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02:素敵な恋人

久しぶりのドレス

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「……あの、あまり所持金がないのですが」
「お気になさらず。私からのプレゼントだと思って」
「ん、ん……。でも」
「好きなデザインではなかったなら、別のものにしますか」
「い、いえ! そんなことはありません!! ただ……」
「ただ?」
「あ、あまり見ないでいただけると……」
「なぜです?」

 あれよこれよとしているうちに、私はなぜか高級ドレスの専門店で試着をしていた。
 おかしいわ、さっきまで病院に居たのに。

 フッティングルームには、服を着せてくれる人……なんて言うのかしら? 名前がわからないけど……が、2名居る。
 今ちょうど着終わったところでね。レオンハルト様が入って来られたの。
 こういうドレス、久しぶりに着たわ。

「……私、あまりこういうの似合わないというか、なんというか。と、とにかく、ドレスももっとお似合いの方に着てもらった方が喜ぶかと」
「ふふ、ステラ嬢以上に似合う人が居ないと思うほど似合ってますよ」
「ええ、本当に! ちょっと細いけど、とても魅力的な身体をしていらっしゃるのでドレスが映えます。本当は、胸元の開いたものが良いと思うのですが、ステラ様が拒否なされて」
「そこは、彼女の意志を尊重してください。続けて、ヘアメイクもお願いしても?」
「はい、喜んで!」
「こんな素晴らしいものをお持ちのご令嬢、久しぶりすぎて腕がなりますわっ! 私がメイクしても?」
「いいえ、私が!」
「では、ジャンケンで決めましょう!」
「勝った方がメイクで!」

 フッティングルームでお世話をしてくださる女性2人は、私の目から見てもノリノリなの。うちに来ていたドレス専門の方は、とても静かだったのは記憶してる。
 それに、ジャンケンって……。面白いわ、笑ってしまいそう。

 隣をチラッと見ると、レオンハルト様も笑って……いえ、私を見てたわ。目が合ってしまったから、思わず避けてしまったけど……もう一度視線を戻すと、ニコニコとした彼が私を見てる。
 心臓が出てきそう。これは、何?

「では、このままメイクしちゃいましょう♪」
「さあさあ、こちらへ」
「よろしくお願いします」
「はあい。オルフェーブル様は、あちらでお待ちになってくださいな」

 ジャンケンが終わったらしい2人は、ボーッとしていた私を引っ張って端っこにあった化粧台へと追いやってきた。
 レオンハルト様は……お部屋を出て行ってしまったわ。それがなぜか、少しだけ寂しい。

「あら、悲しげな顔も可愛い。オルフェーブル様ったら、女性に興味ないと思っていたのにこんな可愛らしい子を連れてくるなんて」
「あの方、週に数十件告白されるくらいとても人気なのよ。絶対に離しちゃダメだからね」
「う、え……?」
「ふふ、初々しさが良いわねえ。これから、オルフェーブル様色に染まると思うと楽しみだわ」
「本当! 今までアピールしてきた女性からやっかみを受けないと良いけど……」
「その辺は、彼が上手くやるわ。それより、お付き合いしてどのくらい経つの? そっちのが気になるわ」

 2人の女性は、今にでもオペラを歌い出すんじゃ? と思うほど高らかに声を上げながら私の髪と顔をいじっている。こんな風にされるのって、私の14歳の誕生日以来だな。
 なんだかんだ言って、まだメイクされる時の動作は身体が覚えている。アイラインを引く時は上を向いて、マスカラをする時は目を閉じないとか。

 いえ、それよりも彼女たちは大きな間違いをしてるわ。
 これは正さないと。

「いえ、お付き合いしていません」
「え」
「え? またまたあ、そんなこと言って! 彼があんなデレて笑顔振り撒くなんて、恋人じゃなければありえないわ。貴女、普段の彼を知ってる?」
「い、いえ……。本当に付き合ってないので」
「嘘でしょ……」
「片想いってこと?」
「不憫だわ……」

 私が話すと、今までの爆上げテンションがサーッと消えていった。それでも手を動かしているあたり、彼女たちはプロね。こういう人になりたいな。

 でも、ポンポンとチークブラシを肌上に感じつつ、なんだか申し訳ない気持ちになってきたわ。
 恋人だと思われてたってこと? 不釣り合いすぎるし、レオンハルト様に失礼よ。

「はい、メイク終わり」
「ヘアセットも完璧。我ながら惚れ惚れするわ」
「あとは仕上げに……」

 それから5分無言が続いたと思ったら、今度は首元に冷たい何かが掛けられる。
 びっくりして鏡を見ると、青いドレスの色に合った真っ白なネックレスが存在を主張していた。

 久しぶりのネックレスは、見るだけで心が躍る。ちょうど、今日のお昼に付けたいなあって思ってたところだったし。

「可愛い!」
「これね、オルフェーブル様が貴女に選んだのですって」
「彼、センスあるわね。ピッタリだわ!」
「……レオンハルト様が?」
「あらあらあらあ? 脈なしじゃなさそうね」
「お顔が真っ赤ですよ~?」
「え……?」

 これを、レオンハルト様が? 私に?
 そういえば、広場で初めてお会いした時に何か渡そうとしてくれていた気がする。まさか、これ?

 ここまでされると、勘違いしそう。
 期待しちゃダメなのに。期待したって、裏切られるだけなのに。
 なのに、心臓の音は彼を意識してしまっている。
 どうして、ここまで私に構うのかな。わからないや。

「じゃあ、彼のところに行ってらっしゃい」
「あっちのお部屋に居るから」
「ありがとうございます……」
「ほら、前向いて! せっかく可愛く仕上がったんだから、鏡をちゃんと見て!」
「……え? これが私?」

 さっきはネックレスしか見てなかったけど、改めて鏡を見直すと見知った、でも知らない人が写っていた。ポカーンとした顔して、こちらを見ている。
 私が眉を顰めれば眉を顰めるし、頬を膨らませばこれまた同じく膨らませてくる。ってことは、私よね?

「ほら、立ち上がって! 見せてきなさい」
「予想するわ。オルフェーブル様は、顔を真っ赤にして黙るに1万賭ける!」
「あ、ズルい! 私は、顔を真っ赤にして黙るけど、途中で赤くなってることに気づいて顔を隠すに1万!」
「それなら私は、顔を真っ赤にして黙るけど、途中で赤くなってることに気づいて顔を隠しながらも、貴女に「素敵です」と言葉を言うに1万!」
「じゃあ、私は……」
「……」

 ん、んん……。これ、いつまで続くのかしら?

 私ならそうね……。「想像していたのと違いました。残念です」かな。
 本当、ソフィーの方が可愛いし着飾る価値あると思うのに。彼は物好きだわ。


 
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