ただいま

越知 学

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1章

3話

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 母に対して言葉をぶつけてしまった翌日の朝。僕と母は同じ空間にいるも、お互い顔を合わせず、黙々と自分の支度を進めていた。気まずいという言葉が可愛く思えるくらい、陰鬱な雰囲気だった。
 いつもの癖で台所に弁当を取りに行こうとするが立ち止まる。昨日の今日であるため、さすがに今回は作ってないだろうと思った。
 確認するようにそっと台所を覗いてみる。そこにはぽつんと当然のように弁当箱が置かれていた。母は弁当を作ってくれていたのだ。あんなことを言った僕のために……。
 しかし、僕は弁当箱を持っていくときに必ず言っている「今日もお弁当ありがとう」という言葉を言わなかった。それを言えば、きっと返答が来て、またいつものように話ができると分かっているのに。
 ……自分の頑固さに嫌気がさす。
 僕は「行ってきます」も言わずに、逃げるように家を出た。

 いつもと特に変わりない授業を終え、学校を後にすると、僕は近くの公園に立ち寄った。梅雨の時期に起きたあの出来事から、考え事をするときにはいつもその公園のブランコに乗り、一人の時間を作っていた。
「家に帰りたくないな」
 そう思いながら公園の入り口に辿り着くと、一人でブランコを勢いよく漕いでいる少女が目に映った。地面においてあるランドセルを見るに、おそらく小学生なのだろう。
 ……僕以外にこの公園の利用者がいたのか。
 当然と言えば当然だが、僕が来るときはいつも一人であるため、その感覚を忘れていた。
 僕は幼い子に「そこ俺の場所だからどいてくれない?」というどこかのガキ大将みたいな発言はもちろんしない。いや、そもそも高校生である僕から小学生、しかも女の子に声を掛けるというのは、ちょっと危ない気がする。いろんな意味で。
 僕は仕方なく、最後に誰が座ったかも分からないくらい砂まみれのベンチを手で軽く払い、座った。
 そして昨日の言葉を思い出す。僕が我慢できずに放ってしまった言葉。母はそれを聞いたときどうして何も言わなかったのだろう。
 何も知らないくせに偉そうなことをいう僕に呆れたのだろうか?
 それとも痛いところを突かれて返す言葉が無かったのだろうか?
 ……どちらにせよ、母とはそれ以来口を利いていない。空気は読めても、相手の心までは読めない僕に母の考えを知ることはできない。
「僕はどうすれば良かったのかな」
 オレンジ色に染まった空に問いかける。誰も答えてはくれない。
「はぁ」
 溜息をつくと、それまで全く感じていなかった眠気に急に襲われ、ゆっくりと瞼を閉じた。
 前日の後悔を胸に秘めながらーー。
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