【完結】ある日突然透明人間になった伯爵令嬢は、国一番のイケメン騎士に溺愛される

11:煮え切らない私

バスタイム

　レオンハルト様から告白らしき言葉をいただいて早1週間。
　私はいまだに、宮殿で暮らしていた。もちろん、返事はしてない。

　そうそう。先日やっと目隠しが取れて歩けるようになったの。すぐ、国王様と王妃様に遅ればせながらご挨拶もすませたわ。いつも遠巻きに見ていたけど、とてもお優しい方たちだった。
　しかも、聞いて！　王妃様のお顔が、やっぱり第二王子と同じだったの！　美しさは遺伝するのね……。

「あらやだ、櫛を入れたら艶々じゃないの！」
「見てよ、このおっぱい！　やっぱり、若いわ。ハリが違う！」
「ちょっと、静かにしなさい。……ごめんなさいね。お湯加減どうでしょうか？」
「は、はひ……」

　そして、今日は念願の身体を洗う日なの。
　やっとルワール様からお湯につかっても良いって許可をいただいてね。今までは、傷口とか体力の関係でNGが出ていてあれだったの。なんでも、脅威のスピードで体調が回復しているみたい。
　でも、あの日から異術は発動していない。やっぱり、私が異術持ちだったなんて嘘だったのよ。神官様も、間違うのね。

　にしても、どうしてこんなみんなテンションが高いの！？
　1人で入れるって言ったのに、なぜか3人ものメイドさんたちが私の身体のお手入れをしてくれている。恥ずかしいのだけど……。
　こういう時のマナーは、もちろん知らない。あんなに楽しみだった時間が、ただただ緊張するだけのものに変わってしまっている。私は、バスタブの中でメイドさんたちにされるがままの状態になっていた。くすぐったいけど、そんなこと言える雰囲気じゃない。

「ゆっくりおやすみできるように、ラベンダーの香油を垂らしてあります。お好きでない場合、他のものに変えますのでおっしゃってくださいね」
「ありがとうございます、とても良い香りです。……ラベンダーって、ゆっくり休めるんですか？」
「そうですよ。安眠効果が期待できます。お部屋にも置きましょうか？」
「……あの、私じゃなくてレオンハルト様に差し上げたいのですが、どちらで購入できますか」
「オルフェーブル副団長様に？」
「は、はい。お仕事が忙しいようで……。私のところにも来てくださってお疲れだと思ったので、その」
「あらあら、素敵ですわっ！」
「大佐は幸せですわね！」

　ラベンダーの香りって、なんというか嗅いでいると落ち着くのよね。
　レオンハルト様は、私が気絶して3日眠れなかったって言っていたし、今もお仕事が忙しいようで休んで欲しいし。……そのくらいなら、しても良いよね？

　私は、湯の中で肩をマッサージされながらメイドさんに質問をした。すると、思ってもいなかった盛り上がりを見せてくる。なんというか、「きゃー」をお淑やかにしたような、そんな……。

「それでしたら、乾燥したラベンダーを持っていますので、この後お部屋に戻ったらポプリを作りましょうか」
「ポプリ……？」
「はい、香り袋のことです。持ち歩きできますし、袋に装飾をしても良いですし」
「それでしたら、裁縫道具をお借りしてもよろしいでしょうか」
「ええ、もちろん！　お持ちします。多めに作っておいて良かったわ！」
「では、私は布地を」
「私は、糸を」

　メイドさんたちは、そのまま「どんな布地が良い？」とか「貴女の瞳が黄色だから、黄色の糸は欠かせないわね」とか物凄い勢いでバーッとしゃべられた。一瞬聞き逃しそうになったけど、ちょっと待って！？

　私は、髪を髪を梳かしてくださっていることを忘れてグルッと振り向く。

「え、瞳が黄色？」
「ええ、とても美しいお色ですわ。以前は翡翠色でしたが、それって異術ですか？」
「え？　……え？」

　記憶している限り、自身の瞳は翡翠色だったはず。16年も生きてきたんだもの、いくら鈍臭い私だって瞳の色くらい覚えてるわ。
　そういえば、起きてから一度も鏡を見ていない気がする。いつから変化していたの？　これって、大丈夫なの……？

　何もかもわからないまま、私はバスタイムを終えてしまった。
　ホコホコして心地良いのに、それどころじゃなくなったわ……。