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第一章 僕の話
自覚と横暴
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それまで後生大事に抱き込んでいた枕を簡単に放り投げてシリウスに抱き着く。
「! アル…?」
ずっと同じ体勢で寝ていたせいか体が固くなっていて動くと少し軋むような痛みがある。でもそんなものが気にならないくらいに僕は今すぐシリウスの体温が欲しくて両腕を首に回して体を寄せるとまずシリウスの匂いがして、僕はそこでようやくきちんと息が出来た気がした。
「ぇ、え…、ちょ、アル? 何事…?」
いつだって触って来るのはシリウスからだったから、僕からの接触に驚いているのがこれでもかという程によくわかる。いつもは遠慮無く抱き締めて来るクセに、今は遠慮がちに僕の体に触れるか触れまいか迷っている素振りが少し腹が立った。
「早く」
「え?」
「早く抱き締めろ馬鹿」
「⁉︎」
ビクゥ! とシリウスの体が揺れる。顔は見えていないが驚きでとんでもない表情をしているのもわかる。脳の処理が追い付いていないのか固まったままのシリウスにまた「はやく」と苛立った声音のまま訴えると今度こそ両腕が僕の体に回って、ちゃんと体温がわかった。
「………はぁ」
シリウスの体温と匂いに包まれて、やっと全身から力が抜ける。安堵の息を吐くとやはり遠慮がちにシリウスが口を開いた。
「……えっと、その、アルさん…? ど、ど、どうしたんですか…?」
どうした。その当然の問い掛けがこれだけ重くのしかかってくる日がかつてあっただろうか。
「…アル?」
体に回る腕から少しだけ力が抜ける。ほんの少し距離が開いて、数時間ぶりにシリウスの顔を真正面から見る。すると僕の顔を見たシリウスの目が驚愕に彩られた。
「アル、泣いたの?」
「ん…」
シリウスの片手が体から離れて僕の頬を包む。固いけれど荒れていない指が目元を撫でて、その触れ方と温度に胸の奥がじわりとあたたかくなる。
「アル教えて。なんで泣いてたの」
昨日も、こうやって触られた。相手はヤードだった。
あの時は何も思わなかった。本当に何も感じなかったのに、シリウスに触られると言葉では言い表せないくらい安堵している自分がいる。
今の今までどう説明しようかと心が重たくて仕方がなかったのに、こうやって触れられるだけで軽くなるのだから僕は僕が思った以上に単純なのかもしれない。
頬に触れる手があたたかくて、ずっとこの温度が欲しかったんだと僕は無意識にその手に頬を擦り寄せた。のに、今まで柔らかかった手に力が入るのを感じて視線を上げるとそこにはすとん、と表情を無くしたシリウスがいた。
「シリウス」
「誰」
「ぇ…?」
「アルにこれつけたの、誰」
頬に触れていた手が離れて首筋に降りる。
昨日の夜鏡で見た位置に指先が触れ、低い声が鼓膜を震わせた瞬間、喉がひゅっと鳴った。咄嗟に口を開くけれど、そこから声は出なかった。なんて言えばいいのかわからなかったからだ。
ヤードは言ってもいいと言っていた。だけど、僕が言えなかった。
名前を出せなかったんじゃない。シリウス以外に触られてしまったという事実が、どうしても口から出なかったんだ。
「……俺に言えない?」
温度の無かった声に少し穏やかさが乗った。
その言葉に首を横に振ったけど、やっぱり口から言葉は出なくて僕はシリウスの服を掴むことしか出来なかった。
「…アル、俺怒ってないよ」
「そ、れは、うそだ」
「うわあバレてる」
シリウスの指がまるで気に入らないとでも言うように僕の首に付けられた痕を擦る。皮膚が引き攣って少し痛いのに、それがシリウスから与えられているものだと思うと嫌な感じはしなくてそのまま受け入れた。
「──うん、怒ってないなんて嘘。本当はめちゃくちゃ怒ってる。でもアルには怒ってない」
