、護衛の前を通って馬車に再度乗り込んだ。

 ハロルドの言う通り、パーティーの前にお風呂に入って、着替えておかなければならない。
 僕は城に戻ると、すぐに湯浴みの準備をさせた。
 汚れた服を脱いで、たっぷりと湯を張った浴槽に入り、冷えた体を温める。
 そして、髪や身体を隈なく洗い、旅の汚れを落とした。
 外の天幕で待機していただけの僕でさえ、これだけ汚れているんだ。ダンジョンに実際に入った者たちは、よっぽどひどい有様だろう。
 特に魔物の体液まで浴びたレイは、なかなか汚れが取れないに違いない。
 さっきはざっと拭いだけだったからか、魔物の匂いが染みついていた。恐らく、一回洗った程度では匂いまでは落ちないはずだ。僕は、何度も髪を洗うレイを想像して、つい笑いを漏らした。

 それにしても、レイは今どこにいるのだろう。
 冒険者たちとは違い、勇者は王城の中に滞在すると思うが。
 ただ僕は、レイの部屋がどこにあるのかは知らない。

 ──「部屋は休めるような場所じゃないんだ」

 僕と共に講義を受けていたあの日。
 部屋で休んだ方がいいと提案した僕に、レイはそう言って帰らなかった。
 まさか、冒険者たちと同じ宿屋にいるわけではないだろう。
 僕は少し考えたが、次いで自分の思考を打ち消した。

 レイのことを気にするなんて、どうかしている。
 彼は勇者だ。僕が気にかけなくても、周りがみんな有難がって大切にしているはずだ。

 僕は、湯浴みを済ませると自室のソファに座り、いない間に溜まっていた書類に目を通した。その後も、パーティーの時間まで過ごした。

 今回は前庭で行われると言っていたが、立食パーティーは大広間で開かれるのが通例だ。
 50人ほどの冒険者を城に入れたくなかったのかと勘繰ってしまう。
 でもきっと、当たらずとも遠からず。否定しきれないのが、城内の者の感覚だ。
 冒険者とは名ばかりで、元はならず者ということも大いにあり得る。討伐隊は城の騎士たちとは違い、身元調査まではしていないだろうから、敵が紛れ込んでいても気付けない。それを考慮しての、前庭での立食パーティーかもしれない。

 それなら、無理に冒険者を招かなければいいと思うけれど。
 僕は椅子から立ち上がり、マントを肩に掛けて身支度を済ませ、階下に降りた。

 前庭にはテーブルが並べられていて、冒険者たちの姿があちらこちらにある。みんな手に酒杯を持ち、談笑している。恐らくは食前酒だろうが、パーティーの開催前にもう飲んでいるのかと僕は呆れた。
 レイは、ハロルドとフィランと共にいて、やはり酒杯を傾けている。

 ここに父王を始めとした王族が来るのかと思うと、僕は少しだけ憂慮した。
 父のことだから、冒険者を謗ることはしないだろうが、良い気持ちはしないはずだ。

 やがて、冒険者たちのざわめきが止まり、一斉に礼をした。
 彼らが頭を下げた向こうには、王を始め、王妃や王太子の姿がある。
 
 僕はこちらに向かってくる一行を、眩しく思って目を細めた。
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