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11:煮え切らない私

神官様のフリーダムさ

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「……?」

 目が覚めた。
 でも、おかしいわ。目を開けたはずなのに、真っ暗なんだもの。それに、身体が重くて動けない。

 ここはどこ?
 早くお仕事をしないと、次のお仕事が運ばれてきてしまうじゃないの。まさか、電球が切れてしまったとか? 嫌だ、買いに行かないと!

「お目覚めかな」
「!?」
「ああ、警戒しなくて良い。私は、この国で神官を勤める者。君の敵じゃない」
「……ァェ」
「状況が分からないと思うから、先に説明しようか。今君は、宮殿の客間にあるベッドの上に居る。3日眠っていたらしい。近くには、第二王子と第三王子、それに騎士団の副団長がいらっしゃるよ。状況は理解できたかな」
「ぅ……」
「うんうん、できてるみたいだね。ああ、暗いのは目隠ししてるからだよ。怖がらなくて良い」

 起きあがろうとしたところ、頭の上からとても穏やかな声が聞こえてきた。
 神官と名乗った彼は、私に向かってゆっくりとしたテンポで話しかけてくる。返事をしたいのに、声が出ないわ。出そうとすると、喉が裂けるように痛む。
 とりあえず、ここがベルナールのお屋敷じゃないことはわかったけど……。3日も寝てたって、嘘でしょ……。

 それに、目隠しって? どうして?
 確か、レオンハルト様に今までの非礼を詫びて、なぜか最後に抱きしめていただいて……。その時、身体が光出したのよね。それは覚えてるわ。
 でも、それ以降のことがさっぱり思い出せない。

「喉が痛むのは、叫び過ぎだから徐々に良くなるさ。ここには、優秀な医者と癒しの異術者が揃ってるからね」
「……ぁ」
「副団長さん、彼女が呼んでるから抱いてあげなさい」
「はい」
「!?」

 そんなこと言ってないですけど!?

 とりあえず、ここがあの時土下座をしたベッドの上だと理解した。
 きっと、喉が痛むほど暴れたのね。それも理解した。目隠しは……まあ、必要だったと理解しましょう。

 でも、急に迫ってきた体温の意味が分からない!
 起こされた身体を硬直させつつも、レオンハルト様の力強すぎる抱擁に身を任せていると、「ほほほ、若いのう」と神官様の笑い声が聞こえてくる。……嬉しいけど、本当に言ってないですって。嬉しいけど。

「ステラ嬢、少しの間目隠しを外さないでください。異術特有の光によって瞳孔が開いているようで、休ませないといけないそうです」
「ぅぁ……あ」
「嫌でしたら、別の者に変わりますので」
「ぅー……」
「お嬢さんは、副団長さんが良いと言っていますぞ」
「ぅっ!?」
「レーヴェ、嬉しそう」
「ラファエル、うるせえ」

 にしても、神官様恥ずかしいからやめてちょうだい!
 抗議の意を唱えるため頬を膨らませてみたけど、効果はない。なぜか「その表情可愛いですね」とレオンハルト様に褒められるだけに終わった。……なんで?

 とりあえず、あの痛みが去ったから気持ちも落ち着いたみたい。
 気持ちが沈まないし、もちろん胸の痛みもない。身体は相変わらず重いけど、そこまで問題じゃないし。
 心に余裕ができてきたからか、第三王子とレオンハルト様の掛け合いに笑ってしまったわ。

「神官様。ステラ嬢を早く休ませたいので、彼女に説明を」
「おっと、すまん。若い人を見てると、恋の応援をしたくなってのう。……ステラ・ベルナールと言ったかな。どうやら君は、生まれつき異力を宿していた隠れ異術者だったらしい」
「……え?」
「前例がないから詳しくはわからんが、今まで詰まりによって放出できなかった異力がなにかの弾みで爆発してしまったんじゃな。それが、数日前の暴走になった」
「……え? わ、わ?」

 いえ、笑ってるどころじゃなかった。
 神官様は、先ほどと同じ口調のまま、私に向かってこれまたゆっくりと言葉を紡いでくる。聞き間違いなんて、ありえない。

 私が異術者? しかも、生まれつき?
 そんなわけない。異術者は、何かしら特徴が出るもの。それがなかった私には、関係のない話のはず。
 ……神官様が嘘をついてるとしか思えない。

「嘘じゃないぞい。君の異術は、今まで確認されてきていないものでな。2つある」
「ふ……!?」
「ひとつが、他者の異術強化。君が近くにいることで、周囲の異術者の持つ能力が上昇するやつな。どの程度上昇するのか、そのタイミングなんかは神殿で調べないことにはわからん。でもって、ふたつめが他者の上位異術の犠牲緩和……といえば良いかな。こちらは、未知過ぎる故私が語れることはない。とにかく、国が動く種類の異術と言っておこう」
「……?」

 ……やっぱり、神官様の嘘だわ。

 異術は、異術者1人で完結するものって本に書いてあったもの。
 レオンハルト様の持つ攻撃系、身を守る防御系、第二王子の持つ透視などの特殊系……。ソフィーはどれなのかな。聞いたことないからわからないけど、この3つの中のどれかなのは確実ね。

 なのに、私はどれにも当てはまらないってことでしょう? そもそも、それって異術なの?
 色々質問したいのに、声が出ないし、「さて、私は帰ろう」とか言ってるし! 神官様って、自由過ぎない!?

 結局、神官様は「副団長さん、ステラ・ベルナールを離すんでないぞ」とか意味のわからないことを言って本当に帰っちゃった。
 自由を通り越して、もう唯我独尊状態ね……。


 
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