83 / 141
第五章
独り言ですが。
しおりを挟む
それから無言の朝食となったが、表情とは裏腹に心は緊張で駆け足になっていた。気になることは本当にたくさんある。けれどどうしても、リュシアンのことを思うと思考とは別でか体がそうなってしまうのだ。
今日会ったらどんな顔をするのだろうか。もしかして少しは優しくなってくれるだろうか。
そんな短絡的なことを考えながら一日を過ごしていたらあっという間に夜になった。
緊張が八割、期待が二割の状態でその時を待っていたのだが、期待は呆気ない程簡単に砕かれた。
「……」
空気が重たい。それこそ呼吸がし辛い程に。
その理由はやはりリュシアンで、彼は俺の前に現れてから一度も目を合わさないし、もちろん会話もない。時折エルダーと話しているが、そのほぼが耳打ちなため声も聞こえない。
二割とはいえ期待してしまっていた分、この吹雪のような冷たさがどんどん気分を重たくしていく。
やはり昨日のあれは夢で、首の痕は虫刺されか何かかとすら思いながら料理を口に運ぶ。ゴードンがこの場にいてくれたらと思うが、彼は今リオルの食事につきっきりらしい。
エルダーがそう独り言で言っていた。
「失礼する」
俺よりも早く食事を終えたリュシアンが、結局一度も視線をくれることもなく横を通り過ぎていった。
こんな状態で食事をして一体何の意味があるのだろうかと思いつつ、残っている料理を運びながらリュシアンがいた席を見る。食事は綺麗になくなっていた。
こんな状態でもリュシアンが食事ができていることに安堵しつつ、それからやや遅れて俺も完食した。
「今日も美味しかった」
「ゴードンにもそう伝えておきましょう」
食事が終わるとエルダーに連れられて館に戻る。ぱたりと扉が閉まると、エルダーが軽く咳払いをした。
そのわざとらしさに足を止めてエルダーの方を見れば、彼は朝の時と同じように明後日の方向を見ていた。
「独り言です。お部屋の鍵は、掛けない方がよろしいかと」
「? いつも掛けていないが」
「今日はいっそうそちらを意識していただけますと、いいかもしれませんな。いやなに、独り言です。独り言」
「? わかった」
「独り言ですがな」
昨日今日とエルダーの独り言の意味は何となくわかったが、今のは全くわからない。
彼は一体なにを俺に伝えたかったのだろうと思いつつ、寝る前には一応扉の鍵を確認した。うん、きちんと開いている。
そう頷いてからベッドに入り、目を閉じる。
眠り始めてどれくらい経っただろうか、ふと人の気配がして目を開けると側に誰かがいるとわかって目を見開く。けれどそれが誰かわかった途端、驚きと嬉しさが混ざった。
「リュシアン」
名前を呼ぶと暗がりの中でもリュシアンが笑うのがわかった。
※後書き
ここまで読んでくださってありがとうございます!
そしてそして!応援してくださる皆様のおかげで大賞ランキングが3位になりました……!
とんでもないことが起きている…。本当にありがとうございます!
本編はちょっともだもだターンが続きますが、きちんと終わりに向けて走っておりますのでご安心ください!
引き続きどうかお楽しみいただけますと幸いです!
今日会ったらどんな顔をするのだろうか。もしかして少しは優しくなってくれるだろうか。
そんな短絡的なことを考えながら一日を過ごしていたらあっという間に夜になった。
緊張が八割、期待が二割の状態でその時を待っていたのだが、期待は呆気ない程簡単に砕かれた。
「……」
空気が重たい。それこそ呼吸がし辛い程に。
その理由はやはりリュシアンで、彼は俺の前に現れてから一度も目を合わさないし、もちろん会話もない。時折エルダーと話しているが、そのほぼが耳打ちなため声も聞こえない。
二割とはいえ期待してしまっていた分、この吹雪のような冷たさがどんどん気分を重たくしていく。
やはり昨日のあれは夢で、首の痕は虫刺されか何かかとすら思いながら料理を口に運ぶ。ゴードンがこの場にいてくれたらと思うが、彼は今リオルの食事につきっきりらしい。
エルダーがそう独り言で言っていた。
「失礼する」
俺よりも早く食事を終えたリュシアンが、結局一度も視線をくれることもなく横を通り過ぎていった。
こんな状態で食事をして一体何の意味があるのだろうかと思いつつ、残っている料理を運びながらリュシアンがいた席を見る。食事は綺麗になくなっていた。
こんな状態でもリュシアンが食事ができていることに安堵しつつ、それからやや遅れて俺も完食した。
「今日も美味しかった」
「ゴードンにもそう伝えておきましょう」
食事が終わるとエルダーに連れられて館に戻る。ぱたりと扉が閉まると、エルダーが軽く咳払いをした。
そのわざとらしさに足を止めてエルダーの方を見れば、彼は朝の時と同じように明後日の方向を見ていた。
「独り言です。お部屋の鍵は、掛けない方がよろしいかと」
「? いつも掛けていないが」
「今日はいっそうそちらを意識していただけますと、いいかもしれませんな。いやなに、独り言です。独り言」
「? わかった」
「独り言ですがな」
昨日今日とエルダーの独り言の意味は何となくわかったが、今のは全くわからない。
彼は一体なにを俺に伝えたかったのだろうと思いつつ、寝る前には一応扉の鍵を確認した。うん、きちんと開いている。
そう頷いてからベッドに入り、目を閉じる。
眠り始めてどれくらい経っただろうか、ふと人の気配がして目を開けると側に誰かがいるとわかって目を見開く。けれどそれが誰かわかった途端、驚きと嬉しさが混ざった。
「リュシアン」
名前を呼ぶと暗がりの中でもリュシアンが笑うのがわかった。
※後書き
ここまで読んでくださってありがとうございます!
そしてそして!応援してくださる皆様のおかげで大賞ランキングが3位になりました……!
とんでもないことが起きている…。本当にありがとうございます!
本編はちょっともだもだターンが続きますが、きちんと終わりに向けて走っておりますのでご安心ください!
引き続きどうかお楽しみいただけますと幸いです!
2,580
あなたにおすすめの小説
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる
路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか?
いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ?
2025年10月に全面改稿を行ないました。
2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。
2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。
2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。
2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。
田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる