異形の郷に降る雨は

志ノ原新

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一.我帰郷す

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 久々の我が家は心地よい眠りをもたらしてくれた。おかげで目覚めもさわやかだ。
「おはようございます」
 居間の障子戸を開けると味噌汁のよい香りが鼻腔をくすぐる。炬燵には味噌汁と漬物と海苔、それに卵焼きが三人分並んでいる。母がよそってくれる白いごはんのつやが眩しい。
「いただきます」
 汁とごはんの温かさにほっとする。嗚呼、我日本人なり。
 朝食を食べながら、若葉が学校のことなどを一方的に話してくれた。女子高生、いわゆるJKらしいマシンガントークだ。髪はショートで、前髪を潔いほどパッツンと切り揃えている。我が妹ながら健康的かつ快活で、すらりと伸びた手足にジャージという出で立ちも恰好が良い。笑みを絶やさぬ顔は日本人形のようで、贔屓目抜きにしても可愛らしいと思う。
 残念だが私が通った多雨野中学と高校はすでに廃校となってしまった。そのため若葉は中学からQ市の学校へ通っている。通学は自転車と電車で一時間半以上かかるが、そこが一番近いのだ。妹は朝食をきっちり食べて、「ごちそうさま。歯を磨いたら行くね」と慌しく食器を片付けた。
 春休みでもバスケ部の練習があるのだ。バスケの話をするときの若葉が一番活き活きとしてみえた。
 さて、私も準備をせねばならない。朝食を平らげ歯を磨くと、スーツに着替えた。今日からは町役場が自分の職場だ。町の繁栄を一手に引き受けるゴールデンルーキーとは私のことだ。
「あら。よく似合っていますよ」と母が目を細めた。
「そうでしょうか」
「ええ、お父さまにそっくりになりましたね。きっと若葉もそう思ったのでしょう」
「若葉が?」
「昨日の夜、お父さまの写真をみていましたから」
 返す言葉がみつからなかった。若葉が物心つく頃には、もう父はいなかったのだから。
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