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七.若葉のころ
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多雨野宣伝サイトは南部さんによって『たうタウン』と名付けられた――なんと平凡な命名か。文句を言いたかったがリアル鬼子母神のトラウマと、バク転の劣等感が邪魔をした。とにかくそこにザッシーキの情報をアップしていった。
動画は初号機と弐号機の分業だ。悔しいがスタンダードな動きをさせると南部さん弐号機のほうが確実に受ける。私は最終的にダンスのみの担当となった。悔しい。バク転は南部さんの担当だ。超悔しい。
だが、ツイッターの担当はすべて私だ。ザッシーキのアカウントを取得し、『中の人』である私が全身全霊を賭して呟くのだ。ハッシュタグは#ザッシーキ。
「グルメレポートの第一声って、『あっまーい』か『やわらかーい』のどっちかワラ」とか、
「波浪警報のときって外人さんが大勢で『ハロー』って言ってくるから気をつけるワラ。警報だからきっと大人数ワラよ」とか。あるいはフォロワーからの質問に返事をすることもある。
「ザッシーキさんが無人島にもっていくとしたら、なにをもっていきますか?」
「愛と夢と希望ワラ」という塩梅だ。
インスタグラムへのこまめな写真アップも欠かせない。野良猫と対峙するザッシーキ。野良猫と互角に戦うザッシーキ。敗れるザッシーキ。自販機の下にホヤボールをとり落としたザッシーキ。地べたに這いつくばって懸命に腕を伸ばすが届かず包丁でなんとか掻きだそうとするザッシーキ。軍鶏に敗れるザッシーキ。村長んちの庭の池で錦鯉に麩を与えるザッシーキ。プリクラなうザッシーキ。ザリガニに指を挟まれてシャレになってないザッシーキ――。
とどめは、有名な料理レシピサイトだ。私のかんたんお役立ちレシピをザッシーキの名で登録しつづけると、SNSでの知名度向上にリンクして爆発的に有名になった。
そんなこんなで年が明ける頃にはザッシーキの名も全国に広まり、イベントに呼びたいという問合せが県内外から引きもきらなくなった。
イベントもネット関係も積極的に対応した。デビュー三か月でこの状況は快挙と言えるが、満足はしない。我々はどん欲だ。
もっとだ。もっと輝け、ザッシーキ。多雨野のために。
この冬最後になるであろう三月の雪が舞うなかで、町長を除くあか推メンバーはQ市にきていた。
郊外にある大型ショッピングモールの三周年だか四周年のイベントで、午後にはまずまず名のとおった芸人たちの漫才やコントが予定されている。我らあか推もスペースの一角を借り受けて、多雨野の物産展示と今秋に予定しているイベントのPRをさせてもらうことになっている。ザッシーキ人気あってこその待遇だ。
「さあ、みていってくださいね」
はちまちを巻き、ザッシーキのイラストが描かれたハッピを着た久慈さんがパンパン手を鳴らして声を張った。
「多雨野の特産と言えば、お父さんお母さんには源三郎の純米酒。坊っちゃんお嬢ちゃんには大好きなキノコや山菜をどうぞ。あ、お米もおいしいよ」
お子様がキノコや山菜が好きなのかどうかはよくわからない――と思っていたら、横にたつ南部ザッシーキが水平チョップのような合いの手でツッコんだ。
「ぐふぃ」
胸板をしこたま叩かれ、呻きながら膝をつく久慈さん。ザッシーキはその耳元に顔を寄せ、何事か囁くような動きをする。
「あ、そうなの、ザッシーキ? キノコや山菜が大好きってお子様はあんまりいないの? でもおじさんは晩酌のあてに椎茸焼いてしょう油垂らしたヤツとか山菜をぬたであえ――へべっ」
後頭部をはたかれる久慈さん。漫才さながらのやりとりに観客はドッと沸いた。
動画は初号機と弐号機の分業だ。悔しいがスタンダードな動きをさせると南部さん弐号機のほうが確実に受ける。私は最終的にダンスのみの担当となった。悔しい。バク転は南部さんの担当だ。超悔しい。
だが、ツイッターの担当はすべて私だ。ザッシーキのアカウントを取得し、『中の人』である私が全身全霊を賭して呟くのだ。ハッシュタグは#ザッシーキ。
「グルメレポートの第一声って、『あっまーい』か『やわらかーい』のどっちかワラ」とか、
「波浪警報のときって外人さんが大勢で『ハロー』って言ってくるから気をつけるワラ。警報だからきっと大人数ワラよ」とか。あるいはフォロワーからの質問に返事をすることもある。
「ザッシーキさんが無人島にもっていくとしたら、なにをもっていきますか?」
「愛と夢と希望ワラ」という塩梅だ。
インスタグラムへのこまめな写真アップも欠かせない。野良猫と対峙するザッシーキ。野良猫と互角に戦うザッシーキ。敗れるザッシーキ。自販機の下にホヤボールをとり落としたザッシーキ。地べたに這いつくばって懸命に腕を伸ばすが届かず包丁でなんとか掻きだそうとするザッシーキ。軍鶏に敗れるザッシーキ。村長んちの庭の池で錦鯉に麩を与えるザッシーキ。プリクラなうザッシーキ。ザリガニに指を挟まれてシャレになってないザッシーキ――。
とどめは、有名な料理レシピサイトだ。私のかんたんお役立ちレシピをザッシーキの名で登録しつづけると、SNSでの知名度向上にリンクして爆発的に有名になった。
そんなこんなで年が明ける頃にはザッシーキの名も全国に広まり、イベントに呼びたいという問合せが県内外から引きもきらなくなった。
イベントもネット関係も積極的に対応した。デビュー三か月でこの状況は快挙と言えるが、満足はしない。我々はどん欲だ。
もっとだ。もっと輝け、ザッシーキ。多雨野のために。
この冬最後になるであろう三月の雪が舞うなかで、町長を除くあか推メンバーはQ市にきていた。
郊外にある大型ショッピングモールの三周年だか四周年のイベントで、午後にはまずまず名のとおった芸人たちの漫才やコントが予定されている。我らあか推もスペースの一角を借り受けて、多雨野の物産展示と今秋に予定しているイベントのPRをさせてもらうことになっている。ザッシーキ人気あってこその待遇だ。
「さあ、みていってくださいね」
はちまちを巻き、ザッシーキのイラストが描かれたハッピを着た久慈さんがパンパン手を鳴らして声を張った。
「多雨野の特産と言えば、お父さんお母さんには源三郎の純米酒。坊っちゃんお嬢ちゃんには大好きなキノコや山菜をどうぞ。あ、お米もおいしいよ」
お子様がキノコや山菜が好きなのかどうかはよくわからない――と思っていたら、横にたつ南部ザッシーキが水平チョップのような合いの手でツッコんだ。
「ぐふぃ」
胸板をしこたま叩かれ、呻きながら膝をつく久慈さん。ザッシーキはその耳元に顔を寄せ、何事か囁くような動きをする。
「あ、そうなの、ザッシーキ? キノコや山菜が大好きってお子様はあんまりいないの? でもおじさんは晩酌のあてに椎茸焼いてしょう油垂らしたヤツとか山菜をぬたであえ――へべっ」
後頭部をはたかれる久慈さん。漫才さながらのやりとりに観客はドッと沸いた。
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