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10:覚醒

終わりはあっけなく

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 ルワール様と会話をしている時のこと。
 つまり、なんの覚悟もせずに、ただただおしゃべりを楽しんでいた時のこと。

「ルワール、ちょっと仕事の書類を持って来て良い……か」
「!?」

 突然、カーテンの向こうからレオンハルト様が現れた。しかも、ばっちり目が合ってしまったわ。
 私は、急いで瞼をキュッと閉じる。息を潜めて、寝たふりを……絶対不自然! どうしましょう、どうしましょう……。

 別に、避けたいわけじゃない。
 そうじゃなくて、どんな顔して会えば良いか分からないだけ。今ので、レオンハルト様の気を悪くしてしまっていたらどうしましょう。
 貴方が悪いわけじゃないの。私が悪いの。……ああ、無理だわ。この沈黙!

「……オ、オハヨ、ゴザイマス」
「はい、おはようございます。ステラ嬢」
「……」
「……」
「……」
「……え、何この沈黙。レーヴェ、ちゃんと会話しなさい」

 沈黙に耐えられなくなって目を開けた私は、そのままの勢いで挨拶をしてみた。かなりの勇気を出して行動したのに、待ち受けていたのはまたもや沈黙……。どうすれば良かったの? 誰か、教えて!

 気を利かせてくださったルワール様が声をかけるも、レオンハルト様は動かない。私の方を見ながら悲しげな表情で固まっていらっしゃる。かくいう私もガッチガチに身体が固まってしまい、本当は起きないといけないのだろうけど横になったまま。両手は、しっかりと毛布を握りしめている。
 レオンハルト様は、どうしてそんな悲しそうな顔をしているの?

「……話すから、ルワールはあっちのソファに居てくれないか?」
「あまり精神負荷をかけないてあげて。約束できるなら移動するよ」
「約束する」
「はいはい」
「え、あ……」

 呼び止める暇はなかった。気づいたら、ルワール様がカーテンの奥へと姿を消していく。置いていかないで! と叫びそうになったけど、そもそもこれもネガティブ発言かなって思ってとどまった。だって、薬草茶は嫌。でも、この状況も嫌! 私、結構わがままなのかも。

 とりあえず起きましょう。いつまでも横になっているのは、失礼だと思うし。
 私は、重くなった身体へ鞭を打つように上半身を起こそうと腕に力を入れた。すると、

「失礼します」
「わっ!?」
「触れられるのが嫌でしたら、そうおっしゃってください」
「……あ、い、いえ。ありがとうございます、温かいです」
「良かった」

 と言って、レオンハルト様が背中を支えて起こしてくださった。
 着ているネグリジェの布地が薄いためか、言葉通りとてもよく体温を感じる。気恥ずかしくなって毛布を手繰り寄せると同時に、彼が「失礼します」と言って毛布を抜き取り私の身体にグルッと1周するようにかけてくださった。こっちの方が安心するかも。

 私の身体って醜いでしょう? サラシもないし、あまり見せられたものじゃない。だから、こうやって身体が隠れるととても安心するの。……これもネガティブ発言になるのかな。口に出してないから、薬草茶は飲まないわ。

「今まで、すみませんでした」
「……」

 かけてくださった毛布の中で身体をモソモソと動かしポジション取りをしていると、突然レオンハルト様が頭を下げて謝罪の言葉を口にしてきた。今の今まで下を向いていた私は、その言葉に顔をあげる。

 そこには、今にでも泣き出しそうな表情のレオンハルト様が居た。
 直感的にわかったわ。私は、これから彼に別れを告げられるのね。彼は律儀だから、ちゃんとそう言うのは口にしてくださるもの。
 だったら、ちゃんと聞かないとね。

 ちゃんと聞いて、「楽しい時間をありがとうございました」って言わないと。


 
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