騎士とお嬢様。

奏 -sou-

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第一章

02

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今いるところから陸地まで結構離れてることに気がついたけど、雨が降ってきそうで一言声をかけたいのに、肝心の騎士が見当たらない。

『どこに行ったのかしら…私が見えていないだけで先に上がったのかしら?』

騎士の姿が確認出来ず不安に感じるが、先に上がっている事が考えられて『きっと先に上がってるのね、私も早く上がろ』そう思い潜る為に息を大きく吸い込もうと口を開ける寸前背後から何かしらの気配を感じて、とっさに振り向けば…

私の目の前には肌色が広がり
見慣れた胸板が視界いっぱいに広がっていた。

現状にほんの少しの間、驚きで言葉につまる。


小さく一呼吸してから、
「騎士…もう!びっくりさせないでよ。」

驚いたんだからということを
30cmも差のある騎士の顔を見上げ伝えれば

「ずっといたのに気づかなかったのはサフィだ。」

少しムッとした声だが表情は無表情のまま目が合う

騎士は幼い頃から私の剣の師範もしてくれて、私にとって実の兄のようであり、剣術の師匠である。

ずっと騎士の表情を見てきたからこそ仮面のように変わらない表情には慣れっ子だが、コミュニケーションを取る上では意思疎通が出来ているのか不安なことが多々ある。長い年月騎士と一緒にいて1番良い方法は、”声を頼りに判断をする。”ことだと学んだ。


彼の声音から、『今は謝っておくことがこの場を納めることね』と判断をした私は

「ごめんなさい。…後ろにいたなんて分からなくて、探してしまったわ。」

吸い込まれそうな程に綺麗な澄んだブルーの瞳を見つめながら、そっと胸板に手を置き謝ると逞しい腕でギュッと抱きしめられた。

『今は服を着てないから抱きしめないで欲しいのに、なんて言えばいいの?』なんて考えていれば

「俺も悪かった、気にするな。」

先程の不機嫌な声が私の幻聴だったかのような、疑いたくなる程に何倍も柔らかくなった声で抱きしめたまま謝りの言葉を囁かれる。

軽く体を離したかと思えば、顎を持ちそのままクイッと上にゆっくり優しく上げられてそのまま私の額にチュっと軽くキスを表情は変わらないまま落とされた。

いつものことだと、
ここで過激な反応や恥じらってはいけない。

騎士にとっては挨拶や気持ちを伝える1つの手段だと理解している。

小さい頃から、彼より受けてきたスキンシップの激しさに慣れてしまってるから何ともないけれど『まさか、女性禁断症状でも出てきてるのかしら?』という嫌な思考も頭をよぎる。

『…まさかね?』


「…曇ってきているな、上がるぞ」

そう言い腰に回っていた手が水中の中で身体が浮かぶ力を利用して、横抱きにされて自分の首に手を回すようにまで言われる。

これも昔から何かしらあれば直ぐに、抱っこから始まりお姫様抱っこと言われる横抱きやおんぶをしたがり、必ず実行に移してくる。

そんな行動に最初は幼いながらも家族ですらそんな行動を取らないし、わがままでもそんなことは言わない私は戸惑いを隠せなかったけど、今やこの歳でも昔よりは頻度は少なくなったもののよくされるので慣れてしまい服を着ていれば、何も思いはしない。


だけど流石に今は、
お互い裸な上に透き通る水の中である。


なにより肌が水に、触れているか触れていないかだけの差というところも引っ掛かりを覚える。
年頃になったこともあり現状が気にならないかと言えば気になる。

『あぁ、もう!素っ裸だというのに騎士ったら…私、泳げるから下ろして欲しいのに、どう言えばいいのかしら?』

断りを入れようと騎士の顔を見れば、陸地に目を向けて前身をし気になどひとつもしていないようだ。

『…騎士は気にしてないの?なんだ、騎士にとって手のかかる妹同然だものね。そうよ、もうすぐで故郷へ帰れるし、後少し騎士が我慢すれば選り取りみどりで女性たちと戯れることができるものね。…考え過ぎだったようね。』

ホッと一息ついてどんより空を見上げる。

初めは少し恥ずかしく感じたけど騎士の一歩が大きくて、普通に歩いているだけでも速く感じるぐらいなのにその速さで水の抵抗に逆らって歩けば、小さくとも波を打ち出しバシャバシャと音を立てて水が体に当たる。


何だかそれが楽しくて、陸地に着く手前まで波に乗って足を軽くバタバタさせて幼い日に戻ったかのような気持ちで遊んでみた。


「サフィ、着いた」

その言葉に満面の笑みで
「騎士、ありがとう!」とお礼を伝える。

『中々楽しかったわね』とルンルン気分で騎士の腕の中から降りて、脱ぎ散らかした自分の服と装備品を探す。

そんな、私の姿を見て服を探してる事を察したのか

「サフィ、木の根元に置いてる」

『なんて気が聞くのかしら、流石ね』と、裸のままの時間が少しでも縮まるよう足早に、木の根の方向に向かう。

「まとめて置いてくれてたのね!騎士、ありがとう」

騎士の方を軽く向いてお礼を伝える

また歩き出し木の根元まで近寄れば、綺麗に折り畳められた服とその横に装備品が見えて、その隣に騎士の服と装備品が私のと同様に綺麗に折り畳められて置いてあった。

『流石騎士ナイトと言うより、執事の様な事をしてきただけあるわ。…護衛の為に共に居たと言うより、私の身の回りの世話をしてくれるメイドであるサランを押し退けてまでも、私の身の回りのことを従った騎士は、覚えなくてもいい執事の様なスキルを持っていたりするのよね。』一人感心をする。


『同じ所で着替えないわよね?なら、先に渡せばいいかしら。』と、騎士の服を手に持ちながら声をかける。

「騎士、渡しましょうか?」
「いや、いい。」
 
そう言って、ヌードモデル出来るんじゃないかと思えるような肉体美を晒したまま、体の水気をはらえてるのか分からないが手を使い撫でるように上から下へと水気を落としながら、こちらへ歩み寄ってくる。

『もう少し考えてから断ってくれたっていいじゃない、この手の行き場所!…まぁいいわ、それよりそんな感じで水はらえてるのかしら?』

不思議に思いつつも、騎士の服を取るのをやめて自分の服に目をやる。

水面から上がった直後はよかったけど、時間が経つにつれて少しばかり寒さを覚えて『早く着なきゃ、風邪を引いてしまいそうだわ』と肩まである赤色に染った地毛の水分をある程度絞る。

その上で、日頃腰に巻いている布を綺麗に畳まれていた服の山から手に取り身体を拭く。

そんな様子を、服を着ることもせずにじっと見てくる騎士に『服を取るのに私が邪魔だったかしら?』とずれれば視線も一緒に私の方にずれる。

「…騎士?」
「髪の毛拭いてやるからそれを貸せ。」

その言葉に、また幼き日を思い出す。

『そう言えば一緒に昔はお風呂に入ったわよね、…お風呂ではないけど、こうやって一緒に入るの数年ぶりなのよね、懐かしいわ。ふふ、きっとお兄ちゃんぶりたいのね。』と身体を拭いていた布を騎士に渡した。
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