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08:彼女を愛する理由
葛藤の渦に巻き込まれて
しおりを挟むドーンと地響きが鳴った。
別に、上級異術を使わなくてもあの小屋は簡単に木っ端微塵になったと思う。でも、それでは俺の気が済まなかったんだ。内部にある怒りに反応するように、それはよく燃え上がっている。
そのまま、本邸についても良いと思った。敷地内全てが炎に包まれれば良いと。
まるで生きているような炎は、俺のそんな感情に答えるよう燃え盛る。
「レーヴェ、止めろ」
「なぜ?」
「異術で無許可に人を殺したら、犯罪だからだよ」
「ステラ嬢をここまで追い詰めた奴らは、そもそも人じゃない」
「それを決めるのは、法律だ。お前じゃない」
「だとしても! ……だとしても、こんな」
「あの小屋が消えれば良いだろう。このままだと、本邸にも乗り移る」
「……」
「レオンハルト、団長命令だ。消せ」
その様子を見ていると、後ろからラファエルの声が聞こえてきた。なぜか、俺に向かって叱咤するように声を張り上げてくる。
意味がわからない。本邸に炎が乗り移ろうが、死ぬのは彼女をここまで追い詰めた奴らだ。なにも問題はないだろう。
むしろ、全員消えれば彼女を傷つける奴は消える。
それが、悪いことなのか? こんな痩せた彼女を見ても、そう思うのか?
俺は、ステラ嬢を抱き上げている腕に力を入れて、反論をした。
「お前は、彼女を発見した時の惨状を知らないからそんなことが言えるんだ!」
「……レーヴェ」
「なぜ、ゴミ置き場に彼女がいたんだ? 昨日今日の話じゃないだろ、こんなお痩せになって! 寒いのに暖も取れず、怪我で立てずに仕事だけを押し付けられ……人間じゃない! ここの奴らは、全員……人間じゃないだろ!!」
放った言葉に、ルワールは視線をそらした。奴は、中を覗いたから意味がわかっているのだろう。険しい表情をしながらも、俺の言葉を否定せずにそこに立っている。
ラファエルも、俺の腕の中に居るステラ嬢の様子が見えたのだろう。なにも言葉を発しなくなってしまった。
全身が、炎に包まれたかのように熱い。今までこんな感情を持ったことがない俺にとって、どうしたら良いのか全くわからないんだ。怒りをおさめようとすると、あの小屋の中の光景が浮かび上がる。
彼女をあんな酷い目に合わせた奴らを、同じ目に合わせたい。彼女の分まで、きっちり……きっちり。
しかし、俺は自分のことで精一杯になってしまっていた。それに、ラファエルの次の言葉で気づく。
「……気持ちは良くわかる。けど、彼女が起きた時、家族全員がお前の手によって殺されたことを聞いたらどう思う? この子の性格を知ってるお前なら、想像できるだろ」
ゆっくりこちらに近づいてきたラファエルは、そう言いながらまっすぐ俺の目を見てきた。
そして、着ていた団服の上着を脱ぎ、ステラ嬢にゆっくりとかけてくる。その行動により、冷静に考える余裕ができた気がした。
「……悪い」
「いいよ。僕だって、はらわた煮えくりかえってる」
ラファエルは、いつだって正しい。
だからこそ、現役騎士団の中で最高の少将の階級を持ち、上の階級に居る相談役と意見を交わせる。王族だから、なんて下の階級の団員に絶対言わせない判断力は、いつ見ても眩しい。
体内の怒りが収まってくると、目の前で盛っていた炎も威力が徐々に減少していく。
そうだよな。周りから見ればどんなに酷い人間だろうと、彼女にとっては家族なんだ。その絆を、俺が断ち切ってはいけないよな。ステラ嬢の性格なら絶対に悲しむし、自身を責めるだろう。「うまくできなかった私が悪い」と。それに加担してはダメだ。
「表と裏門は、騎士団で固めてあるから。家族間での虐待に関しての取り締まりはできないけど、爵位継続案件を家族にやらせていたのを問題にして伯爵だけは捕まえないと」
「……ありがとう」
「どいたまー」
ラファエルは、軽い口調で言うとそのまま、表へと向かっていく。それにルワールも続き……。
俺は、ある程度焼けた小屋に手を翳し、炎を体内に戻した。
いつもなら相当苦しいのに、やはり今日はおかしいな。苦しいどころか、清々しい。……ステラ嬢は、何者なのだろうな。
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