「……」
「そんな目で見なくても本当。アルには怒んないよ。…だって泣いちゃうくらいには嫌だったんでしょ、これ」
シリウスの目が僕を貫く。嘘も誤魔化しも許さない強い光に、僕は頷いていた。
「じゃあ大丈夫」
目を細め、口角を上げてシリウスが笑った。
その笑顔がいつもと違うなんてことは僕が正常だったら気が付けたと思う。だけど今の僕は正常ではなくて、一晩経って整理が出来たと思ったけれどそんなことは全然無くて、ずっと心の奥がさざなみが立ったように揺らいでいる。
不安と予想も経験もしたことがない体験への動揺がずっと拭い切れないでいる。
「よ、っと」
「!」
腰の下に手が入り簡単に足が浮く。
声を出す間もなくシリウスの足が動き出してベッドの方に向かうのがわかった。
「ま、待てシリウス」
「やだ」
「ちが、違うんだ、その」
シリウスが足を向けているのは自分のベッドだ。つまり、昨日僕が押さえつけられた場所でもある。
手首が痛んだ気がした。
「嫌だ…!」
シリウス以外の男が自分に馬乗りになった瞬間を思い出して全身から血の気が引く。
頭が瞬間的に真っ白になった。
「そっちは嫌だ!」
切実に訴えた瞬間、シリウスの足は止まった。けれど数秒とおかず再び動き出し一瞬の浮遊感のあと、背中を柔らかいものに押し付けられる。ふわりと立ち昇ったのはシリウスの香りだ。つまり今僕は、シリウスのベッドにいる。
「っ」
昨夜の己の無力さが鮮明に思い出されて息が上がる。
手首が痛くて、抵抗してもびくともしなくて、何も出来ない自分に嫌気がさした。いい友人だと思っていた人が、シリウスと同じ目で僕を見ていた。
「アル」
すぐそばで声が聞こえた。
「目開けて。今お前の前にいるのはだぁれ」
柔らかい、子供をあやすような声だった。
そう言われて初めて自分が目を閉じていたことに気がついた。ゆっくりと目を開けると、飛び込んで来たのは煌めく一等星。
「……シリウス」
「うん、俺。アルのシリウス・ルーヴだよ」
顔の横に肘をついて僕を閉じ込めている男が、これ以上ないくらい甘い顔をして僕を見ていた。胸焼けがしそうな程甘い顔なのに、僕はそれを全然嫌だなんて思わなくて、むしろそんな顔で見られているのが嬉しくもあった。
「…シリウス」
「はーい」
「シリウス、シリウス…っ」
「うん、ちゃんといるよ」
背中に手を回して抱きしめる。
昨日は呼んでも返ってこなかった返事が、今日はちゃんと聞こえる。
それだけのことなのに目の奥が熱くなって視界が滲む。そんな僕を見てシリウスが笑って、しょうがないなって顔で僕を撫でた。
額に、瞼に、頬に、そして唇に柔らかいキスが雨みたいに降ってくる。
それを嫌だなんて思わなかった。
どんな時だって、シリウスに触られることを嫌だなんて思ったことが無かった。
そんなことに僕はようやく気が付いたんだ。
「シリウス…」
「ん?」
こんな砂糖菓子みたいな甘い顔も声も嫌じゃない。いつも光を集めたみたいに輝いている目が、僕を見るときだけ甘くてとろりとした光を宿すのも嫌じゃない。
そんなシリウスが当たり前だった。僕の中でシリウスはいつだって僕にはこんな顔をしていた気がする。だからこれが特別なことだなんて気が付かなかったんだ。
だけどもう、気が付いてしまったから。
「……お前も、僕のことが好きなのか…?」
「………もって何」
「昨日言われた」
「空気! アルはもっと空気読んで! 今ここでそういうの言っちゃダメ!」
「じゃあいつ言えばいいんだ」
そういうとシリウスは深過ぎるほど深い溜息を吐いた。
体中の空気を全部抜いたんじゃないかってくらいの息を吐き切って、僕をじとりとした目で睨むように見る。
「…アルに一番最初に好きっていうのは俺だって決めてたのに」
「そんなの知らん」
「先越されたー!」
