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第六章
置いて逝く
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「死人の戯言に付き合う義理はありませんね」
渦巻いていた魔力が消えた。
「お前には普通の死では生温い。生きながら悶え苦しみ、生まれてきたことを後悔しながら死ね」
生きてきてこんなにも死を宣告されたことはない。
軽いノリではない本気の言葉だ。
「ここの魔物たちは腹を空かせています。見窄らしい体とはいえ、奴らにとっては馳走になるでしょう」
「うわー、めちゃくちゃ嫌だなそれ」
「あなたが死ねばルーク様の目も覚めましょう。そして今度こそダリア様の悲願を成就させ、この国を我らのものにするのです」
自分が圧倒的に優位な立場に立っているからか、リリアは舞台に立っている役者のように両腕を広げ、歌うように言葉を紡いだ。
オレはその姿を見て、こいつは救えないなと思う。オレなら勝手に言ってろ馬鹿とか言って一蹴してしまう。だけどルークは違うのだ。
どれだけ自分のことが理解されていなくても、望まない理想を押し付けられていても、救う手立てがない存在だとしても、ルークはこいつらを見放せなかった。
「……ルークはそんなの望んでねえよ。あいつはあんたらに真っ当に生きていってほしいって」
「真っ当?」
リリアが鼻で笑った。
「そんなもの誰が望んだのです。我らはダリア様の悲願を成就させる。そしてその頂にはルーク様がいなければならない」
「ルークは望んでない!」
「あの方の意思など関係ない」
「……は? じゃあ、じゃあなんでお前ルークに執着してんだよ」
リリアが俺を見下ろして、そして蛇のように生あたたかく笑った。
「あの方の血は、尊いですから」
寒気と怒りに目の前が歪む。
「切り捨てたはずの我が子に国家を転覆させられたら王はどんな顔をするでしょう? ダリア様にも見せて差し上げたかった……。ああそうだ、だから王太子も始末しなくては」
話が通じない。同じ言葉を話しているはずなのに、何も響かない。
声を張り上げるだけ無駄だとわかっているのに、遠ざかっていく背中に俺は何度も待てと叫んだ。けれどリリアの足は止まることなく、そして唯一あった光が無情にも消え去る。
「さようなら」
魔物の呻き声が大きくなる暗闇の中、リリアの声が響いた。
「クソっ‼︎」
怒りで頭がどうにかなりそうだ。あいつらはルークを道具程度にしか見ていない。それが何より許せない。
早く行かなくてはと思うのに、両手足を拘束されている上に痛みで気が遠くなりそうだ。その上魔物が近付いてきている気配もするし、正直に言って絶体絶命だ。
こんなところで死ぬのだろうか。
誰にも見つからず、魔物の餌になって。
オレが死んだらルークはどうなる。あんな頭のおかしい奴に言い寄られて、そしてオレが死んだなんて聞かされたら。
「クソ、クソ……っ! なんでオレには攻撃魔法の適性がないんだよ!」
リアス・オルロンは手先が器用なだけの凡庸な男だ。情報を集めることと、アイテムを作るだけの害のない魔法の使い方しかできない。
火の魔法さえ使えたらこの場から抜け出せるのに。風でも、水でも、なんでもいい。
そう思いながら必死に自分の中にある魔力を練り上げるけれど、火花の一つさえ起こらない。その間にも魔物が近付く。
鋭い爪が石を削る音がして、徐々に荒い呼吸が届くようになった。
恐怖よりも悔しさの方がずっと上回っている。むしろそれしかない。
ルーク、ルークと心の中で叫ぶ。それは別に助けてほしいわけじゃない。置いて逝ってしまうかもしれない申し訳なさが、オレをそんな行動に駆り立てる。
様子を窺っていた魔物が飛び掛かってくる気配がした。
「ごめん、ルーク」
壮絶な痛みを覚悟して目を閉じた瞬間、魔物の悲鳴が聞こえた。
渦巻いていた魔力が消えた。
「お前には普通の死では生温い。生きながら悶え苦しみ、生まれてきたことを後悔しながら死ね」
生きてきてこんなにも死を宣告されたことはない。
軽いノリではない本気の言葉だ。
「ここの魔物たちは腹を空かせています。見窄らしい体とはいえ、奴らにとっては馳走になるでしょう」
「うわー、めちゃくちゃ嫌だなそれ」
「あなたが死ねばルーク様の目も覚めましょう。そして今度こそダリア様の悲願を成就させ、この国を我らのものにするのです」
自分が圧倒的に優位な立場に立っているからか、リリアは舞台に立っている役者のように両腕を広げ、歌うように言葉を紡いだ。
オレはその姿を見て、こいつは救えないなと思う。オレなら勝手に言ってろ馬鹿とか言って一蹴してしまう。だけどルークは違うのだ。
どれだけ自分のことが理解されていなくても、望まない理想を押し付けられていても、救う手立てがない存在だとしても、ルークはこいつらを見放せなかった。
「……ルークはそんなの望んでねえよ。あいつはあんたらに真っ当に生きていってほしいって」
「真っ当?」
リリアが鼻で笑った。
「そんなもの誰が望んだのです。我らはダリア様の悲願を成就させる。そしてその頂にはルーク様がいなければならない」
「ルークは望んでない!」
「あの方の意思など関係ない」
「……は? じゃあ、じゃあなんでお前ルークに執着してんだよ」
リリアが俺を見下ろして、そして蛇のように生あたたかく笑った。
「あの方の血は、尊いですから」
寒気と怒りに目の前が歪む。
「切り捨てたはずの我が子に国家を転覆させられたら王はどんな顔をするでしょう? ダリア様にも見せて差し上げたかった……。ああそうだ、だから王太子も始末しなくては」
話が通じない。同じ言葉を話しているはずなのに、何も響かない。
声を張り上げるだけ無駄だとわかっているのに、遠ざかっていく背中に俺は何度も待てと叫んだ。けれどリリアの足は止まることなく、そして唯一あった光が無情にも消え去る。
「さようなら」
魔物の呻き声が大きくなる暗闇の中、リリアの声が響いた。
「クソっ‼︎」
怒りで頭がどうにかなりそうだ。あいつらはルークを道具程度にしか見ていない。それが何より許せない。
早く行かなくてはと思うのに、両手足を拘束されている上に痛みで気が遠くなりそうだ。その上魔物が近付いてきている気配もするし、正直に言って絶体絶命だ。
こんなところで死ぬのだろうか。
誰にも見つからず、魔物の餌になって。
オレが死んだらルークはどうなる。あんな頭のおかしい奴に言い寄られて、そしてオレが死んだなんて聞かされたら。
「クソ、クソ……っ! なんでオレには攻撃魔法の適性がないんだよ!」
リアス・オルロンは手先が器用なだけの凡庸な男だ。情報を集めることと、アイテムを作るだけの害のない魔法の使い方しかできない。
火の魔法さえ使えたらこの場から抜け出せるのに。風でも、水でも、なんでもいい。
そう思いながら必死に自分の中にある魔力を練り上げるけれど、火花の一つさえ起こらない。その間にも魔物が近付く。
鋭い爪が石を削る音がして、徐々に荒い呼吸が届くようになった。
恐怖よりも悔しさの方がずっと上回っている。むしろそれしかない。
ルーク、ルークと心の中で叫ぶ。それは別に助けてほしいわけじゃない。置いて逝ってしまうかもしれない申し訳なさが、オレをそんな行動に駆り立てる。
様子を窺っていた魔物が飛び掛かってくる気配がした。
「ごめん、ルーク」
壮絶な痛みを覚悟して目を閉じた瞬間、魔物の悲鳴が聞こえた。
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