【完結】婚約破棄を言い渡した王子は悪役令嬢の兄に執着される

白(しろ)

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第六章

茶でも飲みましょう

「いや悪い悪い! つい市場で買い物に行ったら時間食っちまって……どうした? すげえ顔色してんぞフィル様」
「いや、大丈夫だ」
「大丈夫って顔色じゃねえよ。エルダー様呼んでくるか?」
「大丈夫だ。今、エルダーはリオルのところにいるから」

 両手で麻袋を抱えたゴードンが俺を見て眉を寄せている。心配を掛けているのが忍びなくて無理矢理口角を上げると、ゴードンはそれ以上は何も言わなかった。
 その気遣いに感謝しつつ、厨房のテーブルにゴードンが買ってきた食材を並べる。様々なフルーツや野菜が並び、その中の一つをゴードンが手に取った。

「フィル様、俺ぁこれを剥いとくからそいつら片付けといてくれ。んで綺麗になったら茶でもしましょうや」
「え」

 ナイフを片手に気さくに笑ったゴードンが俺を見る。

「せっかくエルダー様のいない日なんだからよ、ちょっとくらい羽目外したって構わねえよ。あんた甘いもん好きだろ?」

 これがゴードンなりの励まし方だと分かり少し申し訳なくなる。
 けれど今日はその言葉に甘えようと思って頷くと、ゴードンが歯を見せて笑った。

「よっしゃ。そんじゃ片付け頼むぜ」
「ああ、わかった」

 ここでの生活が長くなり厨房に入る回数も多くなったおかげで、大体のものの配置を覚えられるようになった。
 フルーツや葉物はすぐ使えるように厨房の中。保存が効くものは厨房の外にある保管室に持っていくようになっている。

「保管室に持って行ってくる」
「おー。迷子になるなよ!」
「ならない」

 ゴードンの声はなぜか聞いていると元気が出る。
 残りを袋に入れて厨房を出て、それから保管室に向かった。エルダーは俺が見習いのようなことをするととても渋い顔をする。もしここに彼がいたら、きっと烈火の如き勢いで俺を止めるだろう。

 初めて会った時の言葉のまま、エルダーは俺を客人扱いしてくれる。それに対してゴードンはすっかり身内のような扱いだ。この差が面白くて好きなのだが、それを言葉にしたらまたエルダーが渋い顔をしたのを思い出した。
 そんなことを思いながら野菜を保管室に置き、空いた袋は厨房に持って帰る。時間にして十分も経っていないけれど、戻った頃にはもうゴードンは椅子に座っていた。

「お疲れさん。ありがとうな」
「構わない。……紅茶を淹れたのか?」

 テーブルにあったのは綺麗にカットされたフルーツの他にも飲み物があった。白いカップの中でほのかに色づくそれは紅茶に見えるが、香りが違う。

「これはハーブティーだな」
「ハーブ? ゴードンが?」
「これでも食の探究者だぜ俺は。ハーブくらいちょちょいのちょいよ」
「多才だな」

 得意気な姿に少し笑ってゴードンの向かいに腰を下ろす。
 紅茶とは違った独特の香りがするが、気分が落ち着くいい匂いだった。

「、甘いな」
「蜂蜜を入れてる。あったけえの飲んだらほっとするだろ」

 そう言いながらフォークで果物を刺し、それを口に入れる。小気味のいい音がして食欲をそそられ、俺もフォークに手を伸ばした。

「美味いな。今が旬なんだろうか」
「旬はもうちょっと先だな。けど放っておいても熟すやつだから、何日か置いたらパイにしようと思ってよ」
「……ゴードンは本当に見かけによらないな」

 思わず溢れた言葉にしまったと視線を泳がせたが、すぐにゴードンの視線が顔に突き刺さった。失言だったなと軽く咳払いして「すまない」と伝えればゴードンが鼻を鳴らす。

「まあ間違っちゃいねえけどな! 元傭兵が次期公爵様の料理人なんて似合わねえし」
「そんなことはないが……。そういえばどうしてゴードンは料理人に? エルダーに拾われた後に修行でもしたのか?」
「んや、元々料理がしたかったんだ俺は」

 カップの縁部分を指で掴み、ず、と音を立ててハーブティーをすすったゴードンを見て目を瞬かせた。

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