どさ、と僕の上に落ちてきたシリウスは重たい。でもその重たさも嫌じゃなくて、甘えるみたいに首筋に鼻先を擦り付けて来るのに思わず笑ってしまった。
「…ねえアル」
「なんだ」
「俺ね、大事に取ってたんだよ。好きっていうの」
首に息が掛かる。
「アルは素直だから、俺が好きだって言ったらきっと刷り込みで自分もそうなんだって、多分思い込んじゃうだろうなーって思って」
「そんな訳あるか」
「だから、俺から言うのはアルが自覚してからって決めてた。そうじゃないと意味ないって思ったから、ずっとずっとずーーーーーっと我慢してた」
むくりと顔が上がって視線が絡む。
「…もう俺はお前に好きって言っていいの?」
「……駄目なんて言ったことないだろ、僕は」
我慢しろとも言ってない。
肉食獣みたいな丸い目をぱちりと大きく瞬きさせてからシリウスは笑った。くしゃりと表情の崩れるその顔はまるで子供みたいでつられて僕も軽く息を吹き出すように笑う。
「それもそっか」
吐息みたいな声で吐き出して、シリウスの両手が僕の頬を包む。
「好きだよ、アル。世界で一番アルが大好き」
この世のどんなものよりも糖度を持った声で囁かれた言葉にきゅう、と心臓が痛んだ。
続きを求めるようにシリウスが僕を見つめている。僕のことなんて全部見透かしているような目に苛立ちを覚えないと言えば嘘になるが、いつかのシリウスの言葉を思い出して僕は観念したように息を吐く。
「…また僕の負けだな」
ぱちりと、一等星が瞬く。
そんなとぼけた顔を可愛らしいと思っている時点で僕の完敗だ。でも素直に言うのもやっぱり癪で、僕は出来るだけ無表情を装いながら口を開く。
「好きだ。腹立たしいけど、僕はお前のことが好きみたいだ」
「、……、ねえこれ素直に喜んでいいの⁉︎」
「いいに決まってるだろ。喜べ」
「横暴!」
眉を寄せあからさまに『不満です』という顔をしたシリウスが掠めるように僕の唇を奪う。
「…でもそういうところも好き」
「そうか」
「ねえ反応!」
「これでも浮かれてる」
「…ならいっか…」
拗ねたように唇を尖らせたシリウスがまたキスをせがむ。僕はそれを当然みたいに受け入れて、唇が離れたあと二人で笑い合った。
「! アル…?」
ずっと同じ体勢で寝ていたせいか体が固くなっていて動くと少し軋むような痛みがある。でもそんなものが気にならないくらいに僕は今すぐシリウスの体温が欲しくて両腕を首に回して体を寄せるとまずシリウスの匂いがして、僕はそこでようやくきちんと息が出来た気がした。
「ぇ、え…、ちょ、アル? 何事…?」
いつだって触って来るのはシリウスからだったから、僕からの接触に驚いているのがこれでもかという程によくわかる。いつもは遠慮無く抱き締めて来るクセに、今は遠慮がちに僕の体に触れるか触れまいか迷っている素振りが少し腹が立った。
「早く」
「え?」
「早く抱き締めろ馬鹿」
「⁉︎」
ビクゥ! とシリウスの体が揺れる。顔は見えていないが驚きでとんでもない表情をしているのもわかる。脳の処理が追い付いていないのか固まったままのシリウスにまた「はやく」と苛立った声音のまま訴えると今度こそ両腕が僕の体に回って、ちゃんと体温がわかった。
「………はぁ」
シリウスの体温と匂いに包まれて、やっと全身から力が抜ける。安堵の息を吐くとやはり遠慮がちにシリウスが口を開いた。
「……えっと、その、アルさん…? ど、ど、どうしたんですか…?」
どうした。その当然の問い掛けがこれだけ重くのしかかってくる日がかつてあっただろうか。
「…アル?」
体に回る腕から少しだけ力が抜ける。ほんの少し距離が開いて、数時間ぶりにシリウスの顔を真正面から見る。すると僕の顔を見たシリウスの目が驚愕に彩られた。
「アル、泣いたの?」
「ん…」
シリウスの片手が体から離れて僕の頬を包む。固いけれど荒れていない指が目元を撫でて、その触れ方と温度に胸の奥がじわりとあたたかくなる。
「アル教えて。なんで泣いてたの」
