56 / 84
七.若葉のころ
2
しおりを挟む
多雨野宣伝サイトは南部さんによって『たうタウン』と名付けられた――なんと平凡な命名か。文句を言いたかったがリアル鬼子母神のトラウマと、バク転の劣等感が邪魔をした。とにかくそこにザッシーキの情報をアップしていった。
動画は初号機と弐号機の分業だ。悔しいがスタンダードな動きをさせると南部さん弐号機のほうが確実に受ける。私は最終的にダンスのみの担当となった。悔しい。バク転は南部さんの担当だ。超悔しい。
だが、ツイッターの担当はすべて私だ。ザッシーキのアカウントを取得し、『中の人』である私が全身全霊を賭して呟くのだ。ハッシュタグは#ザッシーキ。
「グルメレポートの第一声って、『あっまーい』か『やわらかーい』のどっちかワラ」とか、
「波浪警報のときって外人さんが大勢で『ハロー』って言ってくるから気をつけるワラ。警報だからきっと大人数ワラよ」とか。あるいはフォロワーからの質問に返事をすることもある。
「ザッシーキさんが無人島にもっていくとしたら、なにをもっていきますか?」
「愛と夢と希望ワラ」という塩梅だ。
インスタグラムへのこまめな写真アップも欠かせない。野良猫と対峙するザッシーキ。野良猫と互角に戦うザッシーキ。敗れるザッシーキ。自販機の下にホヤボールをとり落としたザッシーキ。地べたに這いつくばって懸命に腕を伸ばすが届かず包丁でなんとか掻きだそうとするザッシーキ。軍鶏に敗れるザッシーキ。村長んちの庭の池で錦鯉に麩を与えるザッシーキ。プリクラなうザッシーキ。ザリガニに指を挟まれてシャレになってないザッシーキ――。
とどめは、有名な料理レシピサイトだ。私のかんたんお役立ちレシピをザッシーキの名で登録しつづけると、SNSでの知名度向上にリンクして爆発的に有名になった。
そんなこんなで年が明ける頃にはザッシーキの名も全国に広まり、イベントに呼びたいという問合せが県内外から引きもきらなくなった。
イベントもネット関係も積極的に対応した。デビュー三か月でこの状況は快挙と言えるが、満足はしない。我々はどん欲だ。
もっとだ。もっと輝け、ザッシーキ。多雨野のために。
この冬最後になるであろう三月の雪が舞うなかで、町長を除くあか推メンバーはQ市にきていた。
郊外にある大型ショッピングモールの三周年だか四周年のイベントで、午後にはまずまず名のとおった芸人たちの漫才やコントが予定されている。我らあか推もスペースの一角を借り受けて、多雨野の物産展示と今秋に予定しているイベントのPRをさせてもらうことになっている。ザッシーキ人気あってこその待遇だ。
「さあ、みていってくださいね」
はちまちを巻き、ザッシーキのイラストが描かれたハッピを着た久慈さんがパンパン手を鳴らして声を張った。
「多雨野の特産と言えば、お父さんお母さんには源三郎の純米酒。坊っちゃんお嬢ちゃんには大好きなキノコや山菜をどうぞ。あ、お米もおいしいよ」
お子様がキノコや山菜が好きなのかどうかはよくわからない――と思っていたら、横にたつ南部ザッシーキが水平チョップのような合いの手でツッコんだ。
「ぐふぃ」
胸板をしこたま叩かれ、呻きながら膝をつく久慈さん。ザッシーキはその耳元に顔を寄せ、何事か囁くような動きをする。
「あ、そうなの、ザッシーキ? キノコや山菜が大好きってお子様はあんまりいないの? でもおじさんは晩酌のあてに椎茸焼いてしょう油垂らしたヤツとか山菜をぬたであえ――へべっ」
後頭部をはたかれる久慈さん。漫才さながらのやりとりに観客はドッと沸いた。
動画は初号機と弐号機の分業だ。悔しいがスタンダードな動きをさせると南部さん弐号機のほうが確実に受ける。私は最終的にダンスのみの担当となった。悔しい。バク転は南部さんの担当だ。超悔しい。
だが、ツイッターの担当はすべて私だ。ザッシーキのアカウントを取得し、『中の人』である私が全身全霊を賭して呟くのだ。ハッシュタグは#ザッシーキ。
「グルメレポートの第一声って、『あっまーい』か『やわらかーい』のどっちかワラ」とか、
「波浪警報のときって外人さんが大勢で『ハロー』って言ってくるから気をつけるワラ。警報だからきっと大人数ワラよ」とか。あるいはフォロワーからの質問に返事をすることもある。
「ザッシーキさんが無人島にもっていくとしたら、なにをもっていきますか?」
「愛と夢と希望ワラ」という塩梅だ。
インスタグラムへのこまめな写真アップも欠かせない。野良猫と対峙するザッシーキ。野良猫と互角に戦うザッシーキ。敗れるザッシーキ。自販機の下にホヤボールをとり落としたザッシーキ。地べたに這いつくばって懸命に腕を伸ばすが届かず包丁でなんとか掻きだそうとするザッシーキ。軍鶏に敗れるザッシーキ。村長んちの庭の池で錦鯉に麩を与えるザッシーキ。プリクラなうザッシーキ。ザリガニに指を挟まれてシャレになってないザッシーキ――。
とどめは、有名な料理レシピサイトだ。私のかんたんお役立ちレシピをザッシーキの名で登録しつづけると、SNSでの知名度向上にリンクして爆発的に有名になった。
そんなこんなで年が明ける頃にはザッシーキの名も全国に広まり、イベントに呼びたいという問合せが県内外から引きもきらなくなった。
イベントもネット関係も積極的に対応した。デビュー三か月でこの状況は快挙と言えるが、満足はしない。我々はどん欲だ。
もっとだ。もっと輝け、ザッシーキ。多雨野のために。
この冬最後になるであろう三月の雪が舞うなかで、町長を除くあか推メンバーはQ市にきていた。
郊外にある大型ショッピングモールの三周年だか四周年のイベントで、午後にはまずまず名のとおった芸人たちの漫才やコントが予定されている。我らあか推もスペースの一角を借り受けて、多雨野の物産展示と今秋に予定しているイベントのPRをさせてもらうことになっている。ザッシーキ人気あってこその待遇だ。
「さあ、みていってくださいね」
はちまちを巻き、ザッシーキのイラストが描かれたハッピを着た久慈さんがパンパン手を鳴らして声を張った。
「多雨野の特産と言えば、お父さんお母さんには源三郎の純米酒。坊っちゃんお嬢ちゃんには大好きなキノコや山菜をどうぞ。あ、お米もおいしいよ」
お子様がキノコや山菜が好きなのかどうかはよくわからない――と思っていたら、横にたつ南部ザッシーキが水平チョップのような合いの手でツッコんだ。
「ぐふぃ」
胸板をしこたま叩かれ、呻きながら膝をつく久慈さん。ザッシーキはその耳元に顔を寄せ、何事か囁くような動きをする。
「あ、そうなの、ザッシーキ? キノコや山菜が大好きってお子様はあんまりいないの? でもおじさんは晩酌のあてに椎茸焼いてしょう油垂らしたヤツとか山菜をぬたであえ――へべっ」
後頭部をはたかれる久慈さん。漫才さながらのやりとりに観客はドッと沸いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー
みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。
魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。
人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。
そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。
物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる