性別で子を判断するのはやめませんか?

細木あすか(休止中)

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穏やかな日々に吹く隙間風

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 沐浴から戻ってきたシャルロッテは、身体が温かいからかゆりかごに置かれてもすやすやと眠っている。
 その隣に椅子を持ってきた私は、座りながらゆりかごを揺らす。それだけで、胸がいっぱいになるの。これが、幸せというものなのね。

 ヴァレリー様と一緒に過ごした時間が最上級の幸せだと感じていたのに、あの日々がちっぽけに感じるほど心が満たされている。私は、寂しかったのかしら? 自分のことなのに、過去の自分が良くわからない……。

「……」
「……」
「……」
「……」

 シャルロッテが眠っている時間は、部屋の扉を大きく開けておくのが決まりになった。
 だって、扉を開けるだけで起きちゃうんだもの。これじゃあ、メイドは仕事ができないし、部屋の空気の入れ替えだってままならないでしょう? だから、扉は全開にしておくの。赤ちゃんって、敏感なのね。

 そのおかげか、私の部屋にはメイドや執事をはじめとした使用人がしょっちゅう顔を出すようになったわ。
 みんな、シャルロッテを見たいのですって。起きている時は触って良いって言ってるのに、誰1人として触らないの。顔を見てるだけで幸せで、仕事の疲れが癒やされるみたい。その気持ち、とてもわかるわ。夜間授乳で何度か起きるから寝不足なのに、そんなこと全然気にならないのだもの。

 今も、サフランが部屋に入ってきてベッドメイキングなどをしてくれているのだけど……。
 会話は全部ジェスチャーで済ませるみたい。しゃべっても良いって言ってるのに「お嬢様は少しでも目を瞑ってお休みください!」だそう。眠っている間に、シャルロッテの可愛いお顔を見逃したらそれこそ人生の汚点だわ。

「……アゥ」
「!?」
「!?」
「ぅ……」

 我が子の顔を覗き見ていると、穏やかな顔がクシャッと歪んだ。と、同時に、小さなお口から声が漏れる。
 起きたと思った私は、サフラン同様びっくりして立ち上がった。

 でも、なんてことない。寝言だったみたい。
 この子を取り上げてくれたお医者さんによると、こう言う時にすぐ抱き上げてしまうと眠りが浅くなってしまうのですって。だから、完全に起きてから抱き上げてくださいって言われたの。
 確かに、寝言言うたびに起こされていたら溜まったもんじゃないわよね。そもそも、私って寝言を呟くタイプなのかしら? ヴァレリー様は、いびきをかくタイプだったけど……。
 後でサフランに聞いてみましょう。

 私は、ポカポカとした陽気に促されて、シャルロッテと一緒に目を閉じる。




***



 それから3ヶ月ほどが経ったある日のこと。

 とても晴れ渡った青空が広がっていてね。シャルロッテに見せたくて一緒にお庭で日光浴をしていると、大慌てでこちらに向かって走ってくる王妃様の姿が目に入った。
 お茶を持ってきてくれているサフランを待ちながら園庭のベンチに腰掛けていた私は、無意識のうちに赤子を抱く腕に力を入れる。

「おおお、お義母様! 走ったら危ないです!」
「ラベンダーさん、今こっちに誰か来なかった?」

 というか、王妃様が走っているお姿なんて初めて見たわ。
 王族に嫁ぐ時に花嫁教育をいけたのだけど、その中に「王族は優雅に行動。走っては駄目」みたいな項目があったのだけど……。

 でも、私の声が聞こえていないかのように、真っ青な顔色を披露しながらこちらに近づいてくる。どうしたの?

「どなたも来ていませんが……」
「ああ、良かった。今、ヴァレリーが来て……」
「え、ヴァレリー様がいらっしゃったのですか?」

 この4ヶ月、一度もお会いしていないから心配していたところだったの。まさか、シャルロッテのお顔を見に来てくれたとか? やっぱり、父親ね。彼を信じていなかった私が愚かだったわ。
 でも、喜ばしいことなのにどうして王妃様はそんなお顔をしているのかしら?

 良くわからない私は、腕の中でキャッキャと声をあげてはしゃぐ我が子に笑いかける。すると王妃様は、

「来たのだけど……。ここに来ていないってことは、もう出て行ったみたいね」
「すみません、私が外にいたばかりに」
「いいえ、外に居て良かったわ」
「……?」

 そう言って、目の前で息を整えている。

 意味のわからない私は、ベンチから立ち上が……ろうとしたのだけど「座ってて! まだ産後4ヶ月よ!」の言葉で再度腰をおろした。もう大丈夫なのに、大袈裟だわ。でも、大切にされていると思えば嬉しいことね。

「騒がしくして、ごめんなさいね」
「いえ……。こちらこそ、夫に子の顔を見せられずに申し訳ございません」
「……シャルロッテちゃんは、成長が早いわね。昨夜、サフランに寝返りができるようになったって聞いたの」
「ええ、そうなんです。なんだか、もうお座りもしそうで。それに、下の前歯がちょっとだけ生えてきてるんですよ」
「ええ! 早いわね。良い子だわ。本当、ヴァレリーに似なくて良かった」
「……?」

 それから王妃様は、シャルロッテの顔を穴が開くのでは? ってほど眺めてから執務に戻られた。結局、なんだったのかしら? 
 夫に子の顔を見せない酷い嫁とでも思われたのかなって焦っちゃったけど、そんな雰囲気ではなかったわ。
 でも、なぜかとても隙間風を感じてしまった。王妃様とのじゃなくて、ヴァレリー様との隙間を。

 今の今までシャルロッテに夢中だった私は、急にヴァレリー様に会いたくなった。ここ数ヶ月、こんな気持ちにならなかったのに勝手よね。でも、会いたいという気持ちはどんどん大きくなる。
 この子は、ヴァレリー様と私の子なのに。少しでも良いから顔を見て欲しいというのは、私のワガママなのかしら。



 その隙間風の正体を知るのは、もう少し先のお話。
 
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