昨日も、こうやって触られた。相手はヤードだった。
あの時は何も思わなかった。本当に何も感じなかったのに、シリウスに触られると言葉では言い表せないくらい安堵している自分がいる。
今の今までどう説明しようかと心が重たくて仕方がなかったのに、こうやって触れられるだけで軽くなるのだから僕は僕が思った以上に単純なのかもしれない。
頬に触れる手があたたかくて、ずっとこの温度が欲しかったんだと僕は無意識にその手に頬を擦り寄せた。のに、今まで柔らかかった手に力が入るのを感じて視線を上げるとそこにはすとん、と表情を無くしたシリウスがいた。
「シリウス」
「誰」
「ぇ…?」
「アルにこれつけたの、誰」
頬に触れていた手が離れて首筋に降りる。
昨日の夜鏡で見た位置に指先が触れ、低い声が鼓膜を震わせた瞬間、喉がひゅっと鳴った。咄嗟に口を開くけれど、そこから声は出なかった。なんて言えばいいのかわからなかったからだ。
ヤードは言ってもいいと言っていた。だけど、僕が言えなかった。
名前を出せなかったんじゃない。シリウス以外に触られてしまったという事実が、どうしても口から出なかったんだ。
「……俺に言えない?」
温度の無かった声に少し穏やかさが乗った。
その言葉に首を横に振ったけど、やっぱり口から言葉は出なくて僕はシリウスの服を掴むことしか出来なかった。
「…アル、俺怒ってないよ」
「そ、れは、うそだ」
「うわあバレてる」
シリウスの指がまるで気に入らないとでも言うように僕の首に付けられた痕を擦る。皮膚が引き攣って少し痛いのに、それがシリウスから与えられているものだと思うと嫌な感じはしなくてそのまま受け入れた。
「──うん、怒ってないなんて嘘。本当はめちゃくちゃ怒ってる。でもアルには怒ってない」
「……」
「そんな目で見なくても本当。アルには怒んないよ。…だって泣いちゃうくらいには嫌だったんでしょ、これ」
シリウスの目が僕を貫く。嘘も誤魔化しも許さない強い光に、僕は頷いていた。
「じゃあ大丈夫」
目を細め、口角を上げてシリウスが笑った。
その笑顔がいつもと違うなんてことは僕が正常だったら気が付けたと思う。だけど今の僕は正常ではなくて、一晩経って整理が出来たと思ったけれどそんなことは全然無くて、ずっと心の奥がさざなみが立ったように揺らいでいる。
不安と予想も経験もしたことがない体験への動揺がずっと拭い切れないでいる。
「よ、っと」
「!」
腰の下に手が入り簡単に足が浮く。
声を出す間もなくシリウスの足が動き出してベッドの方に向かうのがわかった。
「ま、待てシリウス」
「やだ」
「ちが、違うんだ、その」
シリウスが足を向けているのは自分のベッドだ。つまり、昨日僕が押さえつけられた場所でもある。
手首が痛んだ気がした。
「嫌だ…!」
シリウス以外の男が自分に馬乗りになった瞬間を思い出して全身から血の気が引く。
頭が瞬間的に真っ白になった。
「そっちは嫌だ!」
切実に訴えた瞬間、シリウスの足は止まった。けれど数秒とおかず再び動き出し一瞬の浮遊感のあと、背中を柔らかいものに押し付けられる。ふわりと立ち昇ったのはシリウスの香りだ。つまり今僕は、シリウスのベッドにいる。
「っ」
昨夜の己の無力さが鮮明に思い出されて息が上がる。
手首が痛くて、抵抗してもびくともしなくて、何も出来ない自分に嫌気がさした。いい友人だと思っていた人が、シリウスと同じ目で僕を見ていた。
「アル」
すぐそばで声が聞こえた。
「目開けて。今お前の前にいるのはだぁれ」
柔らかい、子供をあやすような声だった。
そう言われて初めて自分が目を閉じていたことに気がついた。ゆっくりと目を開けると、飛び込んで来たのは煌めく一等星。
「……シリウス」
「うん、俺。アルのシリウス・ルーヴだよ」
顔の横に肘をついて僕を閉じ込めている男が、これ以上ないくらい甘い顔をして僕を見ていた。胸焼けがしそうな程甘い顔なのに、僕はそれを全然嫌だなんて思わなくて、むしろそんな顔で見られているのが嬉しくもあった。
「…シリウス」
「はーい」
「シリウス、シリウス…っ」
「うん、ちゃんといるよ」
背中に手を回して抱きしめる。
昨日は呼んでも返ってこなかった返事が、今日はちゃんと聞こえる。
それだけのことなのに目の奥が熱くなって視界が滲む。そんな僕を見てシリウスが笑って、しょうがないなって顔で僕を撫でた。
額に、瞼に、頬に、そして唇に柔らかいキスが雨みたいに降ってくる。
それを嫌だなんて思わなかった。
どんな時だって、シリウスに触られることを嫌だなんて思ったことが無かった。
そんなことに僕はようやく気が付いたんだ。
「シリウス…」
「ん?」
こんな砂糖菓子みたいな甘い顔も声も嫌じゃない。いつも光を集めたみたいに輝いている目が、僕を見るときだけ甘くてとろりとした光を宿すのも嫌じゃない。
そんなシリウスが当たり前だった。僕の中でシリウスはいつだって僕にはこんな顔をしていた気がする。だからこれが特別なことだなんて気が付かなかったんだ。
だけどもう、気が付いてしまったから。
「……お前も、僕のことが好きなのか…?」
「………もって何」
「昨日言われた」
「空気! アルはもっと空気読んで! 今ここでそういうの言っちゃダメ!」
「じゃあいつ言えばいいんだ」
そういうとシリウスは深過ぎるほど深い溜息を吐いた。
体中の空気を全部抜いたんじゃないかってくらいの息を吐き切って、僕をじとりとした目で睨むように見る。
「…アルに一番最初に好きっていうのは俺だって決めてたのに」
「そんなの知らん」
「先越されたー!」
どさ、と僕の上に落ちてきたシリウスは重たい。でもその重たさも嫌じゃなくて、甘えるみたいに首筋に鼻先を擦り付けて来るのに思わず笑ってしまった。
「…ねえアル」
「なんだ」
「俺ね、大事に取ってたんだよ。好きっていうの」
首に息が掛かる。
「アルは素直だから、俺が好きだって言ったらきっと刷り込みで自分もそうなんだって、多分思い込んじゃうだろうなーって思って」
「そんな訳あるか」
「だから、俺から言うのはアルが自覚してからって決めてた。そうじゃないと意味ないって思ったから、ずっとずっとずーーーーーっと我慢してた」
むくりと顔が上がって視線が絡む。
「…もう俺はお前に好きって言っていいの?」
「……駄目なんて言ったことないだろ、僕は」
我慢しろとも言ってない。
肉食獣みたいな丸い目をぱちりと大きく瞬きさせてからシリウスは笑った。くしゃりと表情の崩れるその顔はまるで子供みたいでつられて僕も軽く息を吹き出すように笑う。
「それもそっか」
吐息みたいな声で吐き出して、シリウスの両手が僕の頬を包む。
「好きだよ、アル。世界で一番アルが大好き」
この世のどんなものよりも糖度を持った声で囁かれた言葉にきゅう、と心臓が痛んだ。
続きを求めるようにシリウスが僕を見つめている。僕のことなんて全部見透かしているような目に苛立ちを覚えないと言えば嘘になるが、いつかのシリウスの言葉を思い出して僕は観念したように息を吐く。
「…また僕の負けだな」
ぱちりと、一等星が瞬く。
そんなとぼけた顔を可愛らしいと思っている時点で僕の完敗だ。でも素直に言うのもやっぱり癪で、僕は出来るだけ無表情を装いながら口を開く。
「好きだ。腹立たしいけど、僕はお前のことが好きみたいだ」
「、……、ねえこれ素直に喜んでいいの⁉︎」
「いいに決まってるだろ。喜べ」
「横暴!」
眉を寄せあからさまに『不満です』という顔をしたシリウスが掠めるように僕の唇を奪う。
「…でもそういうところも好き」
「そうか」
「ねえ反応!」
「これでも浮かれてる」
「…ならいっか…」
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