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2人目の庶民脳
しおりを挟む「そこのソファ、座って良いよ」
「……そこ?」
青葉くんの家は、高かった。
ええ、値段も相当だろうけど、階層というの? 外からの眺めがすごい。
ガラス張りの窓、その奥に広がるベランダに、街並み。
いえ、それよりも何これ!
開放的なキッチン、リビング、そして、窓側に置かれたシャンプー台やマッサージ台、ネイル台や女優ミラーまであるわ。
ここは、サロンなの?
青葉くんの住んでる所じゃないの!?
生活臭が全くないんだけど!?!?
え、今までこんな所に住んでる人を家に上げてたの!?
恥ずかしすぎるんですけど……。
「ここね。飲み物持ってくるから、くつろいでて」
「わ、わかった」
無理だ。くつろげない。
私って、結構庶民脳なのかも。ものすごくソワソワする。とりあえず、カバンを置いてから座って……。
「わ!?」
「どうしたの!?」
「あ、だ、大丈夫デス」
「……? もうちょっとだけ待っててね」
キッチンに向かう青葉くんの背中を見つつソファに座ると、予想以上にお尻が沈んでびっくりしちゃった。なんて、言えないよね。言えないよ……。
でも、座り心地はすごく良い。双子が来たら、絶対この上でジャンプするわ。
「お待たせ」
「メロンソーダだ!」
「うん。バニラアイス要る?」
「良いの?」
「今日暑かったから、一緒に食べよ。浮かべる?」
「浮かべる!」
戻ってきた青葉くんは、お盆の上にメロンソーダの入ったグラスを2つ運んできた。そこに、バニラアイスを浮かべるんだって。楽しみだな。
ストローも可愛い。ハートとお星さまの模様が書かれてる。こういうのって、どこで売ってるんだろう。
「今度は、双子と来てね。前に言ってそのままだったし」
「うん! 瑞季たち、はしゃぐだろうな」
「瑞季ちゃんにはネイルやろうか。学校にも付けていける感じの。要くんは、ヘアマッサージかな?」
「絶対喜ぶ! 最近、要ったら好きな子ができたのか髪の毛気にしてるから」
「そうなんだ。じゃあ、簡単なヘアアレンジ教えるよ」
「え。青葉くんって、メイクだけじゃないの?」
「違うよ、トータルビューティ目指してる。全身触れられるように勉強中なんだ」
「すごい! あ、いただきます」
だから、こんな機材がたくさんあるのね。
女優ミラーの近くには、メイク道具が入ってる大きなバッグが置かれている。本格的すぎて、「中身見たい!」なんて言えない。
私は、青葉くんが持ってきてくれたバニラアイスを飲み物の上に浮かべて口をつけた。……うん、バニラビーンズ入り。青葉くん、わかってる!
「鈴木さんは、本当に甘いものが好きなんだね」
「へ!?」
「飲んでから、ずっとニコニコしてる」
「……」
「隠さないでよ。見ていたい」
そう言いながら、青葉くんが隣に座ってきた。ずっとこっち見てるから、すごく飲みにくいわ。でも、美味しいから仕方ない。
「あ、青葉くんも飲む?」
「良いの? ちょうだい」
「はい」
美味しいのって、半分こしたくなるよね。
そう思って、私は自分の飲んでいたメロンソーダのストロー口を青葉くんの方へと向ける。すると、青葉くんが私の方にきて一口飲んだ。
男の人の喉仏って、見てるとドキッとする。私にはないからかな。
今、動いたから飲み物が通過したってことだよね。ああ、ダメ。顔が熱くなってきた。
……って、待って私!
青葉くんも同じ飲み物飲んでるじゃないの!? なんであげたの!?
「……ごめん。青葉くんも同じの飲んでるよね」
「鈴木さんからもらったほうが、美味しいよ」
「……同じ味だもん」
「美味しいよ」
どこに焦点を持っていけば良いのかわかっていない私は、ひたすら目の前に置かれたガラス張りのテーブルの端と端を交互に見ていた。そんな私でも、可愛いんだって。青葉くんって、よくわからないな。
それに、こんな広い場所にすぐ慣れそうにない。青葉くん、ここに1人で暮らしてるってすごいな。
「……鈴木さん、さっきの話の続きしても良い?」
「ひょわ!?」
下を向いてメロンソーダの泡が下から上に移動していく様子を見ていると、青葉くんがこっちを見て真剣な声で話しかけてくる。
泡ってバニラアイスは突き抜けないのかな、どこに消えてるんだろうな、なんて考えていたから頭の切り替えがすぐにできなかった。
変な声を出すと、ケタケタと笑っている声が聞こえてくる。……隣を見れない。
「ごめんごめん。初めて来る家って緊張するよね」
「青葉くんもそうだったの?」
「緊張したよ。今でも緊張する」
「わかんなかった。いつも澄ましてるから」
「俺は、女優の息子だから」
「ふふ。私にも少し分けて欲しい。……続き、しよ」
「うん」
グラスを置いた私は、青葉くんの顔を見上げる。すると、いつもの優しい顔が出迎えてくれたわ。
この表情なら、安心して話を聞ける。だって、私の好きないつもの青葉くんだもの。
私は、彼の口から出る言葉を待つ。
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