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第六章
神のような人
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気品の欠片もない言葉に驚く暇もなく、肉に爪が刺さる痛みが襲う。
けれどここで表情を歪めでもしたらこいつの機嫌をよくさせるだけだと思って、なんとか平静を装った。
「……」
読み通りリリアは面白くなさそうな顔をしてオレの顔から手を離し、触れた手が汚れたとでもいうように水を払うような仕草をした。
「オレは汚物か」
「わたしにとっては同義です。あなた程穢らわしい存在をわたしは知りません」
「なんでそう思うか聞いてもいい? どうせ殺すんだろ、オレのこと。それなら冥土の土産感覚で教えてよ」
一度痛みを与えられたおかげか、随分と頭が冷静になった気がする。
今ここで暴れても叫んでも意味はない。そしてリリアがやっぱやめたでオレを解放する気がないのも当たり前に理解できる。
その証拠に、リリアはオレをずっと睨んでいる。親の仇でも見るような顔だ。
生まれて初めて向けられる憎悪の感情に少し怯むけれど、必死にそれを顔に出さないように努める。
「……確かに、死にゆくお前にちょうどいい手向けかもしれません」
作り物のような笑みを浮かべたリリアに背筋が冷える。
「ルーク様を変えたからです、あなたが」
「……?」
「あの方は高貴なお方でした。ダリア様の懐刀としてご活躍され、どんな命令にも従い、どれだけの人間たちを手に掛けても表情ひとつ変えることがなかった。いつでも美しく聡明で、まるで神のような存在だったのに」
夢見る少女のような語りだったのが老婆のような怨嗟のそれに変わり、突発的に生じた魔力の塊がオレに突き刺さった。
「‼︎」
痛みに歯を食い縛り、全身に力を入れる。腕を中心に焼けるような痛みが襲うけれど、同時に冷たさも感じた。多分今、オレの腕に氷柱のようなものが刺さっている。
脂汗が滲み呼吸が乱れると、徐にリリアが氷柱を握って思い切り引き抜く。
想像を絶する痛みが襲うのと同時に、温かなものが流れているのがわかる。
「あなたが神を人間に変えてしまった。許されないことです」
近くにいるはずのリリアの声が遠くに聞こえる。
自分の呼吸の荒さのせいで、多分そう思うだけだ。
焦るなと何度も自分に言い聞かせながらリリアを見れば、彼は心から楽しそうに笑って弱っているオレを見ていた。
こんな状態でも綺麗な人だと思えるのだから、オレはやっぱりおかしいのかもしれない。
「なるほどなぁ」
吐き出した声は驚く程掠れていた。
「ご理解いただけましたか?」
「いやまったく」
リリアの眉間に皺が寄った。
こういう人間は煽ったらダメだって経験上わかっているのに、それでも口が止まらなかった。
「お前、ルークのこと何も知らねえな」
命の危機だからか逆にテンションが上がっている気がする。それと同時に、リリアに対して優越感も覚えていた。
「あいつは神でもなんでもねえただの人間だよ。上っ面しか知らねえくせして理解者ぶんな」
リリアの顔が怒りに染まり、再び魔力が渦巻く。あ、終わったわと悟ったけれど、衝撃はいつまでもやってこなかった。
見るとリリアの顔からは怒りが消え、その表情には笑みすら浮かんでいる。けれどそれはどこまでも底冷えするような微笑みだった。
けれどここで表情を歪めでもしたらこいつの機嫌をよくさせるだけだと思って、なんとか平静を装った。
「……」
読み通りリリアは面白くなさそうな顔をしてオレの顔から手を離し、触れた手が汚れたとでもいうように水を払うような仕草をした。
「オレは汚物か」
「わたしにとっては同義です。あなた程穢らわしい存在をわたしは知りません」
「なんでそう思うか聞いてもいい? どうせ殺すんだろ、オレのこと。それなら冥土の土産感覚で教えてよ」
一度痛みを与えられたおかげか、随分と頭が冷静になった気がする。
今ここで暴れても叫んでも意味はない。そしてリリアがやっぱやめたでオレを解放する気がないのも当たり前に理解できる。
その証拠に、リリアはオレをずっと睨んでいる。親の仇でも見るような顔だ。
生まれて初めて向けられる憎悪の感情に少し怯むけれど、必死にそれを顔に出さないように努める。
「……確かに、死にゆくお前にちょうどいい手向けかもしれません」
作り物のような笑みを浮かべたリリアに背筋が冷える。
「ルーク様を変えたからです、あなたが」
「……?」
「あの方は高貴なお方でした。ダリア様の懐刀としてご活躍され、どんな命令にも従い、どれだけの人間たちを手に掛けても表情ひとつ変えることがなかった。いつでも美しく聡明で、まるで神のような存在だったのに」
夢見る少女のような語りだったのが老婆のような怨嗟のそれに変わり、突発的に生じた魔力の塊がオレに突き刺さった。
「‼︎」
痛みに歯を食い縛り、全身に力を入れる。腕を中心に焼けるような痛みが襲うけれど、同時に冷たさも感じた。多分今、オレの腕に氷柱のようなものが刺さっている。
脂汗が滲み呼吸が乱れると、徐にリリアが氷柱を握って思い切り引き抜く。
想像を絶する痛みが襲うのと同時に、温かなものが流れているのがわかる。
「あなたが神を人間に変えてしまった。許されないことです」
近くにいるはずのリリアの声が遠くに聞こえる。
自分の呼吸の荒さのせいで、多分そう思うだけだ。
焦るなと何度も自分に言い聞かせながらリリアを見れば、彼は心から楽しそうに笑って弱っているオレを見ていた。
こんな状態でも綺麗な人だと思えるのだから、オレはやっぱりおかしいのかもしれない。
「なるほどなぁ」
吐き出した声は驚く程掠れていた。
「ご理解いただけましたか?」
「いやまったく」
リリアの眉間に皺が寄った。
こういう人間は煽ったらダメだって経験上わかっているのに、それでも口が止まらなかった。
「お前、ルークのこと何も知らねえな」
命の危機だからか逆にテンションが上がっている気がする。それと同時に、リリアに対して優越感も覚えていた。
「あいつは神でもなんでもねえただの人間だよ。上っ面しか知らねえくせして理解者ぶんな」
リリアの顔が怒りに染まり、再び魔力が渦巻く。あ、終わったわと悟ったけれど、衝撃はいつまでもやってこなかった。
見るとリリアの顔からは怒りが消え、その表情には笑みすら浮かんでいる。けれどそれはどこまでも底冷えするような微笑みだった。
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