【完結】推しを死亡フラグから救済したら溺愛ルートに入りました⁉︎

白(しろ)

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第六章

気安く呼ぶな

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 寒さとカビ臭さを覚えて、オレはゆっくりと目を開けた。
 けれど暗くてよく見えない。光が全くないというわけではなく、朧げな灯りだ。まるで松明を翳しているような、そんな暗さだ。

「……ここ、どこだ」

 声が出せた。
 それに安堵したと同時に、目を覚ます前のことを思い出す。
 誰かが側にいた。そいつに眠らされて、それからどうなった。
 ゆっくりと自分の状況を確かめる。両手足が紐で拘束されていて身動きが取れない。肌に触れる質感は多分石だ。そして落ち着いてくると耳が水の音も拾った。

「誘拐? 笑えねー……」

 出した声が思いの外反響した。ここは広いし、そして多分天井も高い。それに結構寒いから、きっと地下だ。
 今は側に朧げでも灯りがあるから無事なだけで、これがなくなればすぐさま魔物がオレを目掛けて襲いかかってくるだろう。どうしてわかるのかと聞かれたらオレが何度もこの場所を探索したことがあるからだ。ゲームの中で。

 ここは王都の地下に広がる地下水道だ。迷路のように入り組んでいて、道さえ間違えなければ王城の中にすら侵入が可能となるゲームならではのざる設計。物語の序盤でエスタはここに入り込むことになるのだが、彼女にとってはここに出る魔物は敵ではない。チュートリアルと同義だからだ。
 けれど俺にとっては違う。最初期に出てくる魔物だって倒せないんだ、俺は。

「風前の灯火ってやつじゃん。どんな難易度だよ」

 思っているよりも冷静だと思ったけれど、多分そうじゃない。声を出していないと緊張と不安でどうになりそうだからだ。
 どうにか手足を動かすが、結構キツく縛られていてびくともしない。それなら這って移動しようかと思うけれど、暗闇の中に入れば一発で終わりだ。四面楚歌である。

 どうしたものかと必死に頭を動かしていれば、遠くの方から足音が聞こえた。複数ではなく一人だ。
 そしてカビの匂いの中に似つかわしくない甘い香りが混ざった途端、記憶が結びついてはっとする。

「リリア」
「驚いた。わたしをご存知なのですね」

 砂糖を煮詰めたような匂いでも、花のような匂いでもない。人工的な甘い香りがどんどん近付いてきて、その強さに鼻頭に皺が寄る。

「……初めましてってご挨拶したいんだけどさ、縄とか解いてくれたりする?」
「すると思いますか? あなたを攫った本人が」

 仄暗い灯りの中に浮かび上がるリリアのシルエットは、まるで日本映画に出てくる幽鬼のようだ。肌は生白くて、長く真っ直ぐな黒髪がさらりと揺れる。初めて見た時の印象通りの綺麗な人だと思うのに、得体の知れない恐ろしさがあった。

「オレを攫う意味ってある?」
「ありません。本当ならあの路地で殺すつもりだったのですけど、それだとどうも腹の虫が収まらなくて」

 綺麗な所作でリリアが俺の前に膝を折り、白魚のような手が顎を持って顔を上に向かせる。無理な体勢なせいで体が痛むけれど、リリアにとってそんなことはどうでもいいらしい。

「こんな凡庸な男のどこがあの方のお心に触れたのか」

 その言葉にずしりと胸の中に鉛が詰められたような心地になった。
 リリアが犯人だと分かった時から、ずっと嫌な予感がしていた。どうか外れてほしいと思っていた。けれど願えば願う程、現実はひどいものだと突き付けてくる。

「ルーク絡み?」
「気安く名前を呼ぶなよ、ブス